ミドシップ配置は、運動性能を極限まで追求したスポーツカーの証です。エンジンをリアアクスルの前、つまり前輪と後輪の間に搭載することで、前後の重量配分がほぼ均等になり、旋回時の安定性と応答性が劇的に向上します。F1やランボルギーニなどのハイパーカーが採用する理由はここにあります。市販4WDスポーツカーでミドシップを採用するトヨタGRセリカは、世界的に見ても極めて稀有な存在となる見込みです。
この配置により、前輪が舵を取り、後輪が駆動力を伝える従来のエンジン前方配置よりも、ドライバーの操作意図に忠実な走行性能を提供できます。また、ミドシップはコーナリング時のロールが少なく、サーキット走行での限界性能も大幅に向上します。
GR-FOURは、GRヤリスやGRコロラに採用された電子制御4WDシステムの最新版です。前後の駆動力配分を瞬時に変更でき、「ノーマル」モード(60:40)では日常走行の安定性を、「スポーツ」モード(30:70)ではドリフト風の後輪駆動寄りの楽しさを、「トラック」モード(50:50)ではサーキット走行に最適化された特性をそれぞれ実現します。
さらに、前後のトルセン式LSD(リミテッド・スリップ・デフ)を装備することで、路面状況の急激な変化にも瞬時に対応。従来のセリカGT-FOURが機械式センターデフを採用していたのに対し、電子制御によるGR-FOURはより正確かつ瞬時なトラクション配分が可能になっています。雨天や雪道での走破性から、ドライサーキットでのスポーツ走行まで、一台で幅広い走行シーンに対応できる万能性が特徴です。
GRセリカに搭載される2.0L直列4気筒ターボエンジン「G20E」は、トヨタが2024年に発表した次世代パワーユニットです。従来の2.4Lターボエンジンと比較して、体積と全高ともに10%削減しながら、400ps超の出力を実現する画期的なエンジンです。この高出力を2.0Lという排気量に詰め込むには、可変ジオメトリー機構付きの大型ターボチャージャー、鍛造ピストンと強化コンロッド、大容量インタークーラーなど、最新の強化技術が盛り込まれています。
トヨタ中嶋副社長は「縦にも横にも置ける汎用性が高いエンジン」と述べており、ミドシップマウントにも最適化された設計となっています。2028年に予定されている欧州のユーロ7という厳しい排出ガス規制にも対応済みで、環境配慮と高性能の両立を実現しています。
新型GRセリカは、1986年にデビューした初代セリカGT-FOUR(ST165型)の精神を継承します。セリカGT-FOURは世界ラリー選手権(WRC)で活躍し、4WDスポーツカーの先駆者として多くのエンスージアストに愛されました。当時のセリカGT-FOURは高級スポーツというコンセプトで設計され、単なる高性能マシンではなく、上質さと速さを両立させたクルマでした。
その後、ランサーエボリューション、インプレッサの登場により、武闘派のイメージが強まりましたが、新型GRセリカは原点の「ラグジュアリーなスポーツ」という方向性へ立ち返ります。ミドシップ4WDという新しいレイアウトで、セリカの伝説を現代版として蘇らせるわけです。
市場では、ホンダが新型プレリュード、スバルがBRZの後継モデルを開発中です。しかし、GRセリカのミドシップ4WDという組み合わせは、世界的に見てもきわめて稀有です。高級スポーツカーの領域では、ランボルギーニやフェラーリといったイタリアンブランドがミドシップを独占してきました。そこにトヨタが400馬力級のコンパクトなターボエンジンとGR-FOURの先進制御を組み合わせることで、新たなセグメントを創造しようとしています。
予想価格の800万~1000万円という帯域は、プレミアム2シーターのポジションを狙ったもの。日常の通勤から週末のサーキット走行まで、あらゆるシーンで活躍できるオールラウンダーとしての立場を確立する戦略と考えられます。GRセリカは単なる懐古的な復活ではなく、日本の自動車技術の最先端を体現するフラッグシップモデルとなる可能性を秘めています。
GRブランドの歴史と位置づけについては、トヨタの公式資料が詳しく解説しています。2017年の発足から現在までのGRシリーズの進化がわかります。
GR-FOURシステムの技術詳細については、トヨタガズーレーシングの公式ページで、各ドライブモードの駆動配分メカニズムが説明されています。