現在のところ、ホンダT880は「コンセプトカー」として位置付けられており、正式な市販化予定は発表されていません。2017年の東京オートサロンで初披露されてから、複数のメディア取材やイベント出展を通じて注目を集め続けています。一部の情報筋では2026年の年央での発売を予想する声もありますが、これは正式な発表ではなく、あくまで業界の予想に過ぎません。ホンダが軽トラック市場での存在感を再確立するための戦略として、今後の動向が注視される状況が続いています。
T880のパワーユニットは、ホンダ「バモス」用の660ccターボエンジンを採用し、通常の軽トラックでは実現困難なトルクフルな加速を可能にしています。トランスミッションには軽ミッドシップスポーツカー「ビート」に採用されていた5速MTを組み合わせることで、ドライバーの意図をダイレクトに反映した操作感を実現しています。この組み合わせにより、荷物が多い坂道でも失速することなく、安定した走行が実現します。インタークーラーをフロントエンドに移設するなど、実走行での性能を最大限に引き出す工夫も随所に見られます。
T880はアクティトラックをベース車両としながらも、外装の大胆なカスタマイズにより全く異なるキャラクターを獲得しています。オーバーフェンダーにより片側65mmの拡大を実現し、迫力あるワイド感を演出する一方で、キャビンルーフを150mmチョップすることで流れるようなロープロファイルシルエットを完成させました。さらに17mmのローダウンにより、スポーティな足つきを実現しています。ヘッドライトには昭和の旧車を彷彿とさせる丸型を採用し、1970年代のクラシカルなテイストと最新技術が見事に調和した唯一無二の外観に仕上げられています。
ホイールには「RSワタナベ」製の14インチスポーツホイールを装着し、ホワイトレター仕様のタイヤとのコンビネーションで、硬派ながらもスタイリッシュな印象を実現しています。空力向上のため、フロア下面をフラット化し、さらに「Modulo X」でも活用される空力パーツのフィンを追加するなど、見た目だけでなく実際の走行特性向上に向けた緻密な設計思想が反映されています。
T880の荷台設計は、従来の軽トラック概念を打ち破る工夫に満ちています。従来のサイドアオリ機構は廃止し、後部を観音開き式と通常のアオリ開きの2WAYオープンに変更することで、使用シーンに応じた柔軟な対応が可能になりました。観音開きにより、狭い路地や駐車場での荷物の積み下ろしが格段に容易になり、農業用途や配送業務での作業効率向上が期待できます。
荷台のスムージング化により、両サイドの開閉機構を廃止しながらも荷台容量はアクティトラック同様を確保している点は、設計の巧妙さを示しています。荷台フロア下面のフラットサーフェス化により、走行時の空力性能も向上し、燃費効率の改善にも寄与しています。また、下面には二重アンダーパネルを採用することで、車体剛性の強化と保護性能も兼ね備えており、長年の使用に耐える耐久性が確保されています。
T880を生み出したN Lab.（エヌラボ）は、ホンダアクセス従業員の有志約15名が自発的に集結したプロジェクトチームです。この組織の特徴は、従来の部門横断を超え、デザイン・メカニズム・製造に至るまで、全社員が垣根なく参加することにあります。コンセプト立案から完成まで約1年をかけ、1／4クレイモデルまで制作して細部にこだわり抜いた開発姿勢が窺えます。
通常の市販モデル開発とは異なり、ユーザーニーズの深掘りと社内の創意工夫を最大限に引き出すための環境が整備されました。「働くクルマはカッコいい」というコンセプトのもと、単なる見た目のカスタマイズではなく、走行性能向上やメンテナンス性向上まで視野に入れた総合的な設計が行われています。この開発姫験により獲得されたノウハウは、今後のホンダ軽商用車やカスタマイズパーツの開発にも活かされることが期待されています。
開発過程では、通常の軽トラックでは想定されないような部分にも工夫が施されています。例えば、メッシ・エンジニアリング分野で培われたレーシングカーのノウハウをも取り入れ、単に走行テストにとどまらず、栃木のホンダテストコースでの走行確認や本庄サーキットでのハイスピード走行試験も実施されました。これは、展示用コンセプトカーでありながらも、実際の販売を想定した真摯な開発姿勢の現れです。
T880の内装は、スポーティなコックピット設計を基本としながらも、実用性を損なわない配慮がなされています。専用のインストルメントパネルと指針式アナログメーター、メタルシフトノブなど、視認性と操作性の両面を高めた環境が実現されています。ヒップポイント（着座高）を-30mm低めに設定することで、重心の低さを強調し、より安定した乗り心地を実現しています。ステアリングホイール角度の適正化により、長時間の運転でも疲労が少ない操作環境が整備されています。
安全面では、ABS（アンチロックブレーキシステム）の標準装備に加え、将来的には衝突回避支援システムやバックカメラなど、最新の安全装備搭載が想定されています。特にリアビューの充実は、荷台を活用する際の死角を減らし、事故防止に直結する重要な装備です。視界に優れる多層ウィンドウ設計により、農道での悪条件下における視認性も向上させ、安全運転を支援しています。
現時点でT880は市販モデルではないため、正式な新車価格が設定されていません。しかし、業界予想として、安全装備の拡充や先進機能を踏まえると、新車価格は200万円前後（グレードによって199万円台から）との推測もあります。これは、ダイハツハイゼットトラック（約96万～155万円）やスズキキャリイ（約97万～142万円）といった競合モデルと比較すると、割高な水準となります。
しかし、ターボエンジンや5速MT、専用カスタマイズパーツを考慮すれば、プレミアム軽トラックとしてのポジショニングは正当化されるでしょう。旧型のホンダアクティトラック（約110万～130万円）の市場から撤退後、市場には軽トラック市場に革新性と個性を求めるニーズが顕在化しており、T880はそのニーズに応える候補として注目されています。
中古市場での相場は、アクティトラック4WDが過去数年で約80万円から95万円へと上昇傾向を示しており、希少性の高いN Lab.特別仕様車はさらに高値で取引される可能性が高いです。これは、ホンダの軽トラック市場への復帰期待と、個性的な車への需要の高まりを象徴しています。
T880は、外装のスポーティさに対比して、農業や配送、建設現場など、実務的な商用利用にも適した設計が施されています。荷台容量がアクティトラック同等であることは、既存ユーザーの運用資産を活かせることを意味します。660ccターボエンジンの搭載により、積載時の走行性能が大幅に向上し、特に勾配のある農道での走破性が改善されます。
5速MTの採用は、シフト操作の自由度を高め、エンジンブレーキの活用が容易になり、長距離輸送やオフロード走行での燃費節約が実現します。一部の動画では「農道のNSX」「農道最強マシン」という愛称で呼ばれるほど、パフォーマンスと実用性のバランスが評価されています。
リアディスクブレーキの採用は、積載時の制動距離を短縮し、特に下り坂での安定した制動性能を確保しています。これまでの軽トラックでは見落とされがちであった「止まる」性能への真摯な取り組みが、運転者の安心感と実務での信頼性を高めています。
2017年の東京オートサロン出展以来、T880は自動車ファンや軽トラックユーザーから一貫して高い評価を受け続けています。SNS上では「絶対に売れる」「これなら買う」といったポジティブなコメントが溢れており、正式な市販化を望む声は年々増加しています。この反応は、市場が単なる実用性だけでなく、「所有する喜び」や「個性の表現」を軽トラックに求めていることを示唆しています。
本庄サーキットでのメディア試乗や、複数のモーターショーでの展示を通じて、T880の高い走行性能とユニークなデザインは徐々に認知度を高めています。2019年の東京オートサロンでは、会場での同乗試乗会にも出展され、実際のユーザーが体験する機会も増えています。
ホンダが本格的に軽トラック市場に復帰する際の有力候補と見なされており、環境規制への対応やEV化への展望も踏まえた新型モデル開発の象徴として機能しています。市場調査やユーザーヒアリングの結果が、今後の正式発表につながる可能性は十分にあるでしょう。
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