オートマ車のエンジンブレーキは、アクセルペダルから足を離すことで自動的に作動する減速システムです。走行中にアクセルから足を離すと、エンジンへの燃料供給が停止し、タイヤの回転力のみで車が動くため、エンジンの抵抗により自然と速度が落ちていきます。
参考)エンジンブレーキの仕組みとは?使うメリットやフットブレーキ・…
この仕組みは、フットブレーキのようにブレーキパッドとローターの摩擦を使うのではなく、エンジンの回転抵抗を利用するため、ブレーキ部品への負担が少ないという特徴があります。オートマ車では、Dレンジに入れたままアクセルを離すだけで軽いエンジンブレーキがかかり、より強い制動力が必要な場合は、シフトレバーを「2」や「L」といった低速ギアに切り替えることで調整できます。
参考)エンジンブレーキとは?正しく使って燃費も安全性もアップする方…
エンジンブレーキという名前の装置やスイッチが存在するわけではなく、実は多くのドライバーが無意識のうちに使用している機能なのです。ギアを下げることで回転数が一時的に上がり、その後減少していくため、強制的に回転数を減らして制動力を働かせることができます。
参考)エンジンブレーキを利用するメリット~仕組みと燃費への影響も解…
オートマ車でエンジンブレーキをかける最も基本的な方法は、アクセルペダルから足を離すだけです。Dレンジのままアクセルオフすることで、自動的にエンジンブレーキが作動し、ある程度のスピードを落とすことができます。
参考)エンジンブレーキの仕組みと使い方のコツについて詳しく解説!ブ…
より強力な減速が必要な場合は、シフトレバーを操作してギアを下げます。一般的なオートマ車では、Dレンジから「2」レンジに変更すると中程度のエンジンブレーキがかかり、さらに強い制動力が必要な場合は「L」レンジを使用します。最近の車種では、ステアリングにシフトスイッチが備わっているものも多く、手元で簡単にシフトダウンができるようになっています。
参考)AT車のシフトレバーにある「L」や「2」って、いつ何のために…
オーバードライブスイッチ付きの車では、スイッチをOFFにすることでギアが固定され、高い回転数のままエンジンブレーキをかけることも可能です。車種によってシフトレバーにパドルシフトが付いている場合もあり、これらを利用すると簡単にギアチェンジができます。
エンジンブレーキを使用すると、燃費が若干向上する効果があります。これは、減速のためにアクセルを離したときに「フューエルカット(燃料カット)」が作動し、燃料の供給が停止するためです。
参考)オートマ(AT)でのエンジンブレーキのやり方と効果
燃料カットの状態では、車は走行を続けているものの燃料は消費されないため、走行距離が伸びる分だけ平均燃費が向上します。ただし、燃費向上の効果は微々たるもので、使う場面が赤信号などで止まる直前に限られることや、燃料カットの時間もさほど長くないことから、劇的な燃費改善は期待できません。
参考)【メリット】エンジンブレーキを使うと燃費が良くなるって本当?…
エンジンブレーキを活用することで、5km/Lや10km/Lといった大幅な燃費向上は見込めませんが、継続的に使用することで長期的には一定の効果が得られます。燃費向上よりも、後述する安全性の向上やブレーキ部品の保護といったメリットの方が、実用的には重要です。
参考)【メリット】エンジンブレーキを使うと燃費が良くなるって本当?…
エンジンブレーキの最も重要なメリットは、フェード現象とベーパーロック現象という2つの危険な状態を回避できることです。フェード現象は、フットブレーキを長時間使用することでブレーキパッドが過熱し、摩擦材が300℃の耐熱温度を超えて気化ガスが発生し、制動力が低下する現象です。
参考)オートマ車でも簡単!エンジンブレーキを活用して安全かつ快適な…
ベーパーロック現象は、ブレーキ液が高温で沸騰して気泡が発生し、油圧が正しく伝わらずブレーキ圧が失われる現象です。特に長い下り坂や急な減速が続く場面では、これらの現象によりブレーキ性能の低下が命に関わるリスクを伴います。
エンジンブレーキを併用することで、フットブレーキの負担を大幅に軽減し、こうした危険を未然に防ぐことができます。オートマ車では、シフトレバーを「L」や「2」に切り替える簡単な操作でエンジンブレーキを強化でき、ブレーキパッドなどの消耗も抑えられます。
参考)エンジンブレーキとは?有効な使い方やメリット、フットブレーキ…
山道をドライブする際に見かける「ブレーキ故障車待避所」は、まさにブレーキが利かなくなった車が大事故を起こさないために設けられた設備であり、エンジンブレーキの重要性を物語っています。
下り坂では、エンジンブレーキの活用が特に重要になります。アクセルを踏んでいなくても速度が上がってしまう「空走状態」では、Dレンジのままアクセルペダルから足を離すだけで基本的な減速が可能ですが、坂の勾配に応じてさらに強い制動力が必要になります。
参考)知らないと危険!下り坂でのエンジンブレーキの使い方とその効果…
緩やかな下り坂では、まずDレンジから「2」レンジに切り替えることで中程度のエンジンブレーキを使用します。2レンジでも加速してしまうような急な下り坂や長い下り坂の場合は、さらに強力な「L」レンジを使用することで、1速に固定して強いエンジンブレーキをかけることができます。
参考)AT車のシフトレバーにある「L」や「2」って、いつ何のために…
使用するタイミングとしては、前方や後方の車との距離が空いている状況で、アクセルを踏んでいなくてもスピードが上がる場合が適切です。ただし、前方に車があるなど急激に速度を落とす必要がある場合は、エンジンブレーキだけでなくフットブレーキでの減速を併用することが推奨されます。
オートマ車のシフトレバーにある「L」と「2」は、それぞれ異なる制動力を持つギアです。「L」はローギア(1速)を表し、最も強いエンジンブレーキがかかるレンジで、「2」はセカンドギア(2速まで)を表し、中程度のエンジンブレーキがかかります。
使い分けの基本は、下り坂の傾斜の度合いによって判断します。Dレンジで走行していて、下り坂で車の速度が必要以上に出てしまうときは、まず「2」レンジを使用してエンジンブレーキをかけます。「2」レンジでも加速してしまうような、さらに傾斜のきつい下り坂では、もう1つ下の「L」レンジを使用することで強力な制動力を得られます。
雪道での使用順番は、弱い順から「オーバードライブまたはSボタンON」→「2レンジ」→「Lレンジ」となり、道路状況によって段階的に切り替えることが安全運転につながります。ただし、高速走行中にいきなり低速ギアに落とすと、ギアを傷める原因になるため、車速に合わせて適切なギアを選ぶことが重要です。
参考)雪道のエンジンブレーキの使い方!オートマ車はこれをやれ!
エンジンブレーキを使用する際には、いくつかの注意すべき点があります。最も重要なのは、エンジンブレーキ使用時にはブレーキランプが点灯しないため、後続車が減速に気づかず追突される可能性があることです。
特に昨今の車はエンジンブレーキがかかっていても静かなことが多く、後続車にはわかりづらいため、使用する際は後ろとの車間距離を確認する必要があります。対策としては、ポンピングブレーキ(ブレーキランプを数回点滅させる操作)を活用して、後続車に減速を知らせることが効果的です。
また、エンジンブレーキを多用しすぎるとエンジンやトランスミッションに負荷がかかり、故障の原因になる可能性があります。特に長時間の下り坂での使用では、エンジンの過熱や損傷のリスクが高まるため、適切に冷却するよう心がける必要があります。
さらに、高速走行中にいきなり低速ギアへシフトダウンすると、ギアがロックして車の故障の原因になるため、車速に合わせて段階的にギアを下げることが重要です。周囲の交通状況や道路の状態に注意しながら、適度に使用することが安全運転につながります。
雪道や悪天候時には、エンジンブレーキの正しい使い方が特に重要になります。フットブレーキは四輪すべてに一気に制動をかけるため、スピードが出ている状態で踏むと、タイヤの氷上性能よりもブレーキ制動が強くなりスリップに発展する可能性があります。
参考)雪道で優先するのはエンジンブレーキ? それともフットブレーキ…
一方、エンジンブレーキは駆動輪をエンジンの回転数で徐々に鈍らせてスピードを落とすため、タイヤの氷上性能を超えないスピードを維持するのに効果的です。下り坂では重力の関係で徐々にスピードが乗るため、エンジンブレーキで速度の出し過ぎを防ぐことがスリップ予防につながります。
雪道でのエンジンブレーキの使い方は、道路状況に応じて段階的に切り替えることが基本です。弱い制動から順に「オーバードライブまたはSボタン」→「2レンジ」→「Lレンジ」の順で使用し、多めに車間距離を取り、制限速度を守ることで安全性を確保できます。
ただし、高速スピード域からいきなりギアを下げるのは危険です。70km/hで走行中にいきなりLギアに落とすとギアを傷める原因になり、ギアがロックして車の故障を招く可能性があるため、スピードを落としてから段階的にシフトダウンすることが重要です。また、氷の上より雪の上を走行する方がグリップ力があるため、透明な凍結路面よりも白い圧雪路面を選んで走ることも安全運転のポイントです。
エンジンブレーキの活用は、車のコンディションを良好に保つメンテナンス効果も持っています。エンジンは「回しすぎると壊れる」というイメージが強いですが、実は回さなさ過ぎても故障の原因になります。
エンジン内部には、ガソリンやエンジンオイルの燃え残りである「カーボン」が蓄積していますが、高回転まで回すことで空気の流速が上がり、このカーボンを燃焼させて除去することができます。カーボンを溜めたままにしておくと、エンジンの調子が悪くなり、最悪の場合はオーバーホール(エンジンの分解整備)が必要になることもあります。
たまにエンジンブレーキを使いながら高回転で走らせることは、カーボンの除去という観点から車のコンディションを良くするために欠かせません。また、フットブレーキの使用頻度を減らすことで、ブレーキパッドやローターといった消耗部品の寿命を延ばす効果もあります。
高速道路の出口での減速時にもエンジンブレーキは有効で、フットブレーキでの減速に上乗せして速度を落とすことができるため、短時間で十分な減速を行うことが可能です。このように、エンジンブレーキは燃費向上だけでなく、車の長寿命化にも貢献する重要な機能なのです。