スーパーオールホイールコントロール(S-AWC:Super All Wheel Control)は、三菱自動車が長年のモータースポーツ活動で培った4WD技術を基に開発した車両運動統合制御システムです。このシステムは4輪の駆動力や制動力をそれぞれ独立して電子制御し、最適な駆動状況が得られるように設計されています。
参考)S-AWC - Wikipedia
三菱自動車の開発思想である「AWC(All Wheel Control)」を高次元で具現化したもので、4輪のタイヤ能力をバランスよく最大限に発揮させることを目的としています。従来の4WDシステムが単に駆動力を配分するだけだったのに対し、スーパーオールホイールコントロールは「走る・曲がる・止まる」という車両運動を継ぎ目なく連続的に統合制御します。
参考)四輪制御技術(ブランド)
このシステムの最大の特徴は、ドライバーの操作と車両の挙動を車両各部のセンサーで検知し、走行状況に応じてリアルタイムで4輪を制御することで、意のままの走りを実現する点にあります。
参考)エクリプス クロス S-AWC(性能・特長)
スーパーオールホイールコントロールは、三つの主要なサブシステムで構成されています。第一に、前後輪間トルク配分を制御するシステムがあり、これは走行状況に応じて前後輪の駆動力配分をフリー状態から直結状態まで自在にコントロールします。
参考)【三菱】車両運動統合制御システムS-AWCの仕組みや効果とは…
第二に、左右輪間トルクベクタリングを行うAYC(アクティブヨーコントロール)があります。AYCは主に後輪の左右駆動力配分を制御し、旋回性能と安定性を向上させる役割を果たします。カーブ進入時にはAYCが積極的にヨー(車体の回転運動)を発生させることで、ドライバーの意図した方向へ正確に車両を導きます。
参考)アクティブヨーコントロール(AYC)とは|自動車用語を初心者…
第三に、4輪ブレーキ制御システムがあり、これはABS(アンチロックブレーキシステム)とASC(アクティブスタビリティコントロール)を統合したものです。ABSは急ブレーキ時のタイヤロックを防いで操舵性と制動力を確保し、ASCは横滑りや空転を抑制して車両の安定性を保ちます。
| システム名 | 役割 | 制御内容 |
|---|---|---|
| ACD(アクティブセンターディファレンシャル) | 前後トルク配分 | 走行状況に応じて前後輪の駆動力を最適化 |
| AYC(アクティブヨーコントロール) | 左右トルク配分 | 後輪の左右駆動力配分を制御して旋回性能を向上 |
| ABS | ブレーキ制御 | タイヤロックを防止して操舵性を確保 |
| ASC | 横滑り防止 | 車両の横滑りや空転を抑制 |
これらのシステムが連携することで、スーパーオールホイールコントロールはドライバーの意図を正確に読み取り、車両のヨー、ピッチ(前後方向の傾き)、ロール(左右方向の傾き)といったあらゆる動きを統合的に制御します。
現在、スーパーオールホイールコントロールは三菱自動車の主力SUVモデルに搭載されています。代表的な搭載車種として、アウトランダーPHEVとエクリプスクロスの2車種があります。
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アウトランダーPHEVは、2.4リッターエンジンと前後に配置された2基のモーターを組み合わせたツインモーター4WDシステムを採用しており、スーパーオールホイールコントロールと組み合わせることで、より緻密な制御を実現しています。2024年末のマイナーチェンジでは、駆動用バッテリー容量が20.0kWhから22.7kWhへと約10%増加し、EV走行換算距離は83kmから102kmへと飛躍的に伸びました。
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エクリプスクロスもPHEVモデルとガソリンモデルの両方にスーパーオールホイールコントロールを搭載しています。PHEVモデルはアウトランダーPHEVから継承したシステムを、エクリプスクロス用に制御を最適化したもので、2.4リッターのMIVECエンジンに前後1基ずつの高出力モーターを組み合わせています。
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これらの車種は、スーパーオールホイールコントロールによって、あらゆる路面状況で優れた操縦性と高い走行安定性を発揮します。
スーパーオールホイールコントロールは、雪道や悪路での走破性において特に威力を発揮します。三菱自動車の澤瀬薫博士が開発したAWC理論の根幹には、4WDでもドライバーの意図を裏切らない制御という思想があります。
参考)モータージャーナリストの中谷明彦がアウトランダーPHEVhref="https://www.webcartop.jp/2025/02/1549228/" target="_blank">https://www.webcartop.jp/2025/02/1549228/amp;ト…
雪道走行時、スーパーオールホイールコントロールは見事に狙ったラインをトレースします。これは4つのタイヤそれぞれが受ける垂直荷重と路面μ(摩擦係数)を掛け合わせた値から、各タイヤが発生できる摩擦力を計算し、それぞれのタイヤが持つ能力を最大限に使おうとする制御によるものです。
参考)【試乗インプレ】三菱自動車の新旧「デリカD:5」を雪上比較。…
実際の雪上試乗では、新雪が積もった過酷なコンディションでも高い安心感を発揮することが確認されています。旋回を繰り返してもステアリング操作に遅れが生じることなく、視線の動きと変わらず狙いどおりのラインに乗り続けることができます。
参考)【三菱自動車】 エクリプスクロスPHEVに搭載されるS-AW…
エクリプスクロスでは、「SNOW」「GRAVEL」「AUTO」といった3種類のドライブモードを運転者が任意に選択でき、駆動・制動の配分傾向を走行状況に応じて制御できます。SNOWモードは雪道の走行を想定したもので、GRAVELモードは悪路走行やスタック脱出性に優れるモードとして設計されています。
参考)【まるも亜希子の「寄り道日和」】オフロード走行で感じた「エク…
【試乗】やっぱり三菱の四駆はスゴイ! アウトランダーPHEV&トライトンの悪路走破性
北海道の特設雪路コースでの試乗レポート。スーパーオールホイールコントロールの実際の性能を詳しく解説しています。
スーパーオールホイールコントロールの旋回性能は、他の4WDシステムとは一線を画します。最大の特徴は、トラクション制御、旋回制御、安定性制御の3つを常に同時に計算して使用している点です。一般的な4WDの場合、状況変化に対してどれか1つを作動させることしかしないため、制御の切り替わりで違和感が生じることがありますが、スーパーオールホイールコントロールはシームレスな自然な車の動きを実現します。
パイロンに向けてステアリングを切り込んでいく場面では、スーパーオールホイールコントロールのON状態とOFF状態の差が顕著に現れます。ON状態ではアクセルの加減速で前後左右のボディの揺れは少なく、ステアリング操作に忠実で舵角がピタリと決まります。対してOFF状態だと前後左右の動きが大きく、舵の効きが遅くなってしまいます。
PHEVモデルでは、前後2モーターの電動化によるスーパーオールホイールコントロールにより、滑らかさとレスポンスの良さが向上し、より理想的な姿勢制御が可能になりました。旋回力の正確さはAYCによってフロントイン側のブレーキを軽くつまみ、リヤの追従性はACDで相対的に力を高めることで旋回力をサポートします。
高速直進時やレーンチェンジでも、車体が振られることなく安定した走行を実現し、旋回時は走行ラインが外に膨らまずイメージ通りのラインをトレースできます。これにより、ドライバーは先読み操作や修正を必要とせず、自然な運転に集中できるのです。
スーパーオールホイールコントロールは、他の自動車メーカーの4輪制御技術と比較してどのような位置づけにあるのでしょうか。日産の「e-4ORCE(イー・フォース)」は、4輪を個別に制御し各ホイールの動きを計算してコントロールする電動4輪制御技術です。前後に搭載した2基のモーターと4輪のブレーキを組み合わせて制御し、減速時も4輪すべてをバランスよく制動させて振動を軽減します。youtube
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ホンダの「SH-AWD(スーパー・ハンドリング・オール・ホイール・ドライブ)」は、前後輪と後輪左右の駆動力を自在にコントロールする世界初のシステムとして2004年に登場しました。制御幅や反応速度では機構的に優れており、電動モーターとの組み合わせで前後左右0-100%から100-0%までを一瞬で制御できる能力を持っています。
参考)『三菱のAYCとACDの4輪技術は日産のアテーサETSや..…
スーパーオールホイールコントロールの強みは、AYCやACDといった駆動系の制御に加えて、ABSやASCなどのブレーキ制御まで含めたトータルな統合制御機構にあります。ランサーエボリューションの時代から培われた技術であり、非常に高い安定性を実現しています。
参考)『三菱のAYCとACDの4輪技術は日産のアテーサETSや..…
特筆すべきは、PHEVモデルにおける前後2モーターの緻密な制御です。これにより、従来の機械的な繋がりで生じていた油圧の遅れや機械的緩衝による理想とのずれが解消され、滑らかでレスポンスの良い理想的な姿勢制御が実現されています。
三菱自動車公式:四輪制御技術(ブランド)
スーパーオールホイールコントロールの公式技術解説。開発思想や制御システムの詳細が掲載されています。
スーパーオールホイールコントロールは高度な制御システムですが、実用面ではどうでしょうか。アウトランダーPHEVのWLTCモード燃費は16.2~17.6km/Lで、エクリプスクロスのガソリンモデルは12.4~14.2km/Lとなっています。
参考)https://www.goo-net.com/compare/car1-10402031/car2-10402034/
PHEVモデルの大きな利点は、日常の移動ならほぼモーター走行だけでこなせるケースが増えることです。2024年のマイナーチェンジでアウトランダーPHEVのバッテリー容量が増加したことにより、EV走行換算距離が102kmへと伸びました。システム出力も約20%アップし、モーターの力が増したことでエンジンが始動する頻度も抑えられ、静かで快適なEV走行時間がより長くなっています。
参考)【2025年最新】アウトランダーPHEVの魅力を徹底解説!価…
スーパーオールホイールコントロールの制御によって、4つのタイヤのブレーキや加速力をそれぞれ独立してコントロールし、車の不安定な挙動を抑える技術が働きます。これにより、無駄な駆動力の消費を抑え、効率的な走行を実現しています。
参考)S-AWC|兵庫三菱自動車販売株式会社 西神戸店|兵庫三菱自…
運転支援機能も充実しており、2023年12月の商品改良ではマルチアラウンドモニター付きのスマートフォン連携ナビゲーション(8インチ)が全車に標準装備されました。運転席&助手席シートヒーターに加え、上位グレードでは後席シートヒーターも完備するなど、快適性への配慮も十分です。
さらに、スーパーオールホイールコントロールは単なる悪路走破性だけでなく、日常のドライブでも恩恵を受けられます。高速道路でのレーンチェンジや市街地でのコーナリングでも、車体の安定性が高く、疲労を軽減する効果があります。
自動車技術会:S-AWC技術解説
自動車工学の専門家による技術的な詳細解説。システムの原理や制御アルゴリズムについて詳しく説明されています。