多くのドライバーがファスナー合流を「ずるい」と感じる背景には、深い心理的要因があります。渋滞中に本線をゆっくりと進んでいる状況で、合流車線の車両が自分よりも前方で合流することに対して「横入り」のような不快感を抱くのは自然な反応です。
この感情は「目的地に早く着きたい」「早く渋滞から抜けたい」という心理から生まれており、自分の車の前に他の車が入ることを損失として捉えてしまうことが原因です。実際に、本線を走行中に合流車を入れてあげた後、さらに先頭で合流する車を見て「ずるい」と感じた経験を持つドライバーは少なくありません。
しかし、この「ずるい」という感情は、ファスナー合流の本来の目的と効果を理解していないことから生じる誤解であることが多いのです。
ファスナー合流が渋滞解消に効果的な理由は、交通流の規則性にあります。従来の合流方法では、合流車両が加速車線のさまざまな地点から本線に合流するため、本線を走行する車両が予測困難なタイミングでブレーキを踏む必要がありました。
この不規則な合流パターンは、本線車両のブレーキ回数と減速度を増加させ、結果として渋滞を引き起こしたり悪化させたりする原因となっていました。例えば、車の並びが「本線・側道・側道・本線」のように不規則になるだけで、交通流が悪化することが確認されています。
一方、ファスナー合流では合流地点が明確に定められているため、本線車両は合流車両の位置を予測しやすく、無駄なブレーキ操作を減らすことができます。この結果、交通流がスムーズになり、渋滞の発生を抑制する効果が生まれるのです。
NEXCO中日本が名神高速道路の一宮JCT付近で実施した検証実験では、ファスナー合流の効果が数値として明確に証明されました。2019年11月からの2か月間で、交通量がほぼ横ばいであったにもかかわらず、渋滞による損失時間が約3割減少という驚異的な結果を記録しています。
具体的な対策として、東海北陸道から名神上り線への合流箇所にラバーポールを設置し、加速車線の先頭まで延伸することで物理的にファスナー合流を促進しました。この結果、渋滞区間の平均通過時間も約3分短縮され、ドライバーの「目的地に早く着きたい」という願いが実現されることが実証されました。
さらに注目すべきは、この効果が単発的なものではなく、継続的に観測されていることです。これは、ファスナー合流が理論的に正しいだけでなく、実際の交通状況においても確実に機能することを示しています。
興味深いことに、ファスナー合流に対する世間の認識は大きく変化しています。以前は「先頭まで行って合流するのはずるい」という意見が主流でしたが、現在では逆に「ファスナー合流しないのはずるい」という声が聞かれるようになりました。
この変化は、NEXCO各社による継続的な啓発活動と、実際の効果を体験したドライバーの口コミによる影響が大きいと考えられます。高速道路のマナーとして定着しつつあるファスナー合流ですが、完全に浸透しているとは言えない状況も残っています。
海外では、日本のファスナー合流の実践状況に対して「日本人はとても思いやりがある」「一番効率的」といった絶賛のコメントが寄せられており、世界的に見ても優れた交通マナーとして評価されています。
ファスナー合流を正しく実践するためには、いくつかの重要なポイントがあります。まず、合流車両は加速車線を最大限活用し、先頭まで進んでから合流することが基本です。途中での合流は交通流を乱し、渋滞の原因となるため避けるべき行為です。
本線を走行する車両側も、合流車両に対して適切な車間距離を保ち、1台ずつ交互に合流させる「譲り合いの精神」が重要です。ただし、NEXCO担当者が明確に述べているように、「渋滞していない場合は、ファスナー合流をする必要はございません」という点も理解しておく必要があります。
また、ファスナー合流は「進行を妨げないように合流」することが大前提であり、優先側の流れを無視した強引な合流は論外です。あくまで交通流の安定化を目的とした協調的な運転行動として実践することが求められます。
実際の運用では、合流地点での接触事故リスクを減らす効果も期待できるため、安全運転の観点からも推奨される合流方法と言えるでしょう。
高速道路の合流に関する詳細な情報とガイドライン
https://www.e-nexco.co.jp/news/activity/2021/1115/00010502.html
交通安全と渋滞対策に関する総合的な取り組み
https://www.c-nexco.co.jp/corporate/safety/