アウルスセナート プーチン大統領専用車の全貌

ロシアが国家プロジェクトとして開発したアウルスセナートは、プーチン大統領の専用車として世界的に注目を集めています。その驚異的なスペックと開発秘話とは?

アウルスセナート プーチン大統領専用車

アウルスセナート 基本情報
🚗
開発背景

ロシア政府が120億ルーブル以上を投じた国家プロジェクト

パワーユニット

4.4L V8ツインターボ+ハイブリッドで598hp+62hp

🛡️
装甲仕様

大統領専用車は6.5トンの防弾装甲を装備

アウルスセナート開発プロジェクトの全貌

アウルスセナートは、2013年にスタートしたロシア政府主導の国家プロジェクトの成果物です。プーチン大統領が2012年に200億円の予算を承認し、それまで使用していたメルセデス・ベンツW221プルマンに代わる新たな大統領専用車の開発を命じました。

 

プロジェクトの中心となったのは、ロシア国営の中央自動車エンジン科学研究所(NAMI)です。この研究所は既存の自動車メーカーではなく、技術開発を専門とする機関であり、ゼロから最新の高級車を開発するという野心的な取り組みでした。

 

開発には国際的な協力体制が構築され、以下の企業が参画しました。

  • ポルシェエンジニアリング(パワーユニット開発)
  • ボッシュ(電子システム)
  • ソラーズ(生産協力)
  • LiAZ(バス製造技術)
  • マグナ(4WDシステム)
  • サウンド&サイト(遮音設計)

ブランド名「アウルス(Aurus)」は、Aura(オーラ)、Aurum(ラテン語で「金」の意)、Rus(ロシア)を組み合わせた造語で、ロシアの威信をかけた高級車ブランドとしての位置づけが明確に表現されています。

 

アウルスセナート スペック詳細解析

アウルスセナートの技術仕様は、世界最高峰の高級車に匹敵する性能を誇ります。パワーユニットは、NAMIとポルシェが共同開発した4.4L V型8気筒ツインターボエンジンに、62psの電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用しています。

 

エンジン性能

  • 最高出力:598ps/5,500rpm
  • 最大トルク:880Nm/2,200-4,750rpm
  • モーター出力:62ps
  • 0-100km/h加速:5.8秒(標準モデル)、6秒(リムジン)
  • 最高速度:250km/h(リミッター作動)

ボディサイズ

  • 全長:5,630mm(標準)/ 6,620mm(リムジン)
  • 全幅:2,020mm
  • 全高:1,685mm
  • ホイールベース:3,300mm
  • 車両重量:2,650kg(標準)/ 6,200kg(装甲仕様)

トランスミッションは9速ATを採用し、多板式クラッチを用いた4WDシステムにより、2,650kgの重量級ボディながら優れた動力性能を実現しています。

 

アウルスセナート プーチン大統領専用仕様の秘密

プーチン大統領が使用するアウルスセナートは、一般向けモデルとは全く異なる特殊仕様です。2018年5月7日の大統領就任式で初披露された装甲リムジンは、全長6,620mmのストレッチボディに6.5トンもの防弾装甲を装備しています。

 

装甲仕様の特徴

  • 軍用レベルの爆発物にも耐える防弾性能
  • 20インチの防弾仕様タイヤ
  • 火災・爆発フリーの燃料タンク
  • 緊急用脱出口
  • 衛星通信システム
  • 軍事指令システム

興味深いことに、プーチン大統領専用車には「ユニバース・ブラック」という特別なボディカラーが採用されており、これは事実上の大統領専用色とされています。この恐ろしげな名前のカラーは、ロシアの独裁体制の強力さを象徴しているとも評されています。

 

2019年6月のG20大阪サミットでは、このリムジンが日本に初登場し、プーチン大統領の移動手段として使用されました。同時に、標準モデルのセナートやプラットフォームを共用する大型MPV「アーセナル」も日本の公道を走行しました。

 

アウルスセナート 世界市場への挑戦戦略

アウルスセナートは単なる大統領専用車ではなく、世界市場への進出を目指す商用モデルとしても開発されています。2018年8月のモスクワ国際モーターショーで正式発表された民生用セダン「コルテージ」は、2019年のジュネーブモーターショーで国際デビューを果たしました。

 

市場戦略の特徴

  • ロールスロイスやベントレーより2割安い価格設定
  • 中国、中東諸国への積極的な販売展開
  • プーチン大統領による各国元首への直接アピール
  • 2021年5月から本格的な量産体制開始

ロシア政府のデニス・マントゥロフ産業貿易大臣は、「アウルスはロールスロイスやベントレーよりも、価格は少なくとも2割安くなるだろう」と述べており、競争力のある価格設定で世界市場に挑戦する姿勢を示しています。

 

生産は、ロシア連邦内のタタールスタン共和国エラブガ工場で行われており、ロシアの「ソレルス」社とフォードが生産や品質管理に協力していました。ただし、2022年3月1日をもってフォードは撤退しています。

 

アウルスセナート 未来への展望と課題

アウルスセナートは、統合モジュラープラットフォーム(EMP)を基盤として、将来的にはSUV、MPVなどの派生モデルの展開が計画されています。特に注目されるのは、SUVモデル「アウルス・コメンダント(司令官の意)」の登場です。

 

今後の展開計画

  • SUV「コメンダント」の市場投入
  • MPV「アーセナル」の民生版開発
  • 電動化技術のさらなる進化
  • 新興国市場への展開強化

しかし、2022年のウクライナ侵攻以降、国際的な制裁により西側諸国での販売は困難な状況となっています。これまで開発に協力してきた欧州企業の多くが撤退を余儀なくされ、今後の技術開発や品質維持に大きな影響を与える可能性があります。

 

それでも、アウルスセナートが示した技術力は確実にロシアの自動車産業の新たな可能性を切り開いています。旧ソ連時代の「ジル」以来となる本格的な高級車として、ロシアの工業技術の象徴的存在となっているのです。

 

装備面では、アダプティブクルーズコントロールなどの運転支援システム、リアマルチメディアシステム、後席用ドリンククーラー、ミニバーなど、超高級車にふさわしい充実した装備が標準で搭載されています。内装には高品質なウッドパネルが使用され、一部にはオープンポア仕上げが採用されるなど、細部にまでこだわりが感じられます。

 

アウルスセナートは、単なる自動車を超えて、ロシアの国家的威信と技術力を世界に示すシンボルとしての役割を担っています。その成功は、ロシアの自動車産業全体の未来を左右する重要な試金石となるでしょう。