自動車ナンバー自動読取装置警察庁が捜査に活用

全国1690台の自動車ナンバー自動読取装置が警察庁により設置され、犯罪捜査や盗難車両の追跡に活用されています。システムの仕組みや設置場所、プライバシー問題についてご存知ですか?

自動車ナンバー自動読取装置と警察庁の運用

自動車ナンバー自動読取装置の概要
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通称Nシステム

走行中の車両のナンバープレートを自動読取し、手配車両と照合する警察のシステムです

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全国1690台設置

警察庁が1511台、都道府県が179台を運用し、犯罪捜査に活用しています

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犯罪捜査に活用

盗難車両の追跡や重要犯罪の解決に大きな効果を発揮している装置です

自動車ナンバー自動読取装置の開発経緯と警察庁の導入

自動車ナンバー自動読取装置は、1980年代後半に科学警察研究所とNECが合同で開発したシステムです。増え続ける交通事情と広域犯罪に対応するため、科学警察研究所の鳥羽邦夫氏のアイデアが発端となり、1987年に東京都江戸川区新堀の国道14号に実用第1号が設置されました。ナンバーの頭文字(Number)を取って、Nシステムという通称で呼ばれるようになっています。警察庁は自動車利用の広域犯罪が発生した場合に、交通検問による渋滞等を引き起こすことなく、現場から逃走した被疑車両を速やかに捕捉することを目的として、このシステムの整備を進めてきました。
参考)自動車ナンバー自動読取装置 - Wikipedia

2015年5月時点で全国に1690台が設置されており、その内訳は警察庁の設置台数が1511台、都道府県の設置台数が179台となっています。このシステムは無人検問を目的として開発され、有人検問では対応しきれない全車両の確認を可能にしています。警察白書においては、捜査支援システムのひとつとして位置づけられ、自動車盗事件の解決や殺人・強盗等の凶悪犯罪の解決に多大な効果を上げていると評価されています。
参考)Nシステムの使用目的は犯罪捜査。速度違反に使用するオービスと…

最近では小型の装置を地方道に設置し、裏道走行による追跡失敗の防止や逃走防止を図る動きも進んでいます。また、可搬型Nシステム(可搬型初動捜査支援システム)の運用が開始された地域もあり、犯罪の発生場所に応じて設置場所を自由に変えることができるようになっています。​

自動車ナンバー自動読取装置の仕組みと照合プロセス

自動車ナンバー自動読取装置は、通過した車両(2輪を除く)を全て自動で記録し、警察の手配車両リストと自動的に照会する仕組みを持っています。特殊カメラでナンバープレートを撮影し、画像からナンバープレートを判別する際に、同時に運転者や同乗者も撮影されるとの臆測があります。最新のNシステムでは、オービス同様に運転している人の顔の撮影も可能となっています。​
手配車両が通過してナンバープレートがヒット(完全一致)またはニアヒット(一部一致)した場合、手配車両と推定されると同時に車種・所有者・メーカーなどが自動的に割り出されます。自動照会してから5~6秒ほど後に「N号ヒット(Nヒット)」の一斉指令が関係部署に伝達され、ヒットした車両付近の警察官や巡回中のパトカー、捜査車両にも通知されます。通信指令室等からの命令に従い、該当する手配車両を追尾し、失尾や放尾等がなければ検挙となる流れです。
参考)nシステムとは一体何の意味があるの?自動車ナンバー自動読取装…

撮影には赤外線カメラを使用しているため、フラッシュを必要とせず、通過時に光ることはありません。ただし、ドライブレコーダーには光が映ることもあります。取得されたデータは一定期間(30年間)保存され、データ検索も可能となっています。このデータ保存により、撮影日以降に起こった犯罪に使われた車両の動向を検索し、証拠として裁判所に提出することもできます。
参考)みんながオービスと見間違えちゃうNシステムの怖さを検証!【交…

高速道路上でも問題なく読み取ることができる性能を持ち、約180km/hで通行する車両も判読可能です。一部機種の記憶媒体には「車両の通過時刻(観測日・時・分・秒)」、「観測車両の走行速度」、「観測車線の交通量(ナンバーが読めなかった車両についても別途カウントした情報)」が一連情報として蓄積されます。​

自動車ナンバー自動読取装置の設置場所と配置戦略

自動車ナンバー自動読取装置は、犯罪に使われた車を探すことを目的に、人通りが多いところや犯罪が行われると困る場所に戦略的に設置されています。具体的な設置場所としては以下のような場所が挙げられます。
参考)【Nシステムとは?】設置されてる場所や目的、オービスとの違い…

📍 主要交通インフラ

  • 主要国道・高速道路などの重要道路
  • 高速道路のインターチェンジの出入口付近
  • 県境の周辺
  • 繁華街(渋谷区道玄坂、新宿区歌舞伎町など)

🏢 重要施設周辺

  • 都道府県庁
  • 原子力発電所
  • 空港(成田国際空港・東京国際空港周辺)
  • 一部の火力発電所
  • 自衛隊及び在日米軍関連施設
  • オウム真理教などの宗教関連施設の周辺

高速道路では目立つので分かりやすいですが、主要な国道や空港、原子力発電所の付近などにも設置されています。路肩を含む道路上のすべての車両が撮影されており、対象者が路肩走行する場合でも発見できるよう、全ての車線に加えて路肩にも設置することもあります。​
高速道の料金所では、停車位置の前面に特殊な補助照明装置(赤外線ストロボ等)を付けて設置し、車両通過時にナンバー・搭乗者を撮影するものもあります。装置は小型化されており、歩道橋、電柱、照明柱、標識や情報板の門柱など様々な箇所への設置が可能です。​

自動車ナンバー自動読取装置が解決した重要事件

自動車ナンバー自動読取装置は、1993年以降、数多くの重要犯罪の解決に貢献してきました。盗難車両の監視や自動車利用犯罪の被疑者の追跡に用いられ、重要犯罪等発生時には不審車両の洗い出しにも使われています。​
以下の表は、Nシステムが捜査に用いられた主な事件をまとめたものです。​

事件名 発生時期 内容
甲府信金OL誘拐殺人事件 1993年8月 初期の重要事件での活用事例
富士フイルム専務殺害事件 1994年2月 企業関連の重要事件
埼玉愛犬家連続殺人事件 1995年1月 連続殺人事件の捜査
オウム真理教事件 1995年5月 国家を揺るがす重大事件
福岡一家4人殺害事件 2003年6月 家族を巻き込んだ凶悪事件
奈良小1女児殺害事件 2004年11月 子どもが被害者の事件
東名高速夫婦死亡事故 2017年10月 社会問題化した事故事件
渋谷ハロウィンにおける暴力行為等処罰法違反事件 2018年10月 集団犯罪の摘発

2017年に起きた「東名高速夫婦死亡事故」や2020年以降、社会問題となった「あおり運転」の捜査に使われたことからも、無人検問として十分機能していることが証明されています。実際に、警察の手配車両リストと撮影したナンバー(車両の形状や色などの情報も)を自動的に照会することで、即座に該当の車両を発見し速やかな事件解決に繋げる役割を果たしています。​
多くの自動車盗事件を解決しているほか、殺人、強盗等の凶悪犯罪等の重要犯罪の解決に多大な効果を上げており、警察の捜査支援システムとして欠かせない存在となっています。
参考)急ブレーキに注意!? 紛らわしいオービスとNシステム、交通取…

自動車ナンバー自動読取装置とオービスの違い

自動車ナンバー自動読取装置とオービス(速度違反自動取締装置)は外観が類似しているため混同されがちですが、その目的と機能には明確な違いがあります。両者の主な違いを理解することで、運転中の不必要な不安を解消できます。​
システムの目的と機能の違い
自動車ナンバー自動読取装置はオービスとは違い、スピードをデジタル化する機能がありません。そのため、Nシステムでは速度を計測できず、スピード違反で検挙することはないと言われています。オービスは速度違反車両のみを撮影するのに対し、Nシステムは通過する全車両を撮影するという撮影の仕組みにも違いがあります。
参考)Nシステムとは? 目的やオービスとの違い、見分け方、捕まるの…

外観上の識別ポイント
Nシステムとオービスを見分ける最も分かりやすい方法は、パトライトの有無です。オービスにはカメラの横にパトライトが付いていますが、Nシステムにはパトライトが付いていません。また、オービスは撮影時に赤もしくは白の強い光を放ちますが、Nシステムは赤外線カメラを使用しているため、フラッシュを必要とせず光を放つことなく撮影しています。​
事前告知の違い
オービスは設置場所を通過する前に予告看板が設けてあるため、設置場所を事前に把握することが可能です。一方、Nシステムは予告板により事前に存在が予告されるオービスとは異なり、特に夜間は何の前ぶれもなく目前に突然現れます。このため、オービスと勘違いして慌てて急ブレーキを踏むケースが多発しており、Nシステム付近にはブラックマーク(急ブレーキの痕跡)がよく見られます。​
⚠️ 注意点
Nシステムは速度計測機能はありませんが、連続撮影が可能なため、撮影した時間と車間距離を計算することで、実際の走行速度を割り出すことは理論上可能です。また、Nシステム通過後に警察が待ち構えていて捕まる場合もあるため、Nシステムとオービスの判別ができたとしても、安全運転を心がけることが重要です。​

自動車ナンバー自動読取装置のプライバシー問題と課題

自動車ナンバー自動読取装置は、その高い捜査効果の一方で、深刻なプライバシー侵害の問題を抱えています。このシステムでは通過する車両を特殊カメラで無差別に撮影し、画像からナンバープレートを判別する際に、同時に運転者や同乗者も撮影されるため、プライバシーなどの人権侵害の問題が懸念されています。
参考)Nシステムって合法なの!? 身近に潜むナンバー読み取り装置の…

プライバシー権の観点からの問題
憲法13条が記す「幸福追求の権利」の一部として含まれるプライバシーの権利の視点から見ると、車上にある犯罪とは無関係のドライバーの顔を撮影し記録することは、プライバシーの権利の乱暴な侵害と言わざるを得ません。最高裁もみだりに人の肖像を撮影することは憲法上の自由を侵害する旨判断してきた経緯があります。実際にNシステムに対してプライバシー侵害による損害賠償の訴訟まで提起されてきましたが、最高裁の判断はまだないものの、司法はNシステムを是認してきました。​
データ管理と監視の問題
全国560地点(当時)の路上に設置されているNシステムは、通過車両の全ての車両のナンバーを撮影・記録しており、データは検索性を持っているため、全国でいつどこを通ったかが簡単に後検索が可能な状態になっています。しかも重大なプライバシー侵害の恐れがあるのに、運用に関してまったく規制やルールが存在しないという点が指摘されています。
参考)ASCII.jp:【'99プライバシー・シンポジウムレポート…

実際の悪用事例
1999年9月、新潟県中越地方の某警察署課長(当時40歳)が女性警察官との交際を巡り辞職しましたが、新潟県警察がこの課長の自家用車の動きをNシステムで追跡していた事が、『新潟日報』のスクープで明らかになりました。非番者の動向監視に用いられた事で悪用であるとの指摘がされており、日常的に警察官や警察職員の動向監視のためにも使用されている可能性があります。​
情報流出事件
2006年には、愛媛県警察の捜査員がWinnyを使用した際にAntinnyと思われるコンピュータウイルスに感染し、システムが設置されている愛媛県・香川県・徳島県の国道及び高速道路を通過した車のナンバープレート情報と通過日時が記録されたファイルが、他の捜査情報と共にインターネット上へ流出した事件も発生しています。この際流出した情報は約10日分、車両台数にして10万台超とされています。
参考)Winny で流出、Nシステムが記録した10万台の情報

監視社会への懸念
一部では個人移動監視システムともいわれており、本来の容疑者の追跡のほかに、警察官の動向を監視するために使われた実績があるため、国民の全動向を把握する監視システムが着々と完成しつつあるという懸念が指摘されています。警察の言い分によると違法性のないナンバーは即時消去されるということですが、過去の事件捜査で撮影日以降に起こった犯罪の証拠として使用されていることから、全データが蓄積されていると考えた方がつじつまが合うという見方もあります。​
訴訟の中で国側(警察側)は撮影し記録しているのはナンバーだけで、ドライバーの肖像は撮影・記録していない旨主張していますが、盗難車両や犯罪捜査を目的とするNシステムからドライバーの肖像を撮影し記録しないというのはにわかに信じ難く、逆にそうでない旨の立証が国側に求められています。​
自動車ナンバー自動読取装置の詳細な仕組みや歴史、問題点についてはWikipediaで確認できます
Nシステムの使用目的や設置場所、オービスとの具体的な違いについて、こちらの記事で詳しく解説されています