デスビシャフトとは、ディストリビューター(通称:デスビ)を構成する中心的な回転軸のことで、エンジンの点火システムにおいて極めて重要な役割を担っています。正式名称は「ディストリビューターシャフト」で、火花点火内燃機関の点火装置を構成する部品の一つです。このシャフトは、エンジンの回転と完全に同期して駆動され、クランクシャフトから歯車などを介して伝達される場合や、OHCエンジンではカムシャフトから伝達される場合があります。
参考)ディストリビューター - Wikipedia
デスビシャフトの基本的な動作原理として、クランクシャフト2回転に対してデスビシャフトは1回転するという関係性があります。これは4サイクルエンジンの燃焼サイクルに合わせた設計で、各シリンダーが正確なタイミングで点火されるための重要な機構です。シャフトには腕木構造のデスビローターが取り付けられており、回転中心に入力電極、端部に出力電極を持つことで、イグニッションコイルからの高電圧を各気筒の点火プラグへ分配します。
参考)デスビ車の基本構造と点火システム解説
デスビシャフトの構造は、単なる回転軸だけでなく、ベアリングまたはメタル軸受けで支持され、オイルシールによってエンジンオイルの侵入を防ぐ設計になっています。シャフトの受け部分には溝と穴があり、適切な潤滑が行われるような工夫がされています。この精密な構造により、長期間の使用に耐える耐久性と、正確な点火タイミングの維持が実現されています。
参考)デスビ シャフトのオイルシール交換 1(ホンダ インテグラタ…
デスビシャフトの最も重要な役割は、イグニッションコイルで発生した高電圧の電流を、各シリンダーの点火プラグへ適切なタイミングで分配することです。この配電機能により、多気筒エンジンでも一つのイグニッションコイルで点火システムを構築できるため、比較的安価にシステムを構成できるメリットがあります。シャフトはカムシャフトと機械的に連結されており、カムシャフトの動力によってデスビ内部のローターが回転する仕組みになっています。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1306/25/news013.html
シャフトの回転状態はピストン位置と同期しているため、機械的なポイント接点や位置検出センサーで把握し、一次電流を遮断することで点火タイミングを制御しています。デスビシャフトには進角装置も組み込まれており、エンジンの回転速度に応じて遠心力で作動するガバナー(調速機)や、スロットル開度に応じてインテークマニホールドの負圧を利用するバキューム進角装置が取り付けられています。これらの機構により、エンジンの運転状態に応じて最適な点火タイミングが自動的に調整されます。
デスビシャフトとローターの組み合わせには前期型と後期型があり、互換性に注意が必要です。前期型はネジ止めまたは押し込み式でローターを固定するのに対し、後期型はサークリップで固定する改良が施されています。前期シャフトに後期ローターを取り付けると、約1.5mmの長さの違いが生じ、接点距離が変わってトラブルの原因となることがあります。そのため、シャフトとローターは同じ世代の組み合わせで使用することが推奨されています。
参考)http://www.machclub.net/osaka/clubhouse_jap/pinpoint/pindenso5.html
デスビシャフトとカムシャフトは密接な関係にあり、デスビはカムシャフトによって駆動される機械式配電装置として機能します。OHCエンジンの場合、カムシャフトから直接デスビシャフトへ回転が伝達され、クランクシャフトの位相と完全に同期した動作が実現されます。この連結により、ピストンの位置とバルブのタイミング、そして点火タイミングが正確に制御され、エンジンの効率的な燃焼が可能になります。
参考)https://www.kmsgarage.com/dic/disutoribyuutaa.html
カムシャフトとデスビシャフトの連結部分には、ウォームギアやカップリングが使用されており、カムシャフトの回転がデスビシャフトに確実に伝達される仕組みになっています。しかし、デスビシャフトのベアリングやメタル軸受けに不具合が生じると、回転抵抗が増大し、最終的にはカムシャフトの回転を阻害する可能性があります。このような状態になると、エンジンの始動不良やアイドリング不調などの症状が現れます。
参考)B型のWeak Point
カムシャフトから伝達される動力は、デスビシャフトを通じてローターを回転させ、さらにガバナー進角装置やバキューム進角装置を作動させます。特にガバナー進角装置は、デスビシャフトに平行に取り付けられた一対の錘が遠心力で外側に広がることで点火時期を早める機構で、エンジンの回転速度が高くなるほど進角量が大きくなります。この精密な機械的連携により、デスビシャフトはエンジンの運転状態に応じた最適な点火制御を実現しています。
参考)http://jaguarmainte.web.fc2.com/mainte/densou/distributor/distributor.html
デスビシャフトには、エンジンオイルの侵入を防ぐためのオイルシールが装備されており、これが正常に機能することでディストリビューター内部の電気的な配電機能を保護しています。オイルシールはゴム製で、シャフトの回転部分に密着してオイルの漏れを防ぐ構造になっていますが、経年劣化により硬化や亀裂が生じると、シール性能が低下します。特にカムシャフトに横から直接装着されるタイプのデスビでは、水平に取り付けられているため、オイルシールの劣化によりデスビケース内にオイルが侵入しやすくなります。
参考)ディストリビューター本体シャフトよりオイル漏れ : 修行人@…
オイルシールの劣化によるオイル漏れは、デスビキャップの合わせ目から外部に漏れ出すだけでなく、デスビ内部に大量のオイルが溜まることもあります。デスビキャップを外すと大量のオイルが流れ出てくる状態になると、ローターや電極部分がオイルで汚れ、点火性能に悪影響を及ぼします。また、エキゾーストマニホールドの遮熱板の上にオイルが垂れると、オイルの焦げる臭いが発生し、火災の危険性も高まります。
参考)https://ameblo.jp/ae86ae86ae86ae86ae86/entry-12787915824.html
オイルシールの交換には、デスビシャフトを抜く作業が必要で、ベアリングやピンなどの周辺部品も同時に点検・交換することが推奨されます。シール内径とシャフト径には若干のサイズ差があり、適切なシリコングリスを塗布することで回転抵抗を最小限に抑えつつ、シール性能を確保します。オイルシールの交換は比較的安価にできるメンテナンスですが、作業には専門的な知識と工具が必要なため、整備工場での作業が推奨されます。デスビケースのOリングも同時に交換することで、水分やホコリの侵入も防ぐことができます。
参考)デスビ シャフトオイルシール交換 2(ホンダ インテグラタイ…
デスビシャフトのベアリングやメタル軸受けが摩耗すると、シャフトにガタが発生し、これが点火不良の直接的な原因となります。シャフトのガタは、ローターと電極との位置関係を不安定にし、点火タイミングのズレや失火を引き起こします。特にホンダのB型エンジンはデスビ不調が有名なウィークポイントとされており、シャフトのガタによる始動性の悪化やアイドリング不調が報告されています。
参考)http://www.delsol.sakura.ne.jp/trouble/troudl25.html
シャフトのガタを確認するには、デスビキャップを外してローターを手で上下左右に動かし、異常な遊びがないかをチェックします。正常なデスビではシャフトがほとんど動かず、回転もスムーズですが、ガタが発生していると明らかな横方向の遊びや回転時の異音が確認できます。また、ドライバーを使って聴診すると、シャフトの回転音から異常を検出できることがあります。ガタが少なく、内部の電子部品だけが不良の場合は、部品交換で再使用が可能ですが、シャフトにガタがある場合はデスビASSY交換が必要です。
デスビシャフトのベアリングが死んでガタガタになると、接触不良でプラグに電気が行かなくなり、エンジンが始動しなくなることもあります。このような状態では、デスビ本体のシャフト部分を交換するか、デスビASSY全体を交換する必要があります。デスビシャフトの受け部分はベアリングではなくメタル製の場合もあり、溝と穴からオイルが回るようになっていますが、オイルシールに隙間があるとオイル供給が不十分になり、摩耗が加速します。定期的な点検とメンテナンスにより、シャフトのガタを早期に発見し、大きなトラブルを未然に防ぐことが重要です。
参考)ディストリビューター故障の実例((((;゜Д゜))))(ホン…
デスビシャフトとローターの組み合わせには前期型と後期型があり、互換性を誤ると電気的トラブルが発生します。前期型のシャフトと後期型のシャフトでは、ローターを固定する機構が異なり、前期型はネジ止めまたは押し込み式、後期型はサークリップで固定する改良型となっています。また、ギアーピン位置に対するデスビ端子の位置関係も90度ずれており、前期シャフトに後期ローターを装着すると、点火タイミングが90度ずれてしまいます。
前期シャフトに後期ローターを取り付けた場合、シャフトを後期ローターに奥まで押し込んでも、前期同士の組み合わせと比べて約1.5mm高くなります。この長さの違いにより、デスビキャップが閉まらなくなったり、接点距離が変わったりして、電気的トラブルが多発します。後期ローターに前期シャフトを差し込むと隙間が空くため、この分の長さ変化が問題を引き起こします。実際の車両で前期シャフトから後期ローターに交換すると、合いマークが90度反時計回転方向にずれるため、右カバーを外して上死点に対して合いマークを合わせ直す必要があります。
代替部品として日産のデスビローターを使用する場合、寸法上およびギアーピン位置に対しても後期ローターの代替として使用可能ですが、サークリップ溝は機能しなくなります。ただし、シャフトに対して比較的タイトに嵌まるため、使用上の問題はないとされています。前期シャフトに日産ローターを差し込むと、前期同士で組んだものと高さが変わらないため、長さ関係においては問題ありません。しかし、端子位置は90度ずれるため、やはり合いマークの調整が必要です。
ローターの固定方法も世代によって異なり、前期の最初期型は黒いローターでネジ止めする方式でしたが、ネジの脱着が技術的に難しいため、押し込み式に変更されました。前期型の押し込み式は非常にタイトで、手のひらに体重を載せて慎重に押し込む必要があり、プラスチックハンマーで叩くとローターに亀裂が入る危険性があります。後期型のサークリップ式は、カチッと固定される改良により脱着が容易になりましたが、クリップを入れずに使用してもデスビキャップのセンターのカーボンブラシで押さえられるため、走行中のトラブルにはなりにくいとされています。デスビシャフトとローターの組み合わせは、同世代の純正部品を使用することが最も確実で、異なる世代を組み合わせる場合は点火タイミングの再調整が不可欠です。
デスビシャフトとローターの互換性について詳しく解説(画像付き)
デスビシャフトの故障は、エンジンの始動性悪化やアイドリング不調として現れることが多く、冷間時と温間時の両方で症状が出るのが特徴です。具体的には、イグニッションキーをONにしても燃料ポンプの動作音は正常に聞こえるものの、スターターを回してもエンジンがかからない、または初爆に時間がかかり「ブブブ~ブワン」という感じで吹け上がるといった症状が現れます。10回に9回くらいは1発で掛かるが時々始動しないという気まぐれ不調も、デスビシャフトの不具合の典型的なパターンです。
参考)https://ameblo.jp/500raven/entry-12401903437.html
デスビシャフトの診断には、まずデスビキャップを外して内部を目視点検します。内部がキレイであれば電極部分の問題は少ないですが、シャフトにガタがあるかどうかを手で確認することが重要です。シャフトを上下左右に動かして異常な遊びがないか、回転させてスムーズに回るかをチェックします。また、ドライバーを使って聴診すると、アイドル状態でシャフトの回転音が正常か異常かを判断できます。デスビASSYをテスト交換して症状が改善されれば、デスビの不具合であることが確定します。
デスビシャフトの故障箇所として、オイルシールの劣化によるオイル漏れ、ベアリングやメタル軸受けの摩耗によるガタ、内部の電子部品(イグナイター、ピックアップコイル)の不良などが挙げられます。オイル漏れはデスビキャップの合わせ目から外部に漏れたり、内部に溜まったりするため、オイルの焦げる臭いやデスビキャップ内のオイル溜まりで判断できます。シャフトの焼き付きが発生すると、ポイント接点が正常に作動せず、カムシャフトの回転も阻害されるため、エンジンが始動しなくなります。
参考)http://www.hm.aitai.ne.jp/~s-design-products/dis_trouble1.htm
デスビの故障診断では、スパークプラグの点火状況も確認します。プラグを外してボディアースして始動すると、火花が飛ぶかどうかで点火系統の問題か燃料系統の問題かを切り分けられます。火花が飛ばない場合はデスビまたはイグニッションコイルの不良が疑われます。デスビシャフトにガタがなく、内部の電子部品だけの不良であれば、イグナイターやピックアップコイルなどの部品交換で修理可能ですが、シャフトにガタがある場合はデスビASSY全体の交換が必要です。早期発見のために定期的な点検とメンテナンスが推奨されます。
参考)https://support-parts.com/distributor/distributor-3.html
デスビシャフトの交換費用は、デスビASSY全体を交換する場合と部品のみを交換する場合で大きく異なります。デスビASSY全体を純正新品で交換すると、部品代だけで6万円を超える高額な費用となります。一方、リビルト品(再生品)のデスビを使用すれば、部品代と工賃を含めて3万円前後から対応可能です。シャフトのガタがなく、内部の電子部品だけの交換で済む場合は、さらに費用を抑えられます。
参考)https://support-parts.com/distributor/
オイルシールのみの交換であれば、オイルシールとベアリング、ピンのセットが安価に入手でき、部品代は数千円程度です。ただし、オイルシール交換にはデスビシャフトを抜く作業が必要で、専門的な知識と工具が求められるため、工賃が別途かかります。デスビケースのOリングも同時に交換することが推奨され、これによりオイル漏れと水分侵入の両方を防ぐことができます。中古車で次回の車検までしのぐ場合は、中古品のデスビASSYを使用することで格安に修理することも可能です。
デスビシャフトの交換作業には、デスビ本体の取り外しが必要で、カムシャフトまたはクランクシャフトとの連結部分を外します。デスビシャフトはオイルポンプと繋がっている場合もあり、オイルポンプを外す必要がある車種もあります。作業時には上死点マークの位置を記録しておき、再組み付け時に点火タイミングがずれないように注意する必要があります。デスビの分解点検では、ピックアップコイル、リラクター、バキューム進角装置などを順番に外し、各部品の状態を確認します。
参考)http://www.oldlink.jp/soarer_dis.html
デスビキャップとローターは、デスビシャフトの交換時に同時に新品へ交換することが推奨されます。デスビキャップの接点端子が摩耗していたり、木ネジが止まる部分の端子が錆びている場合は、キャップの寿命と考えて交換すべきです。ローターとセットで交換することで、電気的な接触不良を防ぎ、点火性能を最大限に発揮できます。作業後は点火タイミングの調整とエンジンの始動確認を行い、アイドリングが安定しているか、加速がスムーズかを確認します。デスビの整備には専門知識が必要なため、信頼できる整備工場に依頼することが確実です。
参考)「ディストリビューター」(デスビ)の分解・点検。その②(トヨ…
デスビシャフトの適切なメンテナンスは、エンジンの始動性と走行性能を維持するために不可欠です。定期的な点検では、デスビキャップを外して内部の状態を確認し、ローターやキャップの電極部分にカーボンの堆積や焼けがないかをチェックします。デスビキャップは時々点検するだけで劣化を防ぐことができ、接点端子の摩耗や錆の進行を早期に発見できます。年式や走行距離を考慮すると、特に不具合がなくても予防的に分解点検を行うことが推奨されます。
参考)「ディストリビューター」(デスビ)の分解・点検。その①(トヨ…
デスビシャフトの軸部にはしっかりと給油しておくことが重要で、これによりベアリングやメタル軸受けの摩耗を防ぎます。シャフトの受け部分には溝と穴があり、オイルが回るようになっているため、オイルシールが正常に機能していることを確認します。オイルシール周りのOリングが変形していたり劣化している場合は、早めに交換することでオイル漏れを予防できます。デスビケース内にオイルが侵入していないか、水分やホコリが溜まっていないかも定期的に確認します。
デスビの分解メンテナンスでは、ピックアップコイルのビスを外し、リラクターを取り外してCリングやOリングの状態を確認します。バキューム進角装置のダイヤフラムアクチュエーターもチェックし、ロッドの動きがスムーズか、ダイヤフラムに破れがないかを点検します。各部品を清掃し、油汚れや黒ずみを落としてから再組み付けることで、デスビの性能を回復できます。デスビの構造は比較的簡単で、20年使用してこの程度の汚れや傷み具合であれば、手入れしておけば当分心配なく乗れるとされています。
デスビキャップのセンター部にあるカーボンブラシは、ローターを押さえる役割も担っており、摩耗すると交換が必要です。ただし、カーボンブラシが摩耗する前にキャップ全体が劣化して隣のコードにリークすることが多いため、実際にはブラシ単体の交換よりもキャップ全体の交換が一般的です。デスビキャップとローターは消耗品として定期的に交換することで、失火やトラブルを未然に防げます。年式の古い車や走行距離の多い車では、デスビ全体のオーバーホールを検討することで、長期的な信頼性を確保できます。定期的なメンテナンスにより、高額なデスビASSY交換を避け、経済的に車を維持することが可能です。
参考)http://www.machclub.net/osaka/clubhouse_jap/pinpoint/pindenso1.html