高機動車は1993年以来、陸上自衛隊が連続運用してきた多目的輸送車両です。米軍の有名なハンヴィー(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)を参考に開発され、その外観から「和製ハマー」や「ジャパニーズハマー」という通称でも呼ばれています。防衛省の広報用愛称は「疾風(ハヤテ)」で、部隊内では「高機(コウキ)」と略称されています。
高機動車の開発は、従来の73式小型トラック(ジープ)の老朽化と性能不足に対応するため、トヨタ自動車とJR東日本が設計・開発を行い、日野自動車が製造を担当しています。ダイナやトヨエースなど一般市販量産車の技術を積極的に応用することで、信頼性とコスト効率が高められています。
中古市場での入手について、自衛隊運用の高機動車そのものは一般人が購入することはできません。しかし、トヨタが1996年から2001年まで民生バージョンとして販売した「メガクルーザー」という名称の車両が存在し、この中古車が市場に流通しています。メガクルーザーは当初132台が販売され、警察や消防、地方公共団体、JAFなどで使用されてきた実績があります。ただし販売台数が限定的であったため、中古車市場における流通量も非常に少なく、入手は極めて困難となっています。
中古市場におけるメガクルーザーの価格は、その稀少性から非常に高騰しています。市場流通量の少なさと需要の高さのアンバランスが大きな価格押し上げ要因になっています。
正確な相場データは限定的ですが、カーセンサーやグーネットなどの中古車検索サイトに掲載される台数は常に1~5台程度に留まっており、一台が売却されるとしばらく在庫が途絶える状況が続いています。参考として、2010年代の市場報告では数百万円から1000万円を超える価格帯での取引も報告されており、経年車であっても高値が付く傾向が見られています。
特筆すべき点として、2023年10月には廃棄予定だった陸上自衛隊の高機動車が、屋根や部品などを外した状態で海外向けウェブサイトで販売されていたという事例が報じられました。これは規定に反する行為でしたが、高機動車への国際的な需要の高さを物語っています。
Yahoo!オークションなどのオークションサイトには「自衛隊 高機動車」の検索で、関連部品や小物が約115件程度常時出品されていますが、完全な車両の出品はほぼ見られません。これも稀少性の高さを示す指標となっています。
メガクルーザーおよび高機動車のボディサイズは全長4,910mm × 全幅2,220mm × 全高2,350mm(一部モデルで若干の変動あり)で、一般的なミニバンと比較して横幅と全高が明らかに大きくなっています。しかし、後輪操舵を備えた「逆位相4WS(四輪操舵システム)」を採用しているため、この巨体にもかかわらず最小回転半径は約4.6~6.5m以下に収まり、都市部での走行にも対応できる小回り性能を備えています。
走破性能は市販オフロードカーの倍以上に相当します。水深80cmの河川走行が可能で、左右43度までの傾き角に耐え、60%以上の勾配を登坂でき、75cm幅の溝や50cm以上の垂直段差も乗り越えられます。アプローチアングルは50°以上、デパーチャーアングルは45°以上を確保しており、これらのスペックは乗用車では実現不可能なレベルです。
足回りの特徴として、シャシーだけで応力を受け止めるラダーフレーム構造にダブルウィッシュボーンサスペンション、そしてハブリダクションドライブと呼ばれる特殊駆動構造により、最低地上高は42cmと確保されています。駆動方式はトルセン式センターデフを採用したデフロック付きフルタイム4WDで、不整地での強力なトラクション制御を実現しています。
タイヤは37×12.50R17.5 8PR LTサイズの特注ランフラットタイヤを装備しており、パンク後も走行継続が可能です。さらに空気圧調整装置が搭載されており、砂地や沼などの滑りやすい路面ではドライバーが運転席のスイッチで空気圧を自動調整でき、走破性をさらに高めることができます。このような装備は完全な民生車では例外的です。
高機動車に搭載されるエンジンは、トヨタやトヨエース、日野デュトロなど商用車に採用されるディーゼルユニットに基づいています。初期型には15B-FT型4.1L直列4気筒ディーゼルターボエンジンが搭載され、1999年度からは同排気量の15B-FTE型へ進化しました。
2004年度以降の車両には、日野デュトロ系の4.0L直列4気筒クリーンディーゼルターボエンジン「N04C-TC」ベースの設計が採用されています。2012年度以降の車両では省燃費ディーゼルオイル対応の「N04C-VH」型へさらに改良されています。N04C系エンジンは最高出力170PSと最大トルク44.0kgf・mの性能を発揮し、尿素水補充不要で整備性に優れています。
4速ATは利便性と耐久性に配慮した信頼設計で、軍用車両としての要求仕様に対応したものです。燃費性能に関しては、60km/h定速走行で7km/L以上の性能と、軽油満タンで560km以上の航続力が要求されています。トヨタメガクルーザーの実測値は約7km/Lであり、N04C搭載型でも同型エンジン搭載トラックの平均燃費が10km/L弱であることから、類似の効率が期待できると推定されます。
メガクルーザーは1996年から2001年まで一般向けに販売されたトヨタの民生バージョンです。基本構造や性能は高機動車とほぼ同一ですが、いくつかの装備差があります。
最大の違いは、高機動車は幌(ホロ)構造で、キャビンに側面と天井がなく、開放的な設計になっているのに対し、メガクルーザーはキャビン部分が完全に覆われた閉鎖型の仕様となっています。高機動車のリアハッチは観音開き式で素早い乗降を想定し、側面ドアや幌骨も取り外し可能な設計ですが、メガクルーザーはより乗用車的な利便性を重視した固定式ドアになっています。
乗車定員も異なり、高機動車は前席2名と後部ベンチシート8名で最大10名の乗車が可能なのに対し、メガクルーザーは乗用車的な利用を想定した若干少ない定員設定となっています。高機動車の前面ガラスは前倒しできる構造でフルオープン運用も可能ですが、メガクルーザーはこのような特殊仕様は採用されていません。
装備や機能の可変性でも、高機動車は通信装置やレーダー、ミサイルといったモジュール化された軍用装備の搭載を前提に設計されていますが、メガクルーザーはこのような拡張性を必要としません。加えて、高機動車のランフラットタイヤや空気圧調整装置、ハブリダクションなどの特殊機構は、民生版でも採用されていますが、用途上の重要度が異なります。
メガクルーザーの販売実績から見ると、購入者は警察、消防、地方公共団体、JAFなどの公的機関や準公的機関に集中していました。これらの機関は、高い走破性と積載能力を持つ高機動車の性能を、災害救助や山岳地域への物資輸送に活用してきました。
陸上自衛隊では、イラク派遣時に防弾パネルを内側に取り付けた改造型を配備した実績があり、基本設計の拡張性の高さが実証されています。航空自衛隊と海上自衛隊では、むしろメガクルーザーを運用しており、この民生版の信頼性が確認されています。
災害派遣での活用も頻繁で、人命救助活動や救援物資輸送のほか、大型輸送ヘリコプターCH-47Jに搭載して被災地へ急行する場合もあります。悪路走破性能により、通常の車両では到達困難な山岳地や被災地への進入が可能であり、この特性が災害対応での価値を大きく高めています。駐屯地記念行事でも、その独特の外観から大きな注目を集め、試乗会なども定期的に開催されてきました。
未修正の参考リンク。
自衛隊の高機動車とは?メガクルーザーとは違うのか、性能・払い下げ品・中古車価格が詳しく解説されている
高機動車の走行性能や四輪操舵システムなど、性能面の詳細な解説が記載されている