トヨタ・スープラの現行型(A90型)における最強グレードはRZです。2019年の発売以来、RZは3.0L直列6気筒ツインスクロールターボエンジン(B58型)を搭載し、スープラの伝統である「直列6気筒エンジン・FR駆動」を継承する唯一のグレードとして君臨してきました。
2024年11月、トヨタは現行スープラの生産終了を発表。同時に2025年春以降、特別仕様車『A90ファイナルエディション』を発売することが告知されました。この最終仕様こそが、スープラ最強の栄冠を手にする極限版となります。ファイナルエディションは、基本的なB58エンジンにさらなる改良を加え、最高出力を従来の387ps(285kW)から435ps(320kW)へアップ。最大トルクも500Nm(51.0kgf・m)から570Nm(58.1kgf・m)へと大幅に向上させています。
この出力向上の技術的背景には、吸気経路の見直しと低背圧触媒の採用、エンジン制御の最適化が挙げられます。より高効率な排気ガス処理を実現させながらも、排気圧力損失を最小化することで、純粋な出力向上を実現。その結果、加速性能とエンジンレスポンスの大幅な改善が達成されたのです。
スープラが「最強」たる所以は、単なる数字の大きさにとどまりません。その背景には、日本の自動車産業史における歴史的な転換点が存在するのです。
1980年代は日本の自動車メーカーが馬力競争を繰り広げた時代でした。1989年には日産Z32型フェアレディZとスカイラインGT-R(R32型)が300ps達成に競い合い、この勢いは自動車産業全体を揺るがすほどでした。しかし、この状況に心配した当時の運輸省は業界に対する行政指導を実施。各自動車メーカーは最高出力を280ps以下に抑える紳士協定を結ぶことになったのです。
この馬力規制の中で、スープラは1990年8月のマイナーチェンジで2.5Lツインターボ搭載車により280ps達成を実現させ、規制値の限界に到達。当時のスポーツカー市場において、この280ps上限値はブランド力を左右する大きなポイントでした。1993年5月にフルモデルチェンジしたA80型では、3L直列6気筒DOHCツインターボエンジン『2JZ-GTE』を搭載するRZ・GZ系が最高出力280psで登場し、大排気量ターボの最高峰として名高い存在となったのです。
時を経て2019年、17年ぶりにスープラが復活。BMWとの共同開発によって復活した新型スープラは、B58エンジンという最新型の直列6気筒ツインターボを採用しました。かつての規制値280psを大きく超えた387psの出力で、スープラの栄光はついに新しい時代へと突入したのです。
スープラの最強グレードRZの加速性能は、スポーツカーとしての真価を示す重要な指標です。現行型RZの0-100km/h加速タイムは4.1秒(8速ATモデル)を記録。これは同クラスのスポーツカーである日産フェアレディZ RZ34の4.5秒よりも0.4秒速く、世界的なスポーツカー市場でも競争力を持つレベルです。
最高速に関しても、RZは強力です。電子リミッターにより制限された最高速は250km/h。この数値は日本国内の公道での安全性を考慮した設定ですが、理論値としては308km/h程度まで到達可能とされています。つまり、スープラの最強グレードは、300km/hを超える限界性能を秘めた存在なのです。
エンジン出力だけでなく、その出力を駆動力に変換する仕組みも重要です。スープラRZには8速ATトランスミッション(一部モデルでは6速MTも選択可能)が搭載されており、ツインスクロールターボからの強力なトルク(500Nm)を効率よく路面に伝えています。
こうした性能を支える冷却系統も進化。ファイナルエディション では、ラジエーター冷却ファンの強化とサブラジエーターの追加により、高出力化に伴う熱負荷の上昇に対応。さらにディファレンシャルギアカバーの冷却フィンが大型化され、駆動系統の安定性も保障されています。
強大なエンジンパワーを持つスープラ最強グレードですが、そのパワーを安全かつ正確に制御するためのシャシー側の進化も見逃せません。ファイナルエディションではアクティブディファレンシャルの制御が最適化され、旋回中のアンダーステアを抑制。より意のままのハンドリング特性が実現されています。
ブレーキシステムも強化対象です。出力向上に伴う制動性能の需要増に応じ、ブレーキディスクやパッドなども対応仕様へと変更。サーキット走行やスポーツ走行時の信頼性が大幅に向上しています。
さらに興味深い点として、エンジンオイルパンにバッフルプレートが新たに追加されました。これはハイG走行時のオイルの偏りを防止するための工夫で、高コーナリング性能に対応させるための細かい配慮が施されているのです。
エアサスペンションも新設定で、シャシーセッティングが一新されました。これらの統合的な改良により、スープラ最強グレードは単なるハイパワー車ではなく、その力を正確にコントロール可能な先進的なスポーツカーとして完成度を高めているのです。
スープラの最強性能を語る上で、前身となるJZA80型(1993-2002年)の存在は無視できません。この世代の2JZ-GTE型エンジンは、自動車チューニング史上でも最高峰の改造潜在力を秘めたユニットとして伝説的な評価を受けています。
旧型スープラは、標準状態の280ps出力から、わずかなチューニングで600馬力を超える領域にまで拡張可能という驚異的な能力を持っていました。特に著名なのは、2001年にボンネビル・スピードトライアル(ユタ州の塩の大地)で、チューニング済みのスープラが249.292mph(約401km/h)という信じられない最高速記録を達成したという事実です。この「JUN AKIRA SUPRA」は、世界最強スープラとして今なお伝説的存在であり、日本国内でも完全公認の改造例として知られています。
このような高いチューニング性能の背景には、2JZ-GTEエンジンの優れた基本設計と、十分な内部強度が関係しています。排気量3L、直列6気筒のシンプルで洗練されたデザイン、そしてツインターボ化による圧倒的なポテンシャルは、多くのチューナーたちから絶大な信頼を獲得していたのです。
一方、2019年の新型スープラ復活では、BMW製B58エンジンが採用されました。このエンジンも直列6気筒ツインターボという基本構成は継承していますが、最新の排出ガス規制対応や効率性を優先した設計となっているため、旧型のような無制限なチューニング自由度とは異なる路線をたどっています。しかし逆に、標準出力やトルク特性は大幅に進化し、スタンダード状態での完成度はむしろ旧型を上回っているのです。
スープラの最強グレードRZの魅力は、単なるサーキット性能だけに留まりません。高速道路でのクルージング性能も高く評価されています。直列6気筒ツインターボという特性上、低回転域からのトルク特性が良好で、ハイウェイでの加速フィールは優雅で余裕を感じさせるものです。
しかし、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間は豹変。直6ターボが目覚め、獰猛な走りへと変貌するのです。この二面性こそが、スープラが「最強」かつ「優雅」であり続ける理由なのです。
また、直列6気筒エンジンの美しいサウンド特性も語り草です。2025年モデルのファイナルエディションでは、イタリアの高名なマフラーメーカー『アクラポヴィッチ』製のチタンマフラーが奢られ、迫力あるエンジンサウンドが実現されています。低回転での深い響きから高回転域での澄んだ高周波まで、直6エンジン特有の周波数特性が存分に引き出されるのです。
これは旧型JZA80スープラの時代、シーケンシャルツインターボの複雑な排気系統がもたらす音質的な制限から、大きな進化を遂げたポイントでもあります。シングルターボ化したチューニング車が美しい直6サウンドを得るのと同様の原理により、新型でも純正状態での音質が大幅に向上したのです。
最後に、スープラが世界的スポーツカー市場で選ばれ続ける理由として、2001年の映画『ワイルド・スピード』で主人公の愛車として抜擢されたことも見逃せません。この映画を機に、スープラ、特にA80型の知名度は世界的なものになり、今も多くの自動車ファンから愛されているのです。現行A90型スープラの最強グレードRZは、そうした伝統と最新技術を融合させた、まさに現代のスポーツカー頂点を象徴する一台なのです。

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