トヨタが開発した「FT-86 Open Concept」は、2013年3月のジュネーブモーターショー、同年11月の東京モーターショーで公開されたコンセプトカーです。初代86をベースに、ルーフ部分を電動開閉式のソフトトップに置き換えた4座のコンバーチブルモデルとなっています。
トヨタの公式発表では「将来のスポーツカーのスタディモデル」と位置付けられていましたが、その完成度の高さから市販化前提で開発されたと多くの業界関係者から指摘されています。電動開閉式のソフトトップは実際に動作可能で、右ハンドル仕様と左ハンドル仕様の両方が製作されました。
このモデルは86が持つ「運転する楽しさ」と「クルマとの一体感」はそのままに、オープンカーならではの「自然との一体感」を付与することを目標に設計されました。
参考:トヨタが2013年に発表した公式プレスリリースでは「オープンFRスポーツ『FT-86 Open concept』を出展」と記載されています。FT-86 Open conceptの公式スペック
FT-86 Open Conceptのデザイン哲学で特筆すべき点が、カラーコーディネーションです。ミラノを拠点とする世界的デザイナーによって選定された色使いは、単なる美的価値ではなく、機能的な意図を持っていました。
外装および内装には、コントラストが際立つ明るいホワイトとネイビーブルーが配置されました。このコントラストにより、車両全体のプロポーションが強調され、デザインの一体感が演出されます。さらに、フロアマットやシートのステッチにはイエローゴールドがアクセント色として採用されました。
この色選定には緻密な意図があります。ルーフを開けた際、このゴールドカラーが視界に入ることで、スタイリングの印象が一変するよう設計されているのです。通常のクローズド状態では上品で高級感あふれる印象。ルーフオープン時にはスポーティな印象へと180度変わる、このダイナミックな視覚効果がこのモデルの隠れた魅力となっています。
FT-86 Open Conceptは非常に高い完成度を保ち、市販化を想定して開発されたにもかかわらず、実現しませんでした。公式な発表こそありませんが、複数の要因が指摘されています。
最大の理由は、当時の市場環境と製造コストの問題です。初代86は「リアルスポーツカー」として、手頃な価格帯を実現することが最大のコンセプトでした。オープン化により必要になる補強構造、電動ソフトトップのメカニズム、および新型クーラーシステムの搭載など、製造工程が複雑化することで、価格上昇が避けられないと判断されたと考えられます。
加えて、当時の市場調査では、日本国内でのオープンスポーツカーの需要が限定的であることが明らかになったと推測されます。一方、海外市場では肯定的な反応が多かったものの、グローバル販売を見据えたコスト・ベネフィット分析では、投資対効果が期待値以下だったと推察されます。
2021年に登場した2代目「GR86」でも、オープンタイプはラインナップされていませんが、SNSやカーフォーラムでは「86オープンの発売を望む声」が今なお消えていません。
市販化されなかったFT-86 Open Conceptですが、その魅力に惹かれたユーザーによる独自カスタムが進められています。YouTube等のカスタムコンテンツでは、市販の軽量カンバストップやグラスファイバー製ハーフトップを使用したDIYカスタムが動画化されています。
一部の愛好家によるカスタムプロジェクトでは、初代86のボディに軽量な断熱性ソフトトップを組み込み、電動式開閉メカニズムを自作する取り組みも報告されています。これらのユーザーカスタムは、公式に市販化されなかったにもかかわらず、86ユーザーがどれほどオープン化を切望しているかを物語る証拠となっています。
カスタム方向としては、①ハーフトップ型:フロント部分のみ開閉可能な軽量構造、②フルオープン型:全面開放を目指し足回りに強化サスペンション装備、③リアウィンドウ交換型:クリアビニールシートによる開放感演出、の3つが主流となっています。
ただし、オープン化に伴う安全性確保(横剛性の維持)は重要な課題です。多くのカスタマイズ例では、補強ロールバーの装備やドア周辺への補強パネル追加が行われています。
市場にはFT-86 Open Conceptに類似したコンセプトを持つオープンスポーツカーが存在します。これらの競合モデルと比較することで、86オープンの位置づけがより明確になります。
| 項目 | 86オープン(FT-86) | ND型ロードスター | S2000後継検討モデル |
|---|---|---|---|
| ボディタイプ | 4座コンバーチブル | 2座オープン | 2座コンバーチブル |
| ルーフ方式 | 電動ソフトトップ | 電動ハードトップ | 検討段階 |
| パワートレイン | 2.0L水平対向 | 1.5L直4 | 2.0L可変出力 |
| 市販化状況 | コンセプトのみ | 市販継続中 | 実現せず |
| 乗車定員 | 4名 | 2名 | 2名想定 |
この表から見えるのは、86オープンの独自性です。他のオープンスポーツカーが2座を基本としているのに対し、86オープンは「4名乗車」という実用性を備えながらも、スポーティなオープン体験を提供する設計になっていたという点です。これは、ファミリー層にも訴求できるコンセプトであり、市場価値が高かったはずのモデルでもありました。
興味深いことに、FT-86 Open Conceptが公開された当時、北米の自動車メディアやフォーラムでは極めて肯定的な反応が見られました。ジュネーブモーターショーの映像が配信されるや、米国の自動車愛好家コミュニティでは「これは必ず市販化される」という確信的な予測が多く見られました。
その背景には、北米市場におけるオープンスポーツカー需要の根強さがあります。ロードスター、ジャガー F-TYPE、メルセデス SLK等の高級オープンカーが継続販売される市場においても、「手頃な価格のFRオープンスポーツ」というカテゴリーは空白状態でした。FT-86 Open Conceptはその空白を埋める理想的な選択肢だったのです。
しかし公式な市販化発表がないまま、2021年の2代目GR86登場時にも「オープンバージョンは実現しない」という事実が確定されました。この決定は、北米の自動車愛好家コミュニティでも大きな落胆を生み出しました。
2025年現在、86オープンの市販化の可能性は完全には否定されていません。複数の産業アナリストが指摘している通り、以下の要因により再び検討される可能性があります。
電動化による製造体系の変化
GR86の次世代モデルでは、ハイブリッド化や完全電動化が検討されています。電動パワートレイン採用により、従来型エンジン搭載モデルより軽量化が可能になり、オープン化による剛性低下への対応が容易になる可能性があります。
マッスルカー回帰トレンド
グローバル市場では、経験価値重視のスポーツカー需要が高まっています。「自然との一体感」を提供するオープンカーは、このトレンドに完全に合致します。
ブランドポジショニング再強化
トヨタのスポーツカーブランド戦略の中核として、GR(Gazoo Racing)ラインが強化される中、86オープンは「GRラインの多様な選択肢」として位置付けられる可能性があります。
2025年の東京オートサロンやジャパンモビリティショーでの86オープン関連のコンセプト発表があるかどうかが、注視されるべきポイントとなっています。

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