道路交通法第12条および第13条により、歩行者が横断歩道以外の場所を横断することは、特定の条件下では合法です。具体的には以下の条件をすべて満たす場合に限り横断が認められています。
横断可能な条件:
「付近」の定義については法律上明確な基準がありませんが、過去の判例では片側1車線道路の場合、横断歩道の端から外側に20~30メートル以内の場所とされています。この範囲内では横断歩道を利用する義務があり、違反すると「横断歩道外横断」として処罰の対象となります。
「車両の直前直後」についても法的定義は曖昧ですが、一般的には1メートル以内の距離を指すとされています。これは停車中の車両のすぐ前後から道路に進入すると、反対車線の車両や追い越し車両からの発見が遅れ、衝突の危険性が高まるためです。
興味深いことに、神奈川県警察の交通相談センターでは「幹線道路など2車線以上ある道路は歩行者が横断すること自体が禁止」と説明していますが、これは道路交通法の条文と矛盾しており、法的根拠に乏しい見解といえます。
自転車が横断歩道以外の場所を横断する際は、乗車状態と押歩状態で法的扱いが大きく異なります。
乗車時の扱い:
自転車に乗ったまま道路を横断する場合、道路交通法上「軽車両」として扱われます。これは歩行者とは異なり、車両としての交通ルールに従う必要があることを意味します。具体的には以下の点に注意が必要です。
押歩時の扱い:
自転車から降りて押して歩く場合は「歩行者」として扱われ、歩行者用の交通ルールが適用されます。この場合、前述の歩行者の横断ルールがそのまま適用されることになります。
自転車乗車時の横断で特に注意すべきは、車両の直前直後を横切る行為です。これは道路交通法第13条に違反する可能性があり、事故が発生した場合の責任が重くなります。
夜間の横断時にはライトの点灯が義務付けられており、これを怠ると道路交通法違反となります。また、横断中は車両の動きを常に監視し、危険を感じた場合は速やかに安全な場所に避難することが重要です。
横断歩道以外での横断は、横断歩道での横断と比較して事故リスクが格段に高くなります。警察庁の統計によると、車と歩行者の衝突による死亡事故の約7割が横断中に発生し、そのうち約7割が横断歩道以外の場所での事故です。
事故時の過失割合:
横断歩道外での事故では、歩行者や自転車にも一定の過失が認められるケースが多くなります。これは以下の理由によるものです。
特に自転車の場合、車両として扱われるため過失割合がより高くなる傾向があります。乗車時の横断では、歩行者と比較して20~30%程度過失割合が増加することも珍しくありません。
高齢者の事故リスク:
65歳以上の高齢者による横断歩道外横断事故は、65歳未満の約5倍に上ります。これは加齢による身体能力の低下と、意識と行動のズレが原因とされています。高齢者は横断に要する時間が長くなる一方で、車両の速度判断能力が低下するため、事故リスクが高まります。
また、「横断歩道まで歩くのが体力的に大変」「歩道橋の上り下りがきつい」といった理由で横断歩道外横断を選択する高齢者も多く、これらの行為は「乱横断」として問題視されています。
横断歩道以外の場所を安全に横断するためには、以下の安全確認方法を徹底することが重要です。
基本的な安全確認手順:
自転車特有の安全対策:
自転車での横断時は、以下の点に特に注意が必要です。
危険な横断パターンの回避:
以下のような危険な横断パターンは絶対に避けるべきです。
交通量の多い道路では、たとえ法的に横断可能であっても、安全性を最優先に考えて横断歩道や歩道橋の利用を検討することが賢明です。
運転者側にも、横断歩道以外の場所での歩行者や自転車に対する注意義務があります。道路交通法第38条の2により、交差点またはその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断している場合、その通行を妨げてはならないと規定されています。
運転者の法的義務:
一般的な注意義務:
特別な配慮が必要な場合:
道路交通法第14条5項および第71条により、以下の歩行者に対しては特別な配慮が義務付けられています。
これらの歩行者が横断している、または横断しようとしている場合、運転者は一時停止または徐行して、その通行を妨げないよう努める義務があります。
実践的な安全運転対策:
横断歩道での歩行者優先の徹底:
埼玉県警では、横断歩道での歩行者優先ルールを徹底することで、歩行者が安心して横断歩道を利用できる環境を作り、結果として危険な横断歩道外横断を減らせるとの見解を示しています。
信号機のない横断歩道では歩行者が絶対優先であり、歩行者が横断しようとしている場合は必ず一時停止する必要があります。この基本ルールの徹底が、交通事故全体の減少につながると考えられています。
運転者は法的義務を理解するだけでなく、歩行者や自転車利用者の立場に立った思いやりのある運転を心がけることが、安全な交通社会の実現に不可欠です。