アウルスセナートの価格は、標準モデルで約256,000ユーロ(日本円で約3,370万円から3,800万円)となっています。これはロシア政府高官や富裕層を主要なターゲットとした価格設定です。発表当初は1,800万ルーブル(約27万ドル)という価格が予告されていましたが、実際の販売価格はこれよりも高めに設定されました。
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ロシア政府のデニス・マントゥロフ産業貿易大臣は、「アウルスはロールスロイスやベントレーよりも、価格は少なくとも2割安くなる」と発言しており、高級車市場における競争力のある価格戦略を打ち出しています。実際、同クラスのロールスロイスやベントレーが5,000万円以上することを考えると、アウルスセナートの価格設定は戦略的といえるでしょう。
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一方、プーチン大統領が使用する装甲リムジン仕様は、全く異なる価格帯です。この特別仕様は約83万ドル(約1億3,000万円)に達し、車両製作には約124億ルーブル(約190億円)が投入されたと報じられています。装甲仕様は標準モデルの約4倍の価格となり、その防護性能の高さを反映しています。
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現時点で日本国内におけるアウルスセナートの正規販売計画は存在しません。このロシア製高級車は主に国内市場と中東諸国、アジアの一部地域を販売対象としており、西側諸国への正規輸入ルートは確立されていません。
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日本で実車を目にする可能性としては、日露首脳会談の開催時が最も現実的です。2016年12月の首脳会談では、当時プーチン大統領が使用していたメルセデス・ベンツ S 600 Pullman Guardが日本に持ち込まれた前例があります。2019年のG20大阪サミットでは、実際にアウルスセナートのリムジン仕様が日本に初登場し、標準モデルや大型MPV「アーセナル」も日本の公道を走行しました。
購入を希望する場合は、以下の方法が考えられます。
ただし、2022年のウクライナ侵攻以降の国際的な制裁により、購入や輸入は極めて困難な状況となっています。また、日本の公道を走らせるための認可取得も大きな課題です。
アウルスセナートの装備は、世界最高峰の高級車に匹敵する充実度を誇ります。インテリアは本革仕上げで、木目調のインサートがあしらわれており、一部には高級感を演出するオープンポア仕上げが採用されています。
安全装備
快適装備
後席専用装備
プーチン大統領専用の装甲リムジン仕様には、さらに特別な装備が施されています。全長6,620mmのストレッチボディに6.5トンもの防弾装甲を装備し、RPG(ロケット推進擲弾)や直撃弾丸に耐えられる防護性能を持ちます。厚さ80mmの防弾ガラスを採用し、車体底部は地雷や爆発物からの攻撃にも耐える設計です。タイヤはパンクしても走行可能なランフラットタイヤを装備し、自己密閉式燃料タンクも搭載しています。
装甲仕様には「ユニバース・ブラック」という特別なボディカラーが採用されており、これは事実上の大統領専用色とされています。
アウルスセナートの技術仕様は、国家プロジェクトとして開発された背景にふさわしい圧倒的な性能を誇ります。パワーユニットは、NAMIとポルシェが共同開発した4.4L V型8気筒ツインターボエンジンに、62psの電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用しています。
エンジン性能
動力性能
ボディサイズ
トランスミッションは9速ATを採用し、多板式クラッチを用いた4WDシステムにより、重量級ボディながら優れた動力性能を実現しています。電気機械式クラッチによりトルクの一部を前車軸輪に伝達する全輪駆動方式は、あらゆる路面状況での安定した走行を可能にします。
意外な事実として、アウルスセナートのエンジンは元々ポルシェエンジニアリングとの共同開発であり、同じエンジンブロックからV12バージョンの開発も計画されていました。V12エンジンは860馬力という驚異的な出力を発生する予定でしたが、実用化には至っていません。
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アウルスセナートは単なる高級車ではなく、ロシアの国家的威信をかけたプロジェクトの成果物です。2013年にスタートしたこのプロジェクトは、プーチン大統領が2012年に200億円の予算を承認し、それまで使用していたメルセデス・ベンツW221プルマンに代わる新たな大統領専用車の開発を命じたことから始まりました。
ブランド名「アウルス(Aurus)」は、Aura(オーラ)、Aurum(ラテン語で「金」の意)、Rus(ロシア)を組み合わせた造語で、ロシアの威信をかけた高級車ブランドとしての位置づけが明確に表現されています。この名称には、ロシアが世界に誇る高級車を生み出すという強い意志が込められています。
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開発の中心となったのは、ロシア国営の中央自動車エンジン科学研究所(NAMI)です。この研究所は既存の自動車メーカーではなく、技術開発を専門とする機関であり、ゼロから最新の高級車を開発するという野心的な取り組みでした。ロシア政府は、プロジェクトに120億ルーブル以上を拠出し、国際的な協力体制を構築しました。
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開発には以下の企業が参画しています。
生産はタタールスタン共和国エラブガ工場で行われており、当初はフォードも生産や品質管理に協力していましたが、2022年3月1日をもって撤退しています。現在では年産5,000台を目標としていますが、現状は顧客の要望に応じて装備内容が1台1台異なるため、手作業による組み立てが行われています。
アウルスセナートは、統合モジュラープラットフォーム(EMP)を基盤として、複数の派生モデルが展開されています。これにより、同じプラットフォームを共有しながらも、用途に応じた多様なバリエーションが実現しています。
リムジンモデル
プーチン大統領が使用するリムジン仕様は、標準セダンから大幅に拡張されたモデルです。2018年5月7日の大統領就任式で初披露されたこの装甲リムジンは、全長6,620mmのストレッチボディを持ち、標準モデルと比較して約1メートル長くなっています。車両重量は装甲を含めて約6.5トンに達し、通常のセダンの約2.5倍の重量となっています。
リムジン仕様の特徴。
カブリオレ(コンバーチブル)モデル
アウルスセナートには、屋根を開閉できるカブリオレ(コンバーチブル)バージョンも存在します。このモデルは主にパレードや特別なセレモニーでの使用を想定しており、市販される可能性は低いとされています。カブリオレ仕様は、オープンカーならではの開放感を持ちながらも、高級車としての威厳を保つデザインが特徴です。
SUVモデル「コメンダント」
今後の展開として注目されるのが、SUVモデル「アウルス・コメンダント(司令官の意)」です。このモデルはロールスロイス・カリナンよりも大きなボディサイズを持ち、価格は7,560万円からとされています。セナートと同じプラットフォームを共有しながらも、SUVならではの実用性と高級感を両立させた設計となっています。
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大型MPV「アーセナル」
セナートのプラットフォームを使用した大型MPV「アーセナル」も開発されており、2019年のG20大阪サミット時には日本の公道を走行しました。このモデルは政府要人の護衛車両や随行車両としての使用を想定しています。
これらの派生モデル展開により、アウルスブランドは単一車種ではなく、包括的な高級車ラインナップを構築しようとしています。
アウルスセナートの生産は、ロシア連邦内のタタールスタン共和国エラブガ工場で行われています。当初はモスクワにあるNAMIの施設で手作業による組み立てが行われていましたが、2020年末までに専用工場を開設し、本格的な量産体制を整える計画でした。
現在の生産体制は、顧客の要望に応じて装備内容が1台1台異なるオーダーメイド方式となっており、高級車ブランドらしい特別感を演出しています。本格稼働すれば年産5,000台の達成が可能とされていますが、実際の生産台数は需要や国際情勢に大きく左右されています。
興味深いことに、2024年にはトヨタが撤退した旧工場でアウルスの生産が開始されることが発表されました。これにより生産能力の大幅な拡大が期待されています。
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市場戦略の特徴
アウルスセナートの主要な販売対象は以下の通りです。
2019年のジュネーブモーターショーで国際デビューを果たした民生用セダン「コルテージ」は、世界市場への進出を目指していました。当時の計画では、中東やアジア地域での販売拡大が重視されており、ロシア国内だけでなく国際的なブランドとしての確立を目指していました。
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制裁の影響と課題
しかし、2022年のウクライナ侵攻以降、状況は大きく変化しました。国際的な制裁により西側諸国での販売は困難となり、これまで開発に協力してきた欧州企業の多くが撤退を余儀なくされています。特にポルシェエンジニアリングやボッシュといった重要なパートナー企業の撤退は、今後の技術開発や品質維持に大きな影響を与える可能性があります。
また、西側からの部品供給がストップしたことで、メンテナンスや部品調達にも課題が生じています。オーナーにとっては、長期的な保守管理が悩みの種となっているのが現状です。
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それでも、アウルスセナートが示した技術力は確実にロシアの自動車産業の新たな可能性を切り開いています。旧ソ連時代の「ジル」以来となる本格的な高級車として、ロシアの工業技術の象徴的存在となっているのです。
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