アクティブヨーコントロール仕組みと旋回性能

自動車の旋回性能を飛躍的に向上させるアクティブヨーコントロールの仕組みについて、センサー制御からトルクベクタリングまで詳しく解説します。あなたの愛車にもこの技術は搭載されていますか?

アクティブヨーコントロールの仕組み

この記事のポイント
🎯
制御の基本

センサーがステアリング角、車速、旋回Gなどをリアルタイムで検知し、左右の駆動力を最適に配分します

⚙️
トルクベクタリング技術

左右の車輪に異なる駆動力を与えることで、車両にヨーモーメントを発生させて旋回性能を向上させます

🚗
走行安定性の確保

アンダーステアやオーバーステアを抑制し、あらゆる路面状況で安定した走行を実現します

アクティブヨーコントロールの基本原理とヨーモーメント制御

アクティブヨーコントロール(AYC)は、車両が旋回する際に発生するヨー運動を能動的に制御する技術です。ヨー運動とは、車両の重心を通る垂直軸を中心とした回転運動のことで、この動きが適切に制御されることで、ドライバーの意図通りの旋回が実現できます。
参考)アクティブ・ヨー・コントロール - Wikipedia

AYCの核となる技術は「トルクベクタリング」で、左右の車輪に独立して異なる駆動トルクを配分することで、車両にヨーモーメントを発生させます。例えば左カーブを曲がる際、旋回外側の右後輪に強い駆動力を与えると、その駆動力が車体を左に引っ張る力となり、車体には左回りのヨーモーメントが発生します。これにより、ドライバーがステアリングを切った方向への車両の向きの変化を助け、よりスムーズに曲がることが可能になります。
参考)アクティブヨーコントロール(AYC)とは|自動車用語を初心者…

三菱自動車が開発した初期のAYCシステムは、ステアリング角、速度、ブレーキ、旋回Gなどのセンサを基に後輪左右の駆動力移動を制御する仕組みでした。このシステムの特徴として、駆動力配分ではなく駆動力移動によりヨーモーメントを発生させているため、駆動が掛かっていない状態(アクセル切時)でも機能します。
参考)AYCとは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

アクティブヨーコントロールのセンサー技術と制御システム

AYCシステムが正確な制御を行うためには、車両の現在の状態をリアルタイムで把握する各種センサーが不可欠です。主要なセンサーには以下のものがあります。​
📊 センサーの種類と役割

  • ヨーレートセンサー:車両が垂直軸を中心にどれくらいの速さで回転しているかを検知します​
  • Gセンサー(加速度センサー):車両の前後方向(縦G)および左右方向(横G)の加速度を検知します​
  • 車輪速センサー:各車輪の回転速度を検知し、各車輪のスリップ状況や車両の速度を把握します​
  • ステアリング角度センサー:ドライバーのステアリング操作量を検知し、ドライバーの意図する進行方向を予測します​
  • アクセル開度センサー、ブレーキ圧センサー:ドライバーの操作意図を把握するために利用されます​

これらのセンサーからの情報はECU(電子制御ユニット)に送られ、複雑な演算が行われます。ECUは、車両の状態とドライバーの操作意図を比較し、適切なヨーモーメントを発生させるために、各車輪へのトルク配分やブレーキ制御の指示を出します。例えば、操舵角速度だけでなく、横加速度変化率を考慮して決定されることで、操舵角よりも立ち上がりの変化が大きい操舵角速度によりヨー運動の制御初期の応答性を確保できます。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2011163519A/ja

アクティブヨーコントロールのトルクベクタリング方式と駆動力配分

トルクベクタリングの実現方式は大きく分けて、機械的な構造を用いる方式とブレーキ制御を用いる方式があります。​
機械的方式の代表例が電子制御油圧多板クラッチ方式で、複数の摩擦板を油圧によって押し付け、その押し付け力を電子制御することで、左右輪へのトルク配分を連続的に変化させます。この方式は高速かつ正確なトルク配分が可能であり、様々な路面状況や走行状況に対応できます。カーブ進入時に駆動力を外輪に多く配分することで、車両を積極的に旋回させる「プッシュヨー」効果や、カーブ脱出時のトラクション性能向上に貢献します。
参考)トルクベクタリングとは|自動車用語を初心者にも分かりやすく解…

三菱自動車のスーパーAYCは、従来のAYCの内部構造を見直し、かさ歯車式から遊星歯車式に変更されました。それによって左右のトルク移動量を2倍に増大し、旋回性能とトラクション性能を高めることに成功しました。ランサーエボリューションVIIからは、新たに採用されたACDとの統合制御によってトラクションとコーナリング性能をさらに高めることが可能となりました。​
ブレーキ制御方式のAYC(トルクベクタリングバイブレーキ)は、既存の横滑り防止装置(ESC/VDC)の機能を拡張し、旋回内側の車輪にピンポイントでブレーキをかけることでヨーモーメントを発生させる方式です。この方式は低コストで実現できるため、幅広い車種に普及していますが、ブレーキを使用するため制動力を熱として放出し、積極的に車両を旋回させる「プッシュヨー」効果は期待できません。​

アクティブヨーコントロールの旋回性能向上効果と走行安定性

AYCの最も顕著な効果は、旋回性能の向上です。特にトルクベクタリング機能を持つAYCは、ドライバーがステアリングを切った方向へ、より積極的に車両を旋回させることができます。​
🎯 旋回性能向上のメカニズム

  • アンダーステア抑制:旋回内側の車輪にブレーキをかけたり、旋回外側の車輪に駆動力を増したりすることで、車両を内側に引っ張り込むようなヨーモーメントを発生させます​
  • オーバーステア抑制:旋回外側の車輪にブレーキをかけたり、旋回内側の車輪の駆動力を増したりすることで、車両が内側に巻き込みすぎるのを防ぎます​
  • 回頭性の向上:カーブ進入時にあえて外側の車輪に駆動力を強く配分することで、車両を積極的に内側に向けさせる「プッシュヨー」効果を実現します​

AYCは走行安定性も大幅に向上させます。雨天時や積雪路面、凍結路面といった低μ路では、タイヤのグリップ力が低下し車両が不安定になりやすくなりますが、AYCはタイヤのスリップを抑制し、車両の挙動を安定させます。急な障害物の出現など、緊急回避のために急ハンドルを切った際も、AYCは車両が横滑りしたりスピン状態に陥ることを抑制することで、ドライバーが車両をコントロールし続けられるよう支援します。​

アクティブヨーコントロールの電動化と将来技術

電気自動車(EV)の普及に伴い、各車輪に独立したモーターを搭載する「インホイールモーター」による新しいAYCの可能性が広がっています。各車輪にモーターが搭載されている場合、左右の車輪の駆動トルクを独立して、かつ極めて高速・高精度に制御することができます。​
モーターは内燃機関に比べてトルクの立ち上がりが早く、応答性も高いため、より高精度で瞬時のトルク制御が可能になります。左右のモーターのトルクをミリ秒単位で調整し、路面状況や車両の挙動に応じて最適なヨーモーメントを瞬時に発生させることができ、これは究極のトルクベクタリングとなります。ソフトウェアによる制御の自由度も高く、車両の特性やドライバーの好みに合わせてAYCの特性を変化させることも容易になります。​
自動運転技術の発展に伴い、AYCは自動運転システムの一部として、車両の安定した挙動を維持し、緊急時の回避操作をスムーズに行う上で重要な役割を果たします。自動運転中に突然の障害物を検知し、回避操作が必要になった場合、AYCは車両のヨーを適切に制御することで、最小限のGで安全な回避行動を支援します。悪天候や低μ路といった厳しい条件下での自動運転においても、AYCは車両の安定性を高め、自動運転の信頼性向上に貢献します。​
ホンダの高級ブランドであるアキュラ(Acura)のSH-AWD(Super Handling All-Wheel Drive)は、後輪の左右駆動力配分を積極的に制御するトルクベクタリング機能を持ち、特に旋回外側の後輪に多くの駆動力を配分することで、車両を内側に押し込むようなヨーモーメントを発生させています。スバルのアクティブトルクベクタリング(ATV)は、主に旋回内側の前輪にブレーキをかけることでアンダーステアを抑制し、車両の回頭性を高める機能で、WRX STIやレヴォーグなど、スポーツ志向のモデルだけでなく、一般の乗用車にも広く普及しています。​
AYCの概要と技術的特徴について、Wikipediaで詳しく解説されています
アクティブヨーコントロールの仕組みと種類、効果について、初心者にも分かりやすく専門的に解説しています