認知症と診断されても、サポートカー限定免許さえ取れば運転できると思っていませんか?
サポートカー限定免許は、2022年(令和4年)5月13日に施行された改正道路交通法によって新設された制度です。正式名称は「安全運転サポート車等限定条件付免許」といい、衝突被害軽減ブレーキ(対車両・対歩行者)とペダル踏み間違い時加速抑制装置の両方を搭載した普通自動車(サポートカー)に限定して運転を認める仕組みです。
この免許の根本的な目的は、「運転に不安を感じるが、生活のためにどうしても車が必要」という高齢ドライバーへの選択肢を増やすことにあります。免許証の条件欄には「普通車はサポートカーに限る」と記載され、AT限定のような扱いになります。
重要なのはここです。サポートカー限定免許は、認知症と診断された人でも取得できる「緩和措置」ではありません。医師によって認知症と診断された場合、道路交通法に基づいて免許の取消し・停止の対象となります。これはサポートカー限定免許であっても同じです。つまり、認知症の診断が下れば、どんなに安全なサポートカーに乗ろうとも、法律上は運転できないということです。
これが原則です。
この点を混同している方が少なくないため、特に注意が必要です。サポートカー限定免許はあくまで「認知機能は問題ないが運転技術に不安がある方」や「安全な車だけに限定して運転継続したい方」向けの制度です。
警察庁公式:サポートカー限定免許について(対象車両リスト・制度概要)
75歳以上のドライバーが免許を更新する際には、認知機能検査の受検が義務付けられています。この検査は「手がかり再生」と「時間の見当識」の2項目からなり、100点満点で採点されます。
検査結果が36点未満になると「認知症のおそれあり」と判定されます。36点という数字は、だいたい10個の記憶課題のうち数問しか正解できない水準です。この判定が出ても、即座に免許が取り消されるわけではありません。
「認知症のおそれあり」と出た場合は、専門医による臨時適性検査の受検か、医師の診断書の提出が必要になります。そこで医師が「認知症ではない」と判断した場合は、高齢者講習を受ければ通常の更新手続きを進められます。認知機能は問題ないということですね。
一方で、医師が「認知症である」と診断した場合は、免許の取消しまたは停止の処分が下ります。このとき、サポートカー限定免許への切り替えで救済される制度はありません。認知症と診断された時点で、サポートカー限定免許の申請も認められないのです。
| 認知機能検査の結果 | その後の流れ |
|---|---|
| 36点以上(認知症のおそれなし) | 高齢者講習を受けて通常更新 |
| 36点未満(認知症のおそれあり) | 専門医の診断 or 診断書提出が必要 |
| 医師が「認知症でない」と診断 | 高齢者講習後に更新可能 |
| 医師が「認知症」と診断 | 免許取消・停止(サポートカー限定免許も不可) |
なお、75歳以上で一定の交通違反歴がある場合には、さらに「運転技能検査(実車試験)」も義務付けられます。一定の違反とは、信号無視・速度超過・携帯電話使用など11種類です。この実技試験は何度でも受けられますが、期日までに1度も合格できなかった場合は、認知症の有無に関係なく免許更新ができなくなります。厳しいところですね。
警視庁:認知機能検査と高齢者講習(75歳以上の方の免許更新)
サポートカー限定免許を取得した後に見落としがちなのが、「どの車ならサポートカーとして認められるか」という問題です。ここに大きな落とし穴があります。
警察庁の定義するサポートカーとは、①衝突被害軽減ブレーキ(対車両・対歩行者の両方を検知)と②ペダル踏み間違い時加速抑制装置の両方を搭載した車両で、かつ国土交通大臣による性能認定を受けているものか、保安基準に適合しているものに限ります。
ここで重要なのが「後付けの装置は対象にならない」という点です。自分の愛車に後から自動ブレーキやペダル誤操作防止装置を付けても、その車はサポートカーとして認められません。サポートカー限定免許でその車を運転すると「免許条件違反」になります。
その罰則がこちらです。
友人の車を借りて運転した場合や、レンタカー・カーシェアを使う際も同様です。サポートカーに該当しない普通車を運転した瞬間に条件違反となります。「サポートカーか否か」の確認方法は、警察庁のサイトで公開されているメーカー別対象車両リストと、自分の車の車台番号(車体番号)を照合することです。確認は1度しておけばOKです。
対象メーカーは国産車でスズキ・スバル・ダイハツ・トヨタ・日産・ホンダ・マツダ・三菱、輸入車ではテスラ・ボルボ・BYDがリスト化されています(2026年3月時点)。ただし、同じトヨタでも古い年式や一部グレードは非対象の場合があります。購入前の確認が必須です。
「認知症になる前に免許を返納した方が安全」と考える方は多いでしょう。しかし、ここに多くの人が知らない重要なデータがあります。
国立長寿医療研究センター予防老年学研究部の調査によると、運転を中止した高齢者は運転を継続していた高齢者と比較して、要介護状態になる危険性が約8倍に上昇するというデータが報告されています。これは使えそうです。
さらに、運転を継続していた高齢者は、運転していなかった高齢者と比較して認知症のリスクが約4割減少するという報告もあります。ドライブすることは脳と体に良い影響を与えているのです。
これは考えてみれば理解できる話です。車を運転するという行為は、「見る・判断する・操作する」という複数の認知機能をフル回転させます。さらに、運転できることで「外出する・買い物に行く・人と会う」という社会活動が維持されます。免許返納によってこれらが一気に失われると、脳への刺激が激減し、身体活動量も大幅に低下するのです。
ただし、誤解のないよう補足します。認知機能が低下した状態での無理な運転継続は、交通事故の重大リスクになります。認知症のおそれがある状態では、75歳以上の免許保有者全体と比較して、死亡事故の件数が約3倍になるというデータもあります(日本老年学会報告書)。
つまり、「認知機能に問題がない段階では積極的に運転を継続し、問題が生じたら早めに対処する」というバランスが重要です。漫然と怖がって早期返納するのも、明らかな問題を無視して運転を続けるのも、どちらも正しくありません。
国立長寿医療研究センター:運転中止で要介護リスクが約8倍になるデータ
制度が始まって以来、サポートカー限定免許の取得者数が驚くほど少ない事実はあまり知られていません。2022年12月末(制度開始から約8か月)の時点で、全国でわずか14人しか取得していませんでした。これは想定外の数字ですね。
なぜこれほど普及しないのか。車好きの視点で考えると、構造的な問題が見えてきます。
まず費用の問題があります。サポートカーとして認定されるためには、2020年度以降に製造された車両で、性能認定または保安基準適合の先進安全装置を搭載している必要があります。つまり、多くの場合は車の買い替えが必須になります。安全装置付き軽自動車でも150万円前後の費用がかかり、ローンを組めば月々の返済が1万5千〜2万円程度になります。これは高齢者にとって決して小さな出費ではありません。
次に、メリットの薄さです。サポートカー限定免許に切り替えたからといって、認知機能検査や運転技能検査が免除されるわけでも、免許の有効期間が延びるわけでもありません。限定条件を付けてもメリットが少ないのが現実です。
そして、条件解除の難しさもあります。一度サポートカー限定免許を取得すると、解除するには公安委員会の審査(指定教習所での限定解除教習を受ければ実技審査は免除)が必要です。「気軽に元に戻せない」ことが、取得への心理的ハードルを上げています。
車好きにとって、安全装置が充実した最新サポートカーへの乗り換えは必ずしも悪い話ではありません。最新のトヨタ・プリウス、スバル・フォレスター、日産・ノートなどはサポートカー認定を受けており、走行性能も十分に満足できる水準です。サポートカー限定免許の取得を「最新安全技術車への乗り換え機会」として前向きに捉える視点も、1つの考え方です。
なお、サポートカー限定免許は年齢制限がなく、誰でも申請できます。普通免許を持っていれば、更新時でなくても無料で申請可能です。若いドライバーでも自分や家族の安全のために申請することは問題ありません。
Merkmal:サポートカー限定免許が日本で普及しない構造的理由の解説