前照灯の光度基準は、単に電球の明るさではなく、ヘッドライト内のリフレクター(反射鏡)で反射した光の明るさで測定されます。これは非常に重要な点で、多くの人が誤解しています。いくら高性能な電球を装着しても、リフレクターの状態が悪ければ保安基準を満たせません。カンデラという単位で測定される光度は、光の向きがある方向に集中する度合いを示します。保安基準では最低光度が1灯につき6,400カンデラ以上と定められており、これはリフレクターを含めた全体の性能評価です。なお、ハイビームとロービームでは要求される照射距離が異なり、ハイビームは前方100メートル、ロービームは前方40メートルの交通上の障害物を確認できる性能が必要とされています。
光軸調整は前照灯保安基準の中でも特に複雑な要素です。従来の基準ではハイビームの照射方向が合っていればよいとされていましたが、現在のロービーム基準ではより厳密な規定があります。対向車の視界を遮らないように、右側上部への照射を避けることが必須です。同時に、歩道側である左側の視認性を上げる工夫も求められます。カットオフラインと呼ばれる照射範囲と遮光範囲の境界線と、エルボー点という測定基準点が、前方10メートルを照らした際に規定位置にあることが車検合格の条件となります。この調整は振動や衝撃で容易にずれるため、車検予約前には必ず点検すべきです。前照灯照射方向調節装置は、左右方向には調整できない構造であり、上下方向の調整のみが許可されています。
灯光の色は保安基準第32条で「白色であること」と定められています。これは単なる見た目の問題ではなく、安全運転に直結する重要な要件です。色温度で表すと、ケルビン数が低いと黄色みがかかり、高くなるにつれて青みが強くなります。ヘッドライト用の電球を選ぶ場合、3,500~6,000ケルビンの範囲であれば色については問題ありません。しかし、近年増加しているバルブ交換の際に青すぎる色のものを選ぶと、見た目は良くても色温度基準に適合せず、検査不合格の原因となります。さらに注意すべき点として、灯光の色については、同時に点灯する全ての走行用前照灯とすれ違い用前照灯が同一の色であることが求められています。左右で異なる色のバルブを装着していないか確認が必要です。
令和6年8月1日からの車検制度には大きな変更がありました。従来は計測が困難な自動車に限ってハイビームでの検査が認められていたのですが、この日付以降は全車においてロービーム計測のみで基準適合性の審査が実施されるようになったのです。この変更の背景には、2015年に前照灯基準が改正された後、周知期間として5年間の過渡期が設けられていたことがあります。現在は審査体制の整備が完了したため、新基準への一本化が実現しました。対象自動車は1998年9月1日以降に製作された車両(二輪車、側車付二輪車、大型特殊自動車及びトレーラを除く)です。1998年8月31日以前の旧基準車はこれまで通りハイビームで検査されます。ロービーム計測で基準不適合の場合、ハイビーム計測は行われないため、事前の点検がより重要になってきました。
実際の車検では、前照灯の光度測定に専用のテスターが使用されます。目視で光軸が合っているかどうかを判断することは極めて困難です。自分で点検する際は、暗い場所で対向車への光の照射パターンを観察することが基本となります。衝撃を受けた場合やバルブ交換後には、必ず無料点検サービスを利用するか専門店での確認が推奨されます。特に注意すべきは、ヘッドライトが曇っている、レンズ面が汚れている、または輪郭がぼやけている場合です。これらの状態では光度が低下し、保安基準を満たせなくなる可能性があります。また、バルブ交換時には純正部品と同等の性能を持つ商品を選ぶことが重要です。ハロゲンバルブとLEDバルブでは配光特性が異なるため、純正と異なる種類のバルブを装着すると光軸のズレが生じる危険性があります。
参考:自動車技術総合機構の審査事務規程
前照灯の詳細な検査基準と技術要件が記載
参考:国土交通省の保安基準告示
走行用前照灯と配光可変型前照灯の保安基準の全文
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