縦置きエンジンは、クランクシャフトが車の前後方向に配置される形式で、最大の利点は左右の重量バランスを理想的に保てる点にあります。エンジンは車の中で最も重い単体部品であり、その配置位置によって車の運動性能が大きく変わります。縦置き配置では重量物を車体中心に近い位置にバランスよく配置できるため、コーナリング時の安定性が大幅に向上します。特にFR(フロントエンジン・リアドライブ)レイアウトでは、動力伝達装置を後方に配置できるため、前後の重量配分を理想的な50:50に近づけやすくなります。この重量配分の最適化により、ハンドリングだけでなく乗り心地にも好影響を及ぼし、高速走行時やカーブ走行時の安定感は抜群です。
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縦置きエンジンのもう一つの大きなメリットは、大型で長い多気筒エンジンを積みやすいことです。横置きエンジンでは車の横幅に制限があるため、直列6気筒エンジンなどの長いエンジンの搭載は困難ですが、縦置きでは全長方向にスペースを確保できるため、ボルボなど一部の例外を除き、直6エンジンを積む車はほぼ全車が縦置きを採用しています。車が大型化・高速化するにつれてエンジンの排気量や気筒数が増加してきた歴史があり、19世紀末から1970年代までは自動車のエンジンは縦置きが基本でした。エンジンを縦置きにすることで横方向にスペースが生まれ、排気管のレイアウトや他の車両部品の搭載にも有利に働きます。
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縦置きエンジンには、横置きエンジンで発生しやすい「トルクステア」という現象を防げるという重要なメリットがあります。トルクステアとは、左右のタイヤにかかる駆動力に差がある状態で、車が右か左にわずかに曲がろうとする現象です。これは左右のドライブシャフトの長さが異なることで発生し、長いシャフトは短いシャフトよりねじれが大きくなります。横置きエンジンの場合、右側に大きなエンジンがあり左側に小型のトランスミッションがあるため、右タイヤへのドライブシャフトが長くなりがちです。しかし縦置きエンジンではエンジンを車の中心線上に配置できるため、ドライブシャフトを左右同じ長さにしやすく、トルクステアが出にくい設計が可能です。これにより加減速時にハンドルが左右にとられることがなく、大パワー車に向いたレイアウトといえます。
参考)【エンジン】縦置きエンジンと横置きエンジンの違いって?
縦置きエンジン配置のもう一つの見逃せないメリットは、エンジンルーム内の横方向にスペースが確保できることで、サスペンションなど足回りの設計自由度が高まる点です。エンジンを縦置きにすることで横方向のスペースに余裕が生まれ、より高性能なサスペンション形式を採用できるようになります。この設計の自由度により、スポーツカーや高級車では力強くスムーズな走りを追求することが可能となり、理想的な選択となっています。また縦置きエンジンの場合、エンジンルーム内の振動が車内に伝わりにくいため、静粛性が高く快適な乗り心地を実現できるという利点もあります。
参考)エスクード(スズキ)「縦置きと横置きエンジンの違い」Qhref="https://minkara.carview.co.jp/car/suzuki/escudo/qa/unit109128/" target="_blank">https://minkara.carview.co.jp/car/suzuki/escudo/qa/unit109128/amp;A・…
縦置きエンジンは整備面でも一定のメリットがあります。エンジンルーム内に横方向のスペースがあるため、横置きエンジンと比較すると整備工具や手が入りやすく、メンテナンス性が良好です。一方で、縦置きエンジンはエンジンルームの前後方向に長さが必要となるため、車内の居住空間が狭くなる傾向があります。このため現代の軽自動車やコンパクトカーではスペース効率に優れた横置きエンジンを採用するモデルが大半となっています。またクラッシャブルゾーンの確保が難しいという安全面でのデメリットもあり、正面衝突時にエンジン本体が車内に押し込まれるリスクが横置きより高くなる可能性があります。
縦置きエンジンと横置きエンジンの詳細な比較解説はこちら
縦置きエンジンは主にFRレイアウトの高級セダンやスポーツカーに採用されています。国産車ではトヨタクラウン、日産スカイライン、トヨタ86、日産フェアレディZなどが代表的です。これらの車種では室内スペースよりも運動性能を追求した結果として縦置きが選ばれています。BMWは「駆け抜ける喜び」をテーマに、ほとんどのモデルで縦置きFRレイアウトと前後重量配分50:50にこだわって製作してきました。また特殊な例として、アウディA4など縦置きFFレイアウトを採用した車種も存在します。これはアウディが後輪にプロペラシャフトを伸ばすクワトロ(4WD)をメインに車を設計していることが理由と考えられています。スバルも水平対向エンジンを縦置きにして前輪を駆動する独自のレイアウトを採用しています。
縦置きと横置きエンジンの駆動方式別レイアウト比較はこちら
| 駆動方式 | エンジン配置 | メリット | 代表車種 |
|---|---|---|---|
| FR(後輪駆動) | 縦置き | 重量バランス最適、走行性能高い | クラウン、スカイライン、86 |
| FF(前輪駆動) | 横置き | 室内広い、コスト安い | カローラ、シビック |
| 縦置きFF | 縦置き | 4WD展開容易、トルクステア少ない | インプレッサ、アウディA4 |
| MR(ミッドシップ) | 縦置き/横置き | 重量配分理想的 | フェラーリ、NSX |
縦置きエンジンは走行性能を重視する中型車以上のモデルに採用されることが多く、直6やV8のような大型エンジンの搭載も可能となります。一方で横置きエンジンは室内空間の確保を優先する大衆車に向いており、日本の狭い道路事情ではコンパクトなFF車がマッチしているため、現在では横置きエンジン車が主流となっています。