スズキマイティボーイは、「金は無いけどマイティボーイ」という歌詞の流行により、今なお強烈な印象を世代に与えている名車です。1983年から1988年の5年間の生産期間にもかかわらず、その個性的なデザインと驚くほどの低価格は、若者世代に革新的な選択肢をもたらしました。
セルボの2代目をベースに、Bピラーより後方のルーフを切り取ったピックアップトラック構造は、商用車としてではなく、スタイリッシュで遊び心のある「スポーツピックアップ」として企画されました。初代アルトのような廉価な内装を採用しながらも、その独特なボディ形状は他の軽自動車には見られない唯一の存在感を放っていました。
当時の販売実績としては必ずしも成功したとは言えませんでしたが、旧車市場での高い人気と今なお根強いファンの存在は、マイティボーイが創り上げた「遊べる軽自動車」というコンセプトがいかに先進的であったかを物語っています。セルボをベースとしながらも、最も安価な価格帯を実現したその工夫は、当時の若年層にとって実現可能な夢の1台でした。
軽自動車の規制枠内で設計されたマイティボーイの荷台全長は、わずか660mmという極めてミニマムなサイズでした。最大積載量も200kgに制限され、純粋な積載能力ではベースのセルボに劣るという、軽トラックとしての実用性はほぼ皆無という特殊な性質を持っていました。
にもかかわらず、キャビン部分はセルボと同様の広さを確保し、乗用車的なドライビングポジションを備えていたため、若いカップルや個性的なライフスタイルを求める層にとって最高のパートナーとなりました。この徹底した個性追求は、「実用性よりもスタイルと価格」という、現代のような個性を重視する時代背景を先取りしていたのです。
当時の45万円という価格設定は、ベースとなったセルボの最廉価モデル58万円から大きく下回り、四輪車としては最も低価格という記録を樹立しました。この価格戦略により、スズキマイティボーイは「安いから買う」のではなく、「安くてあの形だから欲しい」という、新しい購買心理を創出したのです。
2015年に開催された第44回東京モーターショーで、スズキは「マイティデッキ」というコンセプトカーを発表し、スズキマイティボーイ復活への期待を大きく高めました。このモデルは、現代的なアーバンアウトドアをコンセプトに、都会と自然をシームレスに行き交う遊び心あふれるクルマとして企画されました。
マイティデッキは、セカンドシートのすぐ後ろに自動昇降式のオープンデッキを配置した4人乗りの設計となっており、セカンドシートを倒してデッキスルーすることも可能な高い実用性を備えていました。全体的に丸みを帯びたボディに三角形のヘッドライトを装備するデザインは、懐かしのマイティボーイへのオマージュとも言えるスタイリングでした。
パワーユニットには660cc直列3気筒ターボエンジンを搭載し、S-エネチャージと呼ばれる簡易型ハイブリッドシステムを組み込むことで、走りと燃費の両面で申し分のないスペックを実現していました。このコンセプトカーの高い完成度と市販化の噂にもかかわらず、スズキマイティボーイの現代版としての正式販売には至りませんでしたが、同時に復活への道筋を明確に示すものとなったのです。
もし復活するとすれば、スズキマイティボーイはどの車種をベースにして開発されるのでしょうか。当時セルボをベースとしたのと同様に、現行の軽自動車をベースとする可能性が最も高いと考えられます。現在のスズキラインナップを見ると、いくつかの可能性が浮上しています。
ハスラーをベースとした「ハスラーピックアップ版」は、軽SUVでありながらピックアップに改造可能というユニークな組み合わせを実現できます。一方、スズキマイティボーイの精神的継承者としてはアルトをベースとする案も根強く、当時のセルボとアルトの関係性を考えると、最も「らしい」復活の形態と言えるでしょう。
また、好調が続くジムニーをベースとしたオフロードピックアップ版も、時代のニーズにマッチした選択肢となり得ます。2019年に新型が発表され、予約が2~3年先まで埋まるほどの人気を誇るジムニーなら、派生車種としての需要も相当あると予想されます。さらに、軽トラックの革新という視点から、N-VANが商用バンに新しい可能性をもたらしたように、スズキマイティボーイも「小型ピックアップという穴場ジャンル」での復活も十分あり得るでしょう。
スズキマイティボーイの復活が現実化されない理由の一つは、当時と変わらず2人乗り車の商業的な難しさにあります。ただし、近年の軽自動車市場には「遊べる軽」という新しいジャンルが確実に形成されつつあります。ホンダのS660やダイハツのコペンといった軽スポーツカー、ジムニーやハスラーといった軽SUVの大成功、そしてN-VANがもたらした「遊べる軽バン」というコンセプトの広がりが、スズキマイティボーイ復活の土壌を着実に準備しているのです。
2018年度にはジムニー/シエラが「グッドデザイン金賞」(経済産業大臣賞)を受賞し、その設計の優秀性が評価されました。N-VANは車中泊を含めた遊び方の自由度で人気を集め、6段階手動トランスミッションの設定など、ラインナップの豊富さでも支持を得ています。こうした「遊べる軽自動車」への一定層の購買層の存在が、スズキマイティボーイのような個性的で遊び心あふれるクルマの復活可能性を確実に高めているのです。
ただし、現実の復活実現には、日本国内でトヨタハイラックスのようなピックアップトラックがヒットするか、あるいは一般ユーザーが軽トラックを積極的に趣味車として選好する市場環境の変化が不可欠です。かつてライフステップバンが販売したピックアップも販売が振るわず、スズキマイティボーイ当時もマイナーな販売実績に終わったように、この独特なジャンルの商業的成功には相応の市場基盤が必要とされているのが実情です。
「マー坊」としての知られざる人気の秘密について:ベストカー掲載の詳細な解説記事では、マイティボーイが昭和時代の若者文化の中でどのような位置づけにあったのか、また他の軽スポーツカーとの相違点について詳しく掲載されています。
スズキマイティボーイ復活の現実的な可能性については、複数のベース車候補と市場環境の分析を通じて、復活がなぜ実現されていないのか、そしてどのような条件下で市販化が可能なのかについて考察しています。