
ウォームギアのセルフロックとは、ウォームセットが停止している状態で、ホイール側から回り出さない(逆転しない)特性のことです。この機能は、ウォームの進み角が摩擦角以下である場合に理論上発揮され、ブレーキ機能を併せ持つことが可能です。
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セルフロックは自己保持性や自己保持作用とも呼ばれ、出力軸から入力軸を回すことができない特性を指します。この現象により、出力側(ウォームホイール)に力がかかっても、逆方向に力が伝わらずウォームが回らないという性質を発揮します。
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具体的には、ウォームホイールの形状が減速機構としての役割を果たし、他の歯車と比較して大きなギア比を実現するために工夫されています。ウォームギアは逆回転しにくい特性を持ち、出力軸であるウォームホイール側に逆方向の動力がかかった場合でも、入力側への伝達を阻止します。
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セルフロック現象を発生させるには、ウォームの溝の進み角を小さくする必要があります。進み角とは、ウォームが一回転する際にウォームホイールがどのくらいの角度で移動するかを示す重要な設計要素です。
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進み角は「360度÷ウォームの歯数」という形で算出され、ウォームのピッチ円直径に対するウォームホイールのピッチ円直径の比率を利用して計算されます。一般的に、ウォームの直径が大きいほど、また歯数が多いほど、進み角は小さくなる傾向があります。
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摩擦角はρ=tan⁻¹(μ)で求められ、μは摩擦係数です。セルフロック性は、通常、静止状態における低速軸からの駆動不可性を表しますが、歯車噛合い部分の摩擦の状態に影響されます。ウォームの進み角γより摩擦角ρが大きくなったときにセルフロック効果が発揮されます。
参考)https://cyclo.shi.co.jp/product/womu/hedcon/pdf/hedcon_04_01.pdf
ウォームギアは自動車のステアリングシステムによく使用されており、正確かつ効率的な動作伝達を実現します。ウォームギヤのセルフロック機能により安定した操舵性を確保し、駐車時の車両のドリフトを防ぎます。
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自動車では、ステアリングシステムやドライブトレインにおいて、減速比の調整や回転数の変換に利用されます。ウォームギアのセルフロッキング特性により、運転者が操舵した際のフィードバックがスムーズになり、より良い操縦感を提供することができます。
昇降装置(リフトやジャッキ)では落下防止の役割も果たし、電動シャッターやゲートでは電源OFFでも保持できる特性が活用されています。建設機械では、クレーン、掘削機、昇降機構などにウォームギアが不可欠なコンポーネントとして使われており、正確な制御と位置決めが必要なヘビーデューティ用途に最適です。
ウォームギアは、ねじ歯車(ウォーム)とそれに合うはす歯(斜歯)歯車(ウォームホイール)を組み合わせた機構です。一般的には歯車の回転数の比は1/10程度までですが、ウォームギアでは1/10~1/100程度がよく用いられます。
参考)ウォームギヤ - Wikipedia
減速比はウォームホイールの歯数をウォームの条数で割った値となります。例えばウォームホイールの歯数を50枚、ウォームギアの乗数を1条とすれば減速比50(=50/1)の歯車減速機となります。ウォームシャフトの条数を1、ウォームホイールの歯数を40とすると、40:1の減速比が得られます。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_design/md05/g0085.html
ウォームの直径はウォームホイールに比べると一般に小さく、歯の接触面積が狭いため、大きな動力の伝達には向きません。これに対してウォームに切られている溝の進み角を小さくする、ウォームを円筒ではなく鼓形にすることでウォームホイールとの接触距離を増やすといったことが行われます。
ウォームギアの寿命と効率を維持するには、適切な潤滑管理が不可欠です。潤滑方法は周速度が一つの目安となり、周速度に応じた適切な潤滑剤の選択が重要です。専用のウォームギアオイルを使用することで、運転効率を5%~8%向上させ、運転温度を最高20%落とすことができます。
参考)https://www.kggear.co.jp/wp-content/uploads/2022/11/KG4001WEB-9.pdf
優れた潤滑効果により、磨耗を驚異的に抑え、ギアの寿命を大幅に延ばすことが可能です。新しいギヤーならし運転中のギヤーに高性能オイルを使用すると、「なじみ」期間を短縮でき、新しいウォームとホイールを傷めたり焼きつかす事が無く運転することができます。
参考)https://www.omegaoil.jp/images/omegaoil/pdf/omega680.pdf
減速機には、ほとんどオイルバス方式が採用されており、油面管理が重要です。耐荷重性、耐摩耗性に優れたギヤ用潤滑剤は、温度-粘度特性に優れており、広い温度範囲で使用することができます。定期的なメンテナンスと適切な潤滑剤の使用により、長期間にわたって安定した性能を維持できます。
参考)減速機の潤滑
ウォーム減速機でよくある故障として、軸の折れが挙げられます。通常ならかけないような重い負荷をかけたことで軸が折れるケースがあります。この場合、修理よりも新品への交換を推奨するメーカーが多く、分解も結構手間で、コストがかかるためです。
参考)ウォーム減速機の交換と段付きキー
軸が折れた場合の対応として、部品供給の可否を確認し、新品価格との比較検討が必要です。あまりに高価なら、コストメリットがありますが、多くの場合、新品の価格から修理にコストメリットがないため新品に交換することになります。
歯車を取り外す際には、軸にはめ込まれた筐体をホーロービスで固定している場合が多く、専用の道具を使って抜き取る必要があります。抜けにくい場合は、ガスで炙って抜く方法もありますが、安全に配慮した作業が求められます。
定期的な点検と異常な負荷を避けることが、故障を未然に防ぐ最も効果的な対策です。運転音が高い場合や異常な振動が発生した場合は、早期に専門家へ相談することで、大きな故障を回避できます。
平歯車による減速方法は最もポピュラーで、歯数の違う平歯車(ハスバ歯車)を連続して繋ぐことで減速比を確保します。メリットとしては加工が簡単で汎用性が高く、ローコストである点が挙げられます。
参考)【機構設計】減速機構 −平歯とウォーム
これに対してウォームギアは、小型ながらも大きな減速比を実現できる点が大きな魅力です。コンパクトな設計が求められる場面で重宝され、セルフロック機能という独自の特性を持ちます。
ウォームギアは他の歯車機構に比べてバックラッシを小さくできるのも特徴です。また、静粛性と滑らかな運動を実現できるため、精密な動作が求められる用途に適しています。
一方で、ウォームの直径が小さく歯の接触面積が狭いため、大きな動力の伝達には向きません。この欠点を補うために、多条ウォームを採用したり、鼓形ウォームを使用することで接触面積を増やす工夫がなされています。用途に応じて最適な減速機構を選択することが、機械設計において重要な判断となります。