パトカーといえば、白黒のクラウンが定番というイメージが長年定着しています。しかし、2024年12月に福島県警に導入された新型のクラウンセダンパトカーは、これまでのパトカー像を大きく変える革新的な存在です。このパトカーの最大の特徴は、水素を燃料とする燃料電池車(FCEV)であるという点です。日本の警察車両として水素燃料を採用したパトカーは、東京都警の「ミライ」パトカーに続く例となりますが、クラウンセダンベースでの導入は全国初となります。
福島県が脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進する中での導入で、東日本大震災からの復興と原子力に依存しない社会づくりという、福島県の思いが込められた特別なパトカーなのです。
新型クラウンセダンのFCEV版の航続距離は、カタログスペックで820kmという圧倒的な長さを実現しています。これは東京からさらに大阪を超えて京都辺りまで走行できる距離であり、水素を一度満充填すれば、福島県内のほぼすべてのエリアで無充填での移動が可能です。
従来のガソリン車パトカーと比較しても、給油の頻度が大幅に削減されるため、業務効率の向上にも貢献します。水素タンクは高圧で密閉されているため、安全面での配慮も施されており、警察車両としての運用に問題はありません。福島県内では水素ステーションの整備も順次進められており、将来的には県内各地での給水補給が容易になっていく予定です。
新型クラウンセダンパトカーには、一般向けのクラウンには装備されていない、警察車両専用の様々な機器が搭載されています。最も目立つのが前面の警光灯で、新型クラウンのフロントグリルデザインに合わせて、他のパトカーでは見られない細長い3灯式の前面警光灯が組み込まれています。これは新型クラウンセダンのデザイン特性に対応させるために、特別に設計されたものです。
屋根には交通機動隊を示す「交1」の対空表示と無線アンテナが装備されており、トランクには補助警光灯2灯も備わっています。トランク容量も広く、ヘルメットや各種装備品の収納に対応できる設計になっており、交通違反の取り締まり業務に必要な機材が十分に積載可能です。
一般的なガソリン車のパトカーとは異なる新型クラウンFCEVパトカーの運用には、隊員への特別な習熟訓練が施されています。福島県警では、この新型パトカーの特性を隊員に十分理解させるための訓練プログラムを実施しており、通常のパトカー操作技術に加えて、水素燃料電池車特有の運転方法や保守管理についての教育を行っています。
配備先は県北が主な管轄エリアとなりますが、県内の主要幹線道路での取締活動が積極的に行われる予定です。さらに県内他エリアでも取締活動が行われることになれば、より多くの県民がこのパトカーを目撃する機会が増えるでしょう。
新型クラウンセダンFCEVパトカーの総導入コストは、約2000万円という高額なものとなっています。ベースとなるクラウンセダンFCEV本体が税込み830万円であることを考えると、無線機や赤色灯、塗装、その他警察車両専用装備品だけで、1000万円以上の追加費用が必要となる計算です。
この導入は国費ではなく県費予算で行われており、福島県が水素社会への取り組みを推進する中での位置づけとなっています。これまでのパトカー導入では、警察庁が定めた基準をクリアした車両が一定数まとめ買いされるケースが多かったのですが、このFCEVパトカーは福島県の特別な政策判断による導入であり、「新燃料電池パトカー社会実装モデル事業」として実装されています。
福島県が新型クラウンFCEVパトカーを導入した背景には、東日本大震災からの復興と原子力に依存しない社会づくりという県の深い思いがあります。内堀雅雄福島県知事の導入式典での挨拶では、「2011年3月11日、福島は東日本大震災と過酷な原発事故に見舞われた。そんな福島だからこそ、原子力に依存しない社会を作りたい。再生可能エネルギー100パーセントを目指したい。水素エネルギーを作り、貯めて、運んで使うというモデルを福島県から始めたい」と述べられており、新型パトカーがこの目標実現の象徴となっているのです。
水素で走るパトカーは、空気清浄機能も備えたマイナスエミッション特性を持ち、さらに給電機能も備わっているため、災害時の電源供給車としての役割も期待できます。福島県内を走行することで、県民に水素エネルギーを身近に感じてもらい、新しいクリーンエネルギー社会への理解を深めるという啓発活動としての側面も重要です。
トヨタ公式サイト:新型クラウンセダンFCEVの詳細スペックと水素技術について確認できる
福島県庁公式サイト:福島県の水素社会推進事業の詳細情報
警察庁公式サイト:パトカー導入基準と警察車両規格の最新情報
新型クラウンセダンFCEVパトカーの導入は、日本の警察車両が新時代へ向かっていることを象徴する出来事です。従来のガソリン車パトカーから、環境配慮型の水素燃料電池車へのシフトは、単なる車両の更新ではなく、社会全体のエネルギー問題に対する姿勢の転換を表しています。今後、他都道府県でも水素燃料電池パトカーの導入が進むのかに注目が集まります。
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