日本の交通事故統計を見ると、横断歩道以外での歩行者事故は極めて深刻な状況にあります。令和2年から令和6年までの過去5年間で、自動車と歩行者が衝突した交通死亡事故は5,296件発生しており、そのうち約7割にあたる3,661件が歩行者の横断中に発生しています。
さらに注目すべきは、横断中の事故のうち約6割の2,363件が横断歩道以外の場所を横断している時に発生しているという事実です。この数字は、横断歩道以外での歩行者の安全確保がいかに重要な課題であるかを物語っています。
特に高齢者の事故が深刻で、平成15年における高齢者の歩行中の交通事故死者数は全体の63.8%を占めており、歩行者交通事故の70%が道路横断中の事故で、その半数以上が横断歩道以外での横断中に発生しています。
警察庁の通達によると、道路横断中の交通死亡事故の発生場所の約7割は横断歩道以外であり、うち約8割は歩行者側にも法令違反が認められたとされています。これは歩行者も交通ルールを正しく理解し、遵守する必要があることを示しています。
横断歩道以外での歩行者優先について、多くのドライバーが混乱しているのが現状です。道路交通法では、横断歩道以外でも歩行者が優先される場面が明確に定められています。
まず、横断歩道のない交差点では歩行者優先が適用されます。道路交通法第38条の2では「車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない」と規定されています。
ただし、この規定は生活道路などが交差する十字路を想定しており、2車線以上ある幹線道路と生活道路が交わる横断歩道のない交差点を想定しているわけではありません。神奈川県警察の交通相談センターによると、この法律は生活道路などが交差する十字路のことを示しているとされています。
横断歩道がない交差点以外で道路を横断している人を見かけた場合も、歩行者優先にあたります。ただし、「歩行者横断禁止」の道路標識が設置されている場所は、歩行者が道路を横断することが禁止されているため、この限りではありません。
重要なのは、歩行者が横断禁止の標識がない車道を横断すること自体は問題ありませんが、車両の直前直後で飛び出す行為は禁止されているということです。対して車両は、横断中の歩行者と充分な間隔をあけずに接近すると、安全運転義務違反になります。
横断歩道以外での歩行者の法令違反には、いくつかの典型的なパターンがあります。これらを理解することで、ドライバーは事故を予防し、歩行者は安全な横断を心がけることができます。
直前直後横断の禁止
道路交通法第13条では「歩行者は、車両等の直前又は直後で道路を横断してはならない」と規定されています。車両の直前直後の横断は、歩行者が車体と重なり、他車からは死角となるため非常に危険です。他車からは、急に歩行者の姿が現れるように見え、事故の原因となります。
横断歩道外横断の制限
歩行者は、横断歩道がある場所の付近では、その横断歩道によって横断しなければなりません。これに違反した場合、警察官等の指示に従わずに横断歩道外横断をした者には2万円以下の罰金又は科料が科せられる可能性があります。
斜め横断の危険性
斜め横断は、歩く距離や歩行者が道路上にいる時間が長くなることから危険とされています。目的地まで最短距離で渡ることが推奨されており、斜め横断は避けるべき行為です。
信号無視
歩行者信号が赤信号にもかかわらず横断歩道を渡っている人との事故などのように、歩行者が事故の原因を作ってしまっている場合は、歩行者優先の原則から除外されます。
これらの法令違反は、歩行者の安全を脅かすだけでなく、事故が発生した際の過失割合にも大きく影響します。警察では、歩行者に対して横断歩道付近における横断歩道外横断等法令違反に対する指導を的確に実施することとしています。
横断歩道以外での歩行者事故を防ぐためには、ドライバー側の意識と行動の変化が不可欠です。特に生活道路や住宅街では、歩行者の飛び出しに備えた運転が求められます。
速度管理の重要性
信号機がない横断歩道、横断歩道がない交差点がある道路は、幹線道路ではなく住宅街や商店街などにある比較的道幅が細い生活道路に多く見られます。このような道では、歩行者や自転車が横断歩道ではない場所で横断している場面に遭遇することもあるため、スピードを控えめにすることが重要です。
予測運転の実践
横断歩道以外での歩行者の動きは予測が困難です。特に高齢者は、横断する際の判断や横断所要時間が非高齢者と異なることが研究で明らかになっています。ドライバーは、歩行者を発見したらすぐに停止できるような速度での運転を心がける必要があります。
夜間・早朝の特別な注意
早朝、夜間に横断歩道のない場所で道路を横断中の歩行者が被害に遭う交通事故が後を絶ちません。暗い道では、歩行者の姿が運転手から見えているとは限らないため、特に注意深い運転が必要です。
安全運転義務の理解
横断歩道以外でも、横断中の歩行者と充分な間隔をあけずに接近すると、安全運転義務違反になります。これは法的な義務であり、違反した場合は処罰の対象となります。
取り締まり強化への対応
警察では「横断歩道における歩行者優先の徹底」を掲げており、横断歩行者等妨害等違反の取り締まりを強化しています。令和5年の取り締まり件数は312,250件に上り、違反点数2点、反則金は普通車で9,000円となっています。
近年、自動車メーカーは横断歩道以外での歩行者保護技術の開発に力を入れています。これらの技術は、従来の交通ルールだけでは防げない事故を減らすための重要な取り組みです。
歩行者検知システムの進化
最新の歩行者検知システムは、横断歩道以外での歩行者の動きも検知できるよう進化しています。赤外線センサーやカメラを組み合わせることで、夜間や悪天候時でも歩行者を検知し、ドライバーに警告を発したり、自動ブレーキを作動させたりします。
AI技術の活用
人工知能技術を活用した予測システムでは、歩行者の行動パターンを学習し、横断の可能性を事前に予測することが可能になっています。これにより、横断歩道以外での突然の飛び出しにも対応できる可能性が高まっています。
V2X通信技術
Vehicle to Everything(V2X)通信技術により、歩行者のスマートフォンと車両が直接通信し、お互いの位置情報を共有することで、横断歩道以外での接触事故を防ぐ取り組みも進んでいます。
インフラとの連携
道路インフラと車両が連携することで、横断歩道以外での歩行者の存在を事前に車両に知らせるシステムも開発されています。これにより、見通しの悪い交差点や住宅街での事故防止効果が期待されています。
これらの技術革新は、横断歩道以外での歩行者事故を大幅に減らす可能性を秘めており、今後の交通安全向上に大きく貢献することが期待されています。ただし、技術に頼るだけでなく、ドライバーと歩行者双方が交通ルールを正しく理解し、遵守することが何より重要であることに変わりはありません。
警察庁の歩行者保護に関する詳細な統計データ
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/oudanhodou/info.html
兵庫県警察による歩行者の交通ルール解説
https://www.police.pref.hyogo.lg.jp/traffic/safety/hokosya/index.htm