水平対向エンジンは、クランクシャフトを中心にしてシリンダーを左右水平に配置したレシプロエンジンです 。ピストンが左右に向かい合って動く様子が、ボクシング選手がグローブで打ち合う動作に似ていることから「ボクサーエンジン」とも呼ばれています 。この独特な構造により、エンジンは軸方向に短く、上下に薄いフラットな形状となり、「フラットエンジン」という別名もあります 。
参考)水平対向エンジン - Wikipedia
最も一般的な水平対向エンジンは、向かい合うシリンダー同士でピストンが180度位相で運動するボクサー型です 。現在、世界でこのエンジン形式を量産しているのは、日本のスバルとドイツのポルシェの2社のみという非常に稀少な存在となっています 。興味深いことに、この水平対向エンジンを発明したのは、メルセデス・ベンツの創設者であるカール・ベンツでした 。
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ポルシェの水平対向エンジンは、主に6気筒構成でリアに搭載される点が最大の特徴です 。現行の992型911では、3.0リッター水平対向6気筒ツインターボエンジンが搭載され、最高出力385ps、最大トルク450N・mを発揮します 。このエンジンは先代991型からのリファイン版で、ターボチャージャーの刷新やタービンの大径化により、よりスムーズな加速フィーリングを実現しています 。
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ポルシェの技術的特徴として、リアエンジン・後輪駆動(RR)レイアウトによる独特な重量配分があります 。この配置により、911特有の運動性能と走行フィーリングが生まれ、50年以上にわたって継承されてきた伝統的な設計思想となっています 。また、燃費効率も優秀で、992型では9km/L前後の実用燃費を実現し、使用方法によっては10km/Lをマークできる経済性も備えています 。
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スバルの水平対向エンジンは、主に4気筒構成でフロントに搭載され、AWD(4WD)システムと組み合わされる点が特徴的です 。現在のラインナップでは、FA型とFB型の2つの系統に分かれており、FA20/24は直噴ターボ、FB型は自然吸気エンジンとして展開されています 。FA系エンジンは先代EJ系の改良版という位置づけで、ボアピッチは113mmと共通化されながらも、より精密な設計が施されています 。
参考)https://www.esquire.com/jp/car/car-feature/a64284386/what-boxer-engine-is/
スバルの技術的進歩として注目すべきは、EJ系からFA系への移行で実現された構造改良です 。バルブ駆動方式が直打式からローラーロッカーアーム式に変更され、駆動方式もタイミングベルトからタイミングチェーンへと変更されました 。特にエンジンオイルのリターン流路が大幅に改善され、ヘッドから直接オイルパンへ落ちる設計により、EJ系で問題となっていたオイル溜まりが解消されています 。
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水平対向エンジンの最大のメリットは、低重心化による優れた走行性能です 。ピストンが横に寝ているため、エンジンの高さが低く抑えられ、車両の重心が下がることでコーナリング時の安定性が向上します 。また、対向位置にあるピストン配置により、V型6気筒のようにバランスが良く、振動が少ないという特性があります 。特に水平対向6気筒は、直列6気筒、V型12気筒と並んで最も振動が少なく、回転が滑らかなエンジンレイアウトとされています 。
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さらに、フロントエンジンの場合、ボンネットを低く設定できるため、運転席からの視界が広くなるという実用的なメリットもあります 。水平対向エンジンは直列4気筒より全長と全高を低く抑えることができ、安全性の点でも有利とされています 。音響面では、独特な「ボクサーサウンド」を奏でることでも知られており、縦置きエンジンでは前後の気筒で排気管の長さが異なることによって生じる振動的な排気音が、愛好家から親しまれています 。
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水平対向エンジンの最大のデメリットは、製造コストの高さです 。直列エンジンと比較して部品点数が多く、シリンダーヘッドを左右それぞれに用意する必要があるため、部品数が2倍になり開発コストが大幅に増加します 。構造上、横幅の広いエンジンになりがちで、トランスミッションやシャシも専用設計が必要となり、車両全体のコストアップにつながっています 。
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メンテナンス面でのデメリットも深刻で、水平配置されたシリンダーによりオイル漏れが起こりやすい構造的な問題があります 。別々のクランク、シリンダー、ヘッドが横に連結されているため、その間のガスケットからオイルがにじみやすくなってしまいます 。また、整備時のアクセス性が悪く、スパークプラグ交換などの定期メンテナンスでも工数がかかる傾向があります 。特に日本では取り扱いメーカーがスバルのみのため、専門的な知識を持つ整備士が限られ、メンテナンス費用が割高になることも課題となっています 。
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