直列エンジン並列エンジン違いとは?構造とメリット

自動車やバイクのエンジン形式で見かける「直列」と「並列」という表記。実は同じエンジン形式を指していることをご存知でしょうか?この記事では、直列エンジンと並列エンジンの違いや特徴、メリット・デメリットについて詳しく解説します。あなたの愛車のエンジン、本当に理解していますか?

直列エンジンと並列エンジンの違い

直列エンジンと並列エンジンの基本
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実は同じエンジン形式

直列も並列も、ピストンが一直線に並んだ同じ構造のエンジンを指します

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四輪では直列が主流

自動車業界では「直列」表記がほぼ標準となっています

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バイクでは表記が分かれる

二輪車ではメーカーによって「直列」「並列」の使い分けがあります

直列エンジンと並列エンジンは基本的に同じ構造

カタログやメーカーのウェブサイトで「直列エンジン」と「並列エンジン」という表記を見かけることがありますが、実はこの2つは基本的に同じエンジン形式を指しています。どちらもシリンダー(ピストンが上下運動する筒状の部品)が一直線に並んでいる構造で、1本のクランクシャフトを共有しています。

 

四輪自動車の世界では「並列◯気筒」という表記を使うメーカーやメディアはほとんどなく、「直列」表記が圧倒的多数です。一方、バイク業界では国産メーカーのうち、ホンダ・ヤマハ・スズキが「直列」、カワサキのみが「並列」の表記を使用しています。

 

この違いは単なる呼び方の違いであり、エンジンの基本構造に差はありません。ただし「並列」という表記には、直列エンジンを横置きに搭載しているという車体レイアウトまで含めた意味があるとされています。

 

直列エンジンの構造とメリット

直列エンジンは、シリンダーが一直線に並ぶシンプルな構造が最大の特徴です。このシンプルさから多くのメリットが生まれています。

 

まず製造コストの面で大きな優位性があります。シリンダーブロックやシリンダーヘッドを一体化して製造できるため、部品点数が少なく済み、V型エンジンや水平対向エンジンと比較して低コストで生産できます。カムシャフト(バルブを開閉させる部品)やこれを駆動するカムチェーンも1つで済むため、構造がシンプルで軽量化も実現しやすいのです。

 

メンテナンス性にも優れています。構造が単純なため整備時の手間が少なく、修理も比較的容易です。これは車両の維持費を抑えることにもつながり、コストパフォーマンスに優れた選択肢として多くの車種で採用されています。

 

また、直列4気筒以上であれば、振動を抑えるためのバランスウエイトを不要とすることが可能です。特に偶数気筒では1次偶力振動のキャンセルと均等爆発が両立でき、スムーズな運転が実現できます。

 

性能面では、排気系の取り回しが単純で排気干渉を容易に回避でき、クランク位相角次第で均等爆発にも不等間隔にもできる柔軟性があります。3気筒以下の場合は非常にコンパクトになり、小型車への搭載に適しています。

 

直列エンジンのデメリットと振動の課題

直列エンジンにはメリットが多い一方で、いくつかのデメリットも存在します。

 

最も大きな課題が振動の問題です。特に気筒数が増えるとクランクシャフトが長くなり、振動が発生しやすくなります。直列4気筒エンジンでは「2次振動」が問題となります。2次振動とは、ピストンが上下する速度の2倍の周波数で発生する振動で、ピストンが上に動く速度と下に動く速度が異なることで釣り合わずに生じます。

 

この2次振動に対しては、バランスシャフトと呼ばれる振動抑制装置の搭載が必要となり、これがコスト増の要因となることがあります。また、直列3気筒エンジンでは「1次偶力振動」と呼ばれる、エンジンを横から見たときに回転するような振動が発生します。これもバランスウェイトで抑制できますが、追加の対策が必要です。

 

レイアウト上の制約もあります。シリンダーが一列に並ぶため、多気筒エンジンでは全長が長くなり、エンジンルームの寸法やクルマのデザインが制約されます。バイクの場合は横置きエンジンで横幅が広くなってしまい、特に空冷エンジンではシリンダー間に空気を通す必要があるため、この問題が顕著になります。

 

近年では衝突安全性の観点から、エンジンルームに十分な衝撃吸収スペースを確保する必要があり、エンジンのコンパクト化が求められています。直列エンジン、特に直列6気筒のような長いエンジンは、これらの要求に応えることが難しい場合があります。

 

直列エンジンの気筒数による特性の違い

直列エンジンは気筒数によって特性が大きく異なります。それぞれの特徴を理解することで、自分の用途に合ったエンジンを選ぶことができます。

 

直列3気筒エンジンは、コンパクトさと経済性が魅力です。排気量1.0〜1.5L程度の小型車に多く採用され、部品点数が少ないため軽量で燃費に優れています。ただし、トルク変動が1.5次振動として残るため、アイドリング時や低速走行時に振動を感じやすい傾向があります。1次偶力振動も発生しますが、バランスウェイトで抑制可能です。
直列4気筒エンジンは、最も普及している形式で、バランスの良さが特徴です。1次振動は小さく、クランクシャフトが180°回転するごとに1気筒ずつ爆発する均等爆発により、スムーズな運転が可能です。ただし2次振動が大きいという課題があり、多くの車両でバランスシャフトが採用されています。高回転域で優れた性能を発揮し、スポーツ走行や高速走行に適しています。製造コストの低さとメンテナンスの容易さから、コンパクトカーからファミリーカーまで幅広く採用されています。
直列6気筒エンジンは、最もエンジン振動が少ない理想的な形式とされています。トルク変動は3次振動で、1次振動・2次振動・1次偶力振動のすべてが小さく、非常に滑らかな回転特性を持ちます。かつては高級車の象徴的存在でしたが、全長が長くなることやレイアウト上の制約から、近年では採用車種が減少しています。ただし、BMWやマツダなど一部のメーカーが直列6気筒エンジンの美点を再評価し、新型モデルに搭載する動きも見られます。

バイクにおける直列エンジンと並列エンジンの使い分け

バイク業界では「直列」と「並列」の表記が混在していますが、これには歴史的な経緯と実用上の意味があります。

 

二輪車の場合、エンジンが剥き出しで車体に対して大きく、エンジンと車体を同時に意識する必要があります。そのため、車体進行方向に対して横にシリンダーが並んでいる印象が強く、「並列」という呼び方が定着したと考えられています。

 

カワサキは現在でもカタログで「並列」の呼称を使用しています。例えばZ900RSのエンジンは「水冷4ストローク並列4気筒」と表記されており、これにはエンジン形式だけでなく、横置き搭載というレイアウト情報まで含まれていると解釈できます。

 

一方、ホンダ・ヤマハ・スズキは「直列」表記を採用しています。ヤマハのYZF-R7は「直列2気筒」、ホンダのCB1300スーパーフォアは「直列4気筒」と表記されています。この表記統一は国際的な標準に合わせたものと考えられます。

 

バイクにおける並列エンジン(横置き直列エンジン)のメリットとしては、シリンダーを前方に集中させられるため、フロント荷重を高めやすく、スポーツバイクに向いたレイアウトとなる点が挙げられます。また、V型や水平対向エンジンに比べてパーツ点数が少ないため、車体を軽くしやすく、車両価格を低く抑えられます。

 

ただし、4気筒などの多気筒エンジンでは横幅が広くなるというデメリットがあります。これは水冷化によって改善され、冷却を気にすることなくエンジンの幅を狭くでき、ジェネレーター(発電機)をクランクシャフトの横ではなくエンジンの背面に移動して横幅をコンパクトにする技術も開発されています。

 

直列エンジンと他のエンジン形式との比較

直列エンジンの特性をより深く理解するために、他の主要なエンジン形式と比較してみましょう。

 

V型エンジンは、シリンダーをV字型に配置したエンジンで、直列エンジンと比較してエンジン全長を短くできるメリットがあります。特に多気筒エンジンでコンパクト化が求められる場合に有効です。バイクではハーレーダビッドソンの45度V型やドゥカティの90度V型が有名で、シリンダー角によって乗り味が変わります。理論上90度はお互いの振動を打ち消すためスポーツバイクに向いていますが、それより狭い角度では独特の鼓動感を楽しめます。
ただしV型エンジンは、カムシャフト駆動機構が2つ必要になり、部品点数が増えて製造コストが高くなります。また、排気系の取り回しが複雑になるというデメリットもあります。

 

水平対向エンジンは、スバルやポルシェ、バイクではBMWが採用している形式で、ピストンが水平方向に対向して配置されています。重量物の位置が低く重心を下げられるため、安定性に優れ、振動も少ないという特徴があります。ただし、エンジン幅が広くなり、整備性が悪いというデメリットがあります。
直列エンジンは、これらの形式と比較して、製造コストと性能のバランスに優れているため、最も広く採用されています。特に低コストな中型やコンパクトクラスの量販車では、直列エンジンが圧倒的に多く使用されています。

 

直列6気筒エンジンは振動が少なくパワーも出しやすいレイアウトでしたが、クランクやカムなどに長さが必要で剛性確保が難しく、レイアウト的な制約もあるため、最近では少なくなっています。しかし、その滑らかさを求める声は根強く、一部の高級車やスポーツカーでは今でも採用されています。

 

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