道路交通法第12条および第13条によると、歩行者が横断歩道以外の場所で道路を横断することは、特定の条件下では完全に合法です。多くの運転者が誤解していますが、横断歩道がない場所での横断が全て違法というわけではありません。
法的に横断が禁止されているのは以下の場合のみです。
これらの条件に該当しない場所では、歩行者は自由に道路を横断することができます。つまり、幹線道路であっても2車線以上の道路であっても、横断禁止標識がなく、車の直前直後でなければ横断は合法なのです。
神奈川県警察の交通相談センターが「幹線道路など2車線以上ある道路は歩行者が横断すること自体が禁止」と説明していることがありますが、これは道路交通法の条文と矛盾しており、正確ではありません。
横断歩道以外での歩行者と車両の優先関係について、道路交通法では場所によって異なる規定があります。
交差点またはその直近での横断
道路交通法第38条の2により、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、車両は歩行者の通行を妨げてはなりません。これは明確な歩行者優先の規定です。
一般道路での横断
交差点以外の一般道路では、法的な優先関係は明確に規定されていません。しかし、社会通念上、先に交錯地点に到達する者が優先されるのが常識的であり、多くの場合、歩行者が優先されると考えられます。
高齢者・障害者等の特別な保護
道路交通法第14条第5項および第71条により、高齢者、身体障害者、児童、幼児などの歩行者に対しては、場所を問わず特別な配慮が必要です。運転者は一時停止または徐行して、これらの歩行者の通行を妨げないようにしなければなりません。
運転者が知っておくべき重要なポイントは、歩行者が横断歩道以外を横断していても、それが必ずしも違法行為ではないということです。むしろ、多くの場合で歩行者に優先権があるか、少なくとも安全配慮義務があります。
横断歩道以外での歩行者との事故を防ぐためには、以下の運転技術と心構えが重要です。
予測運転の実践
安全な車間距離の確保
渋滞時や信号待ちでは、車間距離を十分に取ることで歩行者の横断スペースを確保できます。これにより、歩行者は車の直前直後を避けて安全に横断できるようになります。
速度調整のテクニック
横断しようとする歩行者を発見した場合、急ブレーキではなく、段階的な減速で安全に停止することが重要です。後続車への配慮も含めて、ハザードランプの活用も効果的です。
視界確保の重要性
これらの対策により、横断歩道以外での歩行者との事故リスクを大幅に軽減できます。
近年、テレビやインターネットニュースで「乱横断」という言葉を使って横断歩道以外を横断する歩行者を非難する報道が頻繁に見られます。しかし、これらの報道には重大な問題があります。
法的根拠を無視した報道
多くの報道機関が、横断歩道以外での横断を全て違法であるかのように報じていますが、これは道路交通法の条文と矛盾しています。前述の通り、横断禁止標識がない場所での横断は合法であり、多くの場合で歩行者に優先権があります。
運転者の誤った認識を助長
このような報道により、運転者は「車が優先」という誤った認識を持ちやすくなります。その結果、横断しようとする歩行者を発見しても減速せず、危険な状況を作り出すことがあります。
事故リスクの増加
歩行者が「車を妨害してはいけない」と考えて車の合間を急いで横断することで、かえって事故リスクが高まります。また、運転者が歩行者を軽視することで、衝突時の被害も重大になる傾向があります。
海外との比較
欧米諸国では歩行者優先の原則が徹底されており、横断歩道以外でも歩行者の安全が最優先されています。日本の現状は国際的に見ても遅れていると言わざるを得ません。
報道機関には、法的根拠に基づいた正確な情報提供と、歩行者優先の原則を広める責任があります。
横断歩道以外での歩行者の横断問題は、根本的には道路設計と都市計画の問題でもあります。
横断需要を無視した道路設計
多くの違法横断が発生する場所は、実際に横断需要が高い場所です。しかし、行政は車の円滑な通行のみを重視し、歩行者の利便性を軽視した道路設計を行っています。
高齢者への配慮不足
足腰の衰えた高齢者にとって、遠くの横断歩道まで迂回することは大きな負担です。しかし、現在の道路設計では、このような歩行者の実情が十分に考慮されていません。
効果的な改善策
海外の先進事例
欧州の多くの都市では、歩行者と自転車を優先した街づくりが進んでいます。これにより、交通事故の減少だけでなく、商業施設の活性化や街の魅力向上も実現しています。
日本でも、歩行者の安全と利便性を重視した道路設計への転換が急務です。運転者としても、このような社会的背景を理解し、歩行者に配慮した運転を心がけることが重要です。
道路交通法の正確な理解と、歩行者優先の原則を守ることで、より安全で快適な交通環境を実現できるでしょう。運転者一人ひとりの意識改革が、交通事故のない社会への第一歩となります。