日本の警察が運用する車両は、単純にパトカーという言葉でひとくくりにされることが多いですが、実は用途に応じて複数の種類に分けられています。最も一般的な無線警ら車は、日常的な街の巡回警備に使われるセダンタイプの白黒パトカーです。一方、交通取締用として配備されている高性能車両は、交通違反の取り締まりや高速道路での追跡活動に特化した特殊仕様となっています。
また、警察車両の購入方法は国費で全国的に統一される「国有パトカー」と、各都道府県の予算で独自に購入する「個別パトカー」の2つに分類されます。この違いが、全国で見られるパトカーの車種のバリエーションを生み出しています。警察業務の多角化に伴い、SUVやワゴンタイプの警察車両も増加し、災害対応や山間部巡回などの特殊任務に対応しています。
警察が全国規模で導入する国有パトカーには、厳格な仕様基準が定められています。無線警ら車の場合、エンジンの排気量は2.5リットルのNAエンジン相当が基準となっており、4ドアセダンが基本形式です。トランクは最低限450リットル以上の容量が必要とされ、犯人確保時の器材積載や訴求活動に備えた広い室内空間が求められます。
さらに、長時間のアイドリングや急加速・急ブレーキなど過酷な使用環境に対応するため、サスペンションの耐久性向上や撥水性に優れたシート表皮の採用など、市販車よりも耐久性を重視した改造が施されます。昇降機を搭載する際のルーフ強化、手動または自動でエンジン回転数を上げ維持できる機能など、通常の乗用車にはない専用仕様が標準装備されます。これらの基準を満たす車種として、トヨタ・クラウンが長年にわたって標準採用されてきました。
各都道府県が独自予算で導入する個別パトカーは、その地域の特性や交通状況に合わせた車種選定が可能です。高速道路用として導入される高性能車には、日産フェアレディZやスバルWRX STIといったスポーツカーが選ばれています。警視庁が配備した日産フェアレディZ NISMOは、加速力と高速安定性に優れ、高速道路での追跡活動に最適化されています。
埼玉県警の日産GT-R(R34)やマツダRX-7(FD3S)のような伝説的なパトカーも、県費で独自に購入された個別パトカーの代表例です。また、ホンダから寄贈されて栃木県警が運用した初代NSXも、スポーツカーが警察車両として活躍した稀有な事例として知られています。降雪地域ではスバル・レガシィB4の4WD仕様が採用され、悪路走行に対応した警察活動を実現しています。
近年、警察車両の多様化により、従来のセダン型だけでなくSUVやワゴンタイプの導入が急速に進んでいます。トヨタ・ランドクルーザーは、災害時の山間部巡回や悪路走破が必要な特殊場面で活躍する警察車両です。災害派遣任務にも対応するため、通常のパトロール車両よりも高い走破性が要求されます。
日産エクストレイルは、SUVながら都市部での取り回しの良さが評価され、都会の交通警察活動に適した警察車両として採用されています。特に雪国の警察署では四輪駆動モデルの需要が高く、降雪時の迅速な対応が実現されます。さらに環境への配慮から、トヨタ・プリウスのようなハイブリッド警察車両の導入も進められており、静粛性と燃費性能を兼ね備えた次世代型の警察車両として期待されています。
警察車両の見た目は一般の自動車と似ていますが、内部には多くの警察専用装備が搭載されています。最も特徴的なのが昇降機で、これは犯人の強制連行や容疑者確保時に使用される特殊装備です。その他、ストップメーター(速度取り締まり用)、サイレンアンプ、足踏み式サイレンスイッチなど、交通違反の取り締まりと緊急対応に特化した機材が装備されます。
ルームミラーは運転席用と助手席用に分かれており、後部座席の安全管理を強化しています。アクリル製の防犯板は一般のタクシーと同じく搭載され、容疑者からの防護に役立てられます。警棒の収納スペースや消火器の装備も標準的です。従来のビデオカメラに代わり、現代のパトカーにはドラレコが装着されるようになり、交通事故の事実認定や不当な警察活動の記録に対応しています。
興味深いことに、パトカーのエンジンが警察独自で「専用チューニング」されているという都市伝説が存在しますが、実際には警察自らが改造することはありません。高性能が必要な場合は、県費でスポーツカーを個別購入する方式が採られています。リミッター解除についても、警察側からの公式見解は発表されていません。
全国で運用される警察車両の整備は、一般競争入札で選定された整備工場やディーラーで行われます。これは年間契約制となっており、全国の警察署が効率的にメンテナンスを受けられる仕組みになっています。ガソリンスタンドについても同様の契約制度が採用されており、全国どこの警察署でも統一された整備基準に基づいたサービスが受けられるよう配慮されています。
国産車がパトカーとして採用される大きな理由は、この整備体制にあります。全国で部品の供給が安定し、修理が容易な国産車であれば、警察車両が常に稼働できる状態を維持することが可能です。コスト面でも輸入車より購入価格と維持費が抑えられ、税金を財源とする警察予算の効率化に大きく貢献しています。
警察車両の採用傾向は、2025年以降、環境配慮の流れを受けて急速に変わりつつあります。ハイブリッドカーや電気自動車の採用が進む可能性が高く、既に一部の自治体ではEV(電気自動車)パトカーの試験導入が行われています。電動化により、従来のガソリン車では実現できない静粛性能が獲得され、夜間の巡回活動や住宅地での警察活動がより効果的になると期待されています。
さらに交通事故抑止や取り締まりの高度化に合わせて、自動運転技術や最新の安全支援システムを備えた警察車両が増える見通しです。クルマとしての基本性能の向上だけでなく、AIを活用した犯人逮捕の効率化や、リアルタイム情報通信機能の強化など、警察車両の役割そのものが進化していきます。これまでのセダン中心の体制から、多様な用途に対応した警察車両の混在利用へとシフトし、より柔軟で効率的な警察活動が実現されるでしょう。
参考リンク:パトカーの仕様基準や標準採用車種について国有パトカーの仕様基準をまとめたリソース
パトカーの車種や種類を一挙解説
参考リンク:パトカー採用の背景にある整備性とコスト面での国産車選定理由を解説
パトカーに採用される国産車一覧