ダイハツが満を持して発表した新型コペンの最大の特徴は、軽自動車では異例となるFR駆動の採用です。2025年10月29日のジャパンモビリティショー2025で公開されたK-OPENコンセプトは、単なるデザイン提案ではなく、実走可能な試作車「K-OPENランニングプロト」とともに発表されました。これは、ダイハツがこの構想を真摯に開発している証拠であり、軽スポーツカー市場における本気の取り組みを示しています。
FF駆動からFR駆動への変更により、前後重量配分が理想的な50:50に近づくことになります。スポーツカーにとって最も重要とされる重量配分の最適化により、ニュートラルなハンドリング特性を実現。ステアリングと駆動を分離することで、ステアリングフィール は飛躍的に向上し、クリアで正確な操舵感覚を獲得します。特に、アクセル操作で車両の姿勢を積極的にコントロールすることが可能となり、FRならではのダイナミックな走りが実現されるのです。
新型コペンにおけるもう一つの革新的な技術が、スラントエンジン搭載による低重心化です。従来、軽自動車に搭載されるエンジンは、エンジンルームに納まるよう横置きまたは立てられた形で配置されてきました。しかし、新型コペンではエンジンのシリンダーを意図的に傾斜させ、縦置きにする「スラントエンジン」を採用します。
このスラントエンジンの採用により、エンジン全体を低い位置に配置することが可能となり、重心を下げることができます。低重心化は、スポーツカーにおける走行安定性と操舵応答性の向上に直結する重要な要素です。これまで軽自動車のボディサイズという制約の中では実現困難とされていた技術的工夫が、ダイハツの商用車用エンジンを活用することで初めて実現されたのです。なお、このスラントエンジンは自社の軽トラック用ユニットを流用する形で開発されており、既存技術の有効活用による効率的な開発方法が取られています。
参考:ダイハツ工業 ジャパンモビリティショー2025出展車両情報
https://www.daihatsu.co.jp/
新型コペンのデザインは、初代コペン(2002年発売)へのオマージュが随所に見られるレトロモダンなスタイルに統一されます。現行の2代目コペン(2014年~)は角張ったデザインが特徴でしたが、新型では親しみやすく愛らしい表情を取り戻します。特に注目すべきは、初代コペンで人気だった丸型ヘッドライトの復活です。
この丸目デザインは、スポーツカーとしての精悍さと親しみやすさの両立を目指した現代的な解釈が加えられています。フロント・リアを含め、丸型の灯火類の採用により、初代コペンを彷彿とさせながらも、最新の照明技術(LED)が組み込まれた洗練された仕上がりとなっています。一方、ボディ全体のプロポーションは、拡大されたホイールベースと低められた全高により、より低重心でスポーティな印象を与えます。
現行モデルで採用されていた着せ替え可能な「DRESSパーツ」(ローブ、エクスプレイ、セロ)によるバリエーションは、新型では廃止され、単一の統一デザインに集約されます。これにより、シンプルで一貫性のある美学が追求されるとともに、生産効率の向上と開発コストの最適化も実現されると見られています。電動開閉式ルーフ「アクティブトップ」については継続採用されており、20秒程度でのルーフ開閉機能により、オープンエアドライブの楽しさは損なわれません。
新型コペンに搭載されるパワートレインは、直列3気筒の660ccターボエンジンです。最高出力は自主規制値である64馬力を予定しており、現行モデルと同等ですが、最大トルクについては10.0kgmへの向上が見込まれています。トランスミッションは、6速マニュアルと6速オートマチックの2種類が用意される予定です。特に注目すべき点は、6速MTの設定です。
現行モデルでは5速MTの設定でしたが、新型では6速化により、より多段化されたギア比設定が可能になります。これにより、高回転域でのエンジン効率が向上し、FRスポーツカーとしての走行性能がさらに高められるでしょう。メーターパネルの表示から推測されるレッドゾーン(7000~9000rpm)の設定により、高回転型エンジンとしての特性が強化されていることが伺えます。6速ATについても、従来のCVT(無段変速機)から多段オートマチックへの変更により、ダイレクト感のある走りが実現されるため、自動変速車を選択するユーザーにとっても、スポーツドライビングの満足度が大幅に向上すると期待されます。
新型コペンのボディサイズは、軽自動車規格の枠内に収められながら、走行性能を向上させるための工夫が随所に施されています。予想値として、全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,230mm(前モデル比-50mm)、ホイールベース2,265mm(前モデル比+35mm)が見込まれています。特に重要な変更点は、全高を50mm低くしたこと、そしてホイールベースを35mm延長したことです。
全高の低下は、重心の低下と低重心化の追求につながり、スポーツカーに必要な操舵応答性と走行安定性の両立を実現します。ホイールベースの延長は、FR駆動レイアウトに必要とされるエンジンルームのスペース確保とともに、前後のオーバーハングを適切に配分することで、より安定した走行フィールを生み出します。予想される車両重量は850kg前後と見られており、軽量化への徹底的な追求も継続されるでしょう。
これらのサイズ変更により、軽自動車という限られたボディサイズの中で、最大限のスポーツ性能を引き出す設計が実現されているのです。特に、FR化に伴う前後重量配分の最適化と相まって、コーナリング性能や操舵応答性においては、従来の軽自動車の常識を大きく上回る走行体験が提供されると期待されます。
参考:webCG 新型コペンの開発情報記事
https://www.webcg.net/articles/-/52847
興味深いのは、新型コペンの開発過程において、当初は普通車規格への格上げが検討されていたという点です。2023年のジャパンモビリティショーで公開された「VISION COPEN」は、1.3L直列3気筒ターボエンジン(120ps/13.5kgm)搭載の普通車サイズを想定していました。全長は3,835mm(現行比+440mm)、全幅1,695mm(+220mm)へと大幅に拡大される予定でした。
しかし、最終的にダイハツは軽自動車規格を維持する方針に転換しました。その背景には、複数の重要な理由があります。まず、既存のコペンオーナーおよび軽スポーツカーの潜在ユーザーの多くが、軽自動車規格の継続を望んでいたことが挙げられます。軽自動車税(約4,500円/年)は普通自動車税(約7,500~30,500円/年)の大幅な削減となり、保険料や諸経費においても大きなアドバンテージを持ちます。
加えて、「軽オープンスポーツ」というブランドアイデンティティと、取り回しの良さ(全長3.4m未満)は、都市部での使用や日常的な取り扱いやすさにおいて、普通車への格上げでは失われてしまう重要な価値観です。さらに、軽自動車FRスポーツという唯一無二のニッチポジションを確立することで、普通車スポーツカーと明確に差別化することが可能になるのです。この経営判断により、ダイハツは確実な市場需要を確保しながら、開発コストを抑制するバランスの取れた戦略を採用したと言えるでしょう。
新型コペンのベースグレード(MT)については、250万円からのスタート価格が予想されています。AT車は255万円、上級グレード(MT)で280万円、上級グレード(AT)で285万円、そしてGR SPORTグレード(予想)では300万円前後に設定されると見込まれています。現行モデルのローブ CVT(198万円)と比較すると、約50万円程度の価格上昇となりますが、これはFRプラットフォームの新規開発、最新デジタル装備の搭載、そして走行性能の大幅な向上を考慮すれば、妥当な価格設定と言えるでしょう。
発売時期は2027年3月の予定です。現行コペンは2026年8月末での生産終了が発表されており、その後の半年間は開発や最終調整期間として機能するものと見られています。マーケティング面では、2026年後半の市販モデル先行情報公開により、購買意欲を高めるのに対して、2027年の春先という時期選択は、新生活シーズンの購買需要を見越した戦略的な判断です。
競合分析の観点からは、新型コペンが軽自動車FRオープンスポーツという唯一無二の立場を確立することが重要です。ホンダS660は2022年3月に生産終了され、現在は中古車市場での高値がついていますが、新たな軽FRスポーツの供給により、この市場の飢渇を満たすことができます。スズキ カプチーノ(1998年生産終了)の後継への期待も高まっていますが、新型コペンはその期待に応えるポジション確保へと動くでしょう。
参考:car-repo 新型コペンの最新情報
https://car-repo.jp/blog-entry-daihatsu-new-copen-full-model-change-latest-information-scheduled-for-release-in-2027.html