直列6気筒エンジンは、6つのシリンダーが一直線に並んでいるエンジンで、シルキーシックスとも呼ばれる理想的な構造を持っています。最大の特徴は、シリンダーが直線状に配置されることで生まれる「完全バランス」設計です。
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クランクシャフトの位相は120度に設定され、1番と6番、2番と5番、3番と4番のピストンが同じ角度に配置されています。この配置により、エンジンの1次振動と2次振動が物理的に打ち消し合い、理論上は振動ゼロの状態を実現できます。
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構造面では、シリンダーヘッドが1つだけで済み、カムシャフトも1セットしか必要ありません。これにより部品点数が少なくなり、製造コストが抑えられ、整備性も向上します。ただし、エンジン全長が長くなるため、車両へのレイアウト制約が生じます。
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V6エンジンは2つのシリンダーバンクがV字型に配置されたエンジンで、一般的にバンク角は60度または90度に設計されています。構造上は直列3気筒エンジンを2つV型に組み合わせた形式と考えることができます。
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最大の利点は全長がコンパクトになることで、直列6気筒では困難な横置き搭載が可能になります。クランクシャフトも短くなり、高回転域での剛性確保に有利です。しかし、構造の複雑さからシリンダーヘッドが2つ必要で、カムシャフトも2セット必要になります。
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振動面では完全バランスにならず、特に2次振動や偶力振動が発生します。この対策として、多くのV6エンジンにはバランサーシャフトが装備され、エンジンの2倍回転で逆方向の振動を発生させて振動を打ち消しています。
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直列6気筒エンジンの音は「シュルルルル」「ヒュルルルル」という官能的で澄んだサウンドが特徴的です。これは完全バランス構造により、振動音成分が極めて少ないためです。加速時でも雑音のないスムーズなエンジン音が楽しめ、高回転域でも清澄な音質を保ちます。
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一方、V6エンジンは偶力振動による独特な音を発生します。加速時には「ブルルル」という振動音成分が混じることがあり、これは構造上避けられない振動が音に現れたものです。バランサーシャフトを使用しても完全には雑音成分を除去できません。
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実際の運転では、直列6気筒は低回転から高回転まで一貫してスムーズな加速感を提供し、振動によるストレスが極めて少ないのが特徴です。V6エンジンも静かなエンジンですが、敏感なドライバーなら振動の違いを体感できるレベルの差があります。
燃費性能では、V6エンジンが有利な場合が多くあります。これは摩擦損失の違いが大きな要因で、直列6気筒ではクランクシャフトの滑り軸受が7個必要なのに対し、V6は4個で済むため摩擦が少なくなります。
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出力性能においても、同様の理由でV6エンジンの方が優秀とされています。摩擦損失が少ないことで、特に低回転域でのレスポンスと加速性能でV6が有利になります。また、V6はエンジン全長が短いことで、クランクシャフトの剛性を高めやすく、高出力化に適しています。
しかし、直列6気筒には給排気系の設計で有利な面があります。排気管の取り回しが良く、触媒も1つで済むため、排気効率の面では優れています。また、振動が少ないことでエンジンマウントへの負担も軽減され、長期的な耐久性に優れているとされています。
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製造コストでは、直列6気筒の方が材料費と加工費の両面で有利です。ただし、現代の自動車設計では搭載性の制約から、実際にはV6エンジンが主流となっています。
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現在も直列6気筒エンジンにこだわり続けているメーカーは限られており、主にBMWとメルセデス・ベンツが代表的です。BMWはB58型3L直列6気筒DOHCターボを、メルセデス・ベンツはM256型3L直列6気筒DOHCターボエンジンを展開しています。
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BMWは「シルキーシックス」と呼ばれる直列6気筒の滑らかな特性を重視し、V6エンジンを採用せずに直列6気筒にこだわり続けています。この背景には、プレミアムブランドとしてのドライビングフィールへのこだわりがあります。
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近年、電動化技術の進歩により直列6気筒エンジンの復権が期待されています。電動アシストによりエンジンサイズの制約が緩和され、かつてのような長いエンジンでも搭載可能になる可能性があります。
日本では過去にスカイラインGT-RのRBエンジンや、トヨタのJZエンジンなど名機が存在しましたが、現在は規制と効率性の観点からV6エンジンが主流となっています。しかし、高級車市場では直列6気筒の復活への期待が高まっています。
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マツダが新たに6気筒エンジンの開発を発表するなど、今後の動向が注目されています。環境規制と性能のバランスを取りながら、直列6気筒エンジンがどのような形で復活するかが業界の関心事となっています。