リミッターカットは車両やバイクの速度制限を解除する改造ですが、様々な深刻なデメリットが存在します。まず最も重要なのは、エンジンに対する過度な負荷です。リミッターはエンジンが設計上の限界を超える回転数で動作するのを防ぐために設置されています。これを解除するとエンジンの摩耗や故障を引き起こすリスクが高まります。
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次に保証と保険の問題があります。リミッターカットを行うとメーカーの保証は完全になくなります。さらに任意保険が適用されない可能性もあり、事故が発生した場合には数千万円の賠償責任を自己負担する事態に陥ることもあります。
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法的な側面では、車種によって違法性が異なります。トラックの場合はスピードリミッター解除が明確に違法となり、整備不良車として車検に通りません。一方で乗用車の場合は解除自体は違法ではありませんが、改造車両としての扱いを受けます。
参考)トラックのリミッター解除のリスクについて
燃費の悪化も見逃せないデメリットです。エンジンの回転数を上げることで燃料消費量が増加し、経済的な負担が増えます。
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リミッターカットによる最大のデメリットは、エンジン内部の部品に対する深刻な故障リスクです。エンジンは設計段階で想定された回転数の範囲内で最適に動作するように作られており、リミッター解除によってその範囲を超えると様々な問題が発生します。
参考)Z900RSのリミッター解除による最高速と走行性能の変化
具体的には、ピストンやコンロッドなどの重要部品に過度な負荷がかかります。特に点火時期や燃料噴射量の調整が不適切な場合、エンジンのノッキング(異常燃焼)が発生するリスクが高まり、最悪の場合はエンジン内部の深刻な損傷につながります。
高速走行時間が増えることで熱負荷も増大します。リミッター解除後は従来よりも高速・高回転での走行が可能になるため、エンジンの発熱量が増加し、冷却システムへの負担が大きくなります。過熱状態が続くとエンジンオイルの劣化が早まり、潤滑性能の低下によるエンジン内部の摩耗が加速します。
実際の事例として、外品のリミッターカットを取り付けた車両で接触不良によりエンジンが10000rpmで止まったり、不安定な動作が報告されています。エンジンの過剰な回転は各部の消耗やトラブルの原因となるため、リミッターカットは全て自己責任で行う必要があり、製造元も一切の責任を持たないとしています。
参考)ZXR400R M4 エンジン不調の原因調査でスピードリミッ…
リミッターカットを行った車両は、保険に関して極めて深刻な問題を抱えます。任意保険会社は、リミッターカットを改造行為とみなし、事故が発生した場合に保険適用を拒否する可能性が高いのです。
参考)https://www.syaken-signpost.com/wp/?p=2135
この問題の重大さは、事故の賠償責任が全て自己負担になる点にあります。人身事故や多重事故を起こした場合、賠償金額は数千万円から数億円に達することもあり、一生をかけて返済しなければならない事態に陥る可能性があります。
保険適用外となる理由は、リミッターカットが車両の設計仕様を変更する改造に該当するためです。保険契約時には車両が正規の状態であることが前提となっており、改造を行うことでその前提が崩れます。特に事故の原因がリミッター解除による高速走行と関連している場合、保険会社は支払いを拒否する明確な根拠を持つことになります。
トラックの場合はさらに深刻で、リミッター解除により高速運転が原因で事故が発生した場合、被害が甚大化する可能性が高くなります。高速での衝突はエネルギーが大きく、複数の車両が巻き込まれる大規模な事故になる可能性があります。
電動キックボードや電動自転車においても同様で、リミッターカットされた車両で事故を起こした場合、改造内容が発覚すると保険適用外となるリスクがあります。
参考)電動キックボード リミッターカットは可能?違法性と安全対策を…
リミッターカットの違法性は車両の種類によって大きく異なります。トラックの場合、道路運送車両法・保安基準で取り付け義務のある装置であるため、スピードリミッターが作動していなければ整備不良車の扱いを受けて車検に通りません。リミッター解除が発覚した場合は明確に違法となります。
参考)クロスカブ 50 リミッター カットのリスクと正しい選択肢 …
一方、乗用車の場合は状況が異なります。リミッター解除自体は現在の法律では明確に違法とは規定されていませんが、これはあくまで自主規制の範囲内の話です。車検の検査項目にはスピードメーターが40キロを指す時点での速度が一定範囲内であれば通るという基準があり、最高速度自体は検査対象ではありません。
参考)解除はなんと合法だった! 国産車登録車が「180km/hリミ…
しかし、車検に通るからといって問題がないわけではありません。リミッターカットは改造に該当するため、ディーラーに車検を出した際に入庫拒否される場合があります。また、原付一種(50cc以下)の場合は法定速度が30km/hに設定されており、この制限を超える走行ができるようにするリミッターカットは違法となります。
電動キックボードや電動自転車のリミッターカットは明確に違法行為です。道路交通法により排気量や車種ごとに速度制限が定められており、リミッターカットによって車両本来の仕様が変わると保安基準に適合しなくなります。速度が上がることでブレーキ性能が追いつかず、事故を引き起こすリスクが増す可能性もあります。
リミッターカットは車両の寿命を大幅に短縮させる要因となります。車両は設計段階で最高速度を基準として各部品の耐久性が計算されており、リミッター解除によって速度超過の状態で走行することは、その設計思想を無視する行為です。
エンジンへの負荷が継続的に増加することで、通常よりも早い段階で部品の交換が必要になります。エンジンオイルの劣化速度が速まり、ピストンリングやシリンダーの摩耗が進行します。また、高回転域での使用が増えることで、バルブスプリングやカムシャフトなどの動弁系部品にも過度な負担がかかります。
参考)『NHP10のアクアでリミッターカットするメリットってあ..…
駆動系や足回りにも影響が及びます。高速走行時のブレーキへの負担が増大し、ブレーキパッドやディスクローターの消耗が早まります。サスペンションやタイヤも想定以上の負荷を受け続けることで、本来の寿命よりも早く交換が必要になります。
興味深いことに、ノーマル状態で乗りっぱなしの車両と、改造してメンテナンスをバッチリ行う車両では、後者の方が寿命が長いというケースもあります。しかしこれはメンテナンス次第であり、リミッターカット後に適切なメンテナンスを怠れば、車両の寿命は確実に短くなります。
参考)JOGZRに乗ってます。リミッターカットするとやっぱり寿命は…
バッテリーへの影響も無視できません。電動車両の場合、リミッターカットによってバッテリーの消耗が著しく増え、充電サイクルが早まることで寿命が短くなります。
リミッターカットは個人の問題だけでなく、社会的信用を大きく損なうリスクを伴います。特に業務用車両でリミッター解除が発覚した場合、企業や運転者の信用が失われ、顧客からの信頼低下や業界内での評価低下につながります。取引停止や契約解除のリスクも発生します。
経済的なコストも増加します。まず燃費が悪化することで、燃料費が恒常的に増加します。エンジンの回転数を上げることで燃料消費量が増えるため、長期的には大きな経済的負担となります。
メンテナンスコストも上昇します。エンジンや駆動系部品の消耗が早まることで、オイル交換やパーツ交換の頻度が増加します。特にエンジン内部の重要部品が損傷した場合、修理費用は数十万円から数百万円に達することもあります。
保険料への影響も考慮する必要があります。改造車両として申告した場合、保険料が通常よりも高くなるケースがあります。申告せずにリミッターカットを行い、後に発覚した場合は保険契約自体が無効になる可能性もあります。
参考)「180km/hを超えろ!」スピードリミッター解除の今
リミッターカット作業自体にもコストがかかります。専門ショップでECUの書き換えやCPUチューニングを行う場合、数万円から十万円以上の費用が必要です。しかし、この投資に見合ったメリットが得られるかは疑問です。
公道だけの利用者にとっては、リミッターカットによるデメリットの方が圧倒的に大きいことが明らかです。サーキットなどで走る人には一定のメリットがあるかもしれませんが、その場合でも足回りなどの調整を行う必要があり、総合的なコストはさらに増加します。
国土交通省の自動車検査登録情報
https://www.mlit.go.jp/jidosha/kensatoroku/kensa/kns02.htm
一般社団法人日本自動車工業会の安全基準情報
https://www.jama.or.jp/