ベルト式無段変速機は、2つの可変径プーリーと金属ベルトで構成されています。入力側のプーリー幅が狭まるとベルトが外側に押し出され、そのベルトの位置変化により回転速度の比率(ギア比)が連続的に変化するという仕組みです。この方式は1987年にスバル・ジャスティに初めて搭載された電子制御金属ベルト式CVT(ECVT)以降、日本の自動車メーカーを中心に大きく普及してきました。
ベルト式には複数の素材バリエーションが存在します。スチールベルト式は強靱な特殊鋼を重ね合わせ、その間に金属製の「コマ」と呼ばれる部品をはめ込んだ構造であり、高いトルク容量を持ちます。一方、乾式複合ベルト式は金属と樹脂の複合素材を使用し、高い油圧を必要としないメリットがありますが、許容トルクに制限があるため軽自動車向けに限定されています。
ベルト式の利点は部品点数が少なく小型化に有利な点、そして最高95%という高い伝達効率が実現できる点です。変速時のショックやタイムラグがほぼ感じられず、信号待ちが多い街乗りや渋滞での運転において特に快適性が発揮されます。さらに、エンジン回転数を最適に維持できるため、同等クラスのAT車(有段自動変速機)と比べて燃費が向上する傾向にあります。
しかし、高速走行時にはプーリーの回転数が高くなり、遠心力によってベルトとプーリーの密着力が低下するため、大きな油圧が必要となり、高速域での伝達効率が低下するという課題があります。また、アクセルペダルを踏み込んでからエンジン回転が上がるまでに遅れが生じる「ラバーバンドフィール」と呼ばれる現象や、機械騒音の問題も存在します。
チェーン式無段変速機は、ベルトの代わりに金属チェーンを使用する機構です。ベルト式に比べると変速比幅が異なる特性を持ち、スバルの「リニアトロニック」がこの方式の代表例として知られています。チェーン式ではプーリー巻きかけ半径を小さく設定できるため、同じ体積でより広い変速比幅を実現することが可能です。
チェーンはベルトに比べて張力により動力を伝達する仕組みになっており、低速側・高速側の変速比における伝達効率がベルト式よりも良好とされています。最近の技術進化により、2021年現在ではチェーン式で90%の伝達効率が実現されており、これは従来の金属ベルト式の80%台を上回る効率です。
チェーン式の主な課題は、点接触で動力を伝達するため、面接触するベルト式と比べてピンとプーリーの騒音が大きくなりやすい点です。さらに、最大許容トルクが400N・mという制限があるため、高出力エンジンには採用しにくいという制約があります。日産のジヤトコ製CVT-8やCVT-Xも金属チェーン式ですが、これらは高トルク対応のため異なる設計思想を取り入れています。
トロイダル式無段変速機は、従来のベルト・プーリー方式とは異なる革新的な構造を持ちます。入力軸に繋がった円盤(インプットディスク)と出力軸に繋がった円盤(アウトプットディスク)を向かい合わせ、その間に複数の転輪(パワーローラー)を配置し、パワーローラーの傾斜角を変化させることで可変変速比を実現する仕組みです。
実用化されたトロイダル式には二つのタイプが存在します。日産が1999年に発表した「ハーフトロイダル式」は、漏斗状のディスクにパワーローラーを押し当てるもので、球形パワーローラーの伝達効率が高く理想に近いとされています。一方、イギリスのトロトラックが2003年に発表した「フルトロイダル式」は、窪みのあるディスクでパワーローラーを挟み込む方式で、線で接する円盤形パワーローラーを採用しています。
トロイダル式の最大の特徴は、高圧下で粘度が上昇するトラクションオイルを介して動力を伝達する「トラクションドライブ形式」を採用していることです。このため、一般的な車両用オイル(エンジン油やATF)とは異なる専用品が必ず必要となります。トロイダル式は理論上は最高97%という優れた伝達効率が報告されており、理想的な機構と考えられています。
しかし、実用化の過程で複雑さとコスト面の課題に直面しました。日産が1999年にセドリック・グロリアに搭載したエクストロイドCVTは、同車種の通常AT搭載車と比べ約50万円高い価格設定となり、また故障時の修理費が100万円を超える高額になる問題が生じました。これらの理由から2005年に全ての生産が終了し、自動車用としてはわずか6年の搭載期間に終わりました。
副変速機付CVTは、日産とジヤトコが共同開発した無段変速機で、従来のベルト式CVTの変速比幅の制限を克服する革新的な設計です。セカンダリープーリー(出力側プーリー)の後に遊星歯車式の副変速機を設置し、この副変速機が前進2段の有段変速機能を担当する構造になっています。
技術的には、発進時はCVTのプーリー比が最大で副変速機が前進Loで作動し、速度が上がるにつれてプーリー比が小さくなると同時に、副変速機が前進Hiへ自動変速することで、従来のCVT比で4.1と小さくしながらも、システム全体で7.3という広大な変速比幅を実現しています。この設計により、発進加速性能と高速走行時の燃費向上が同時に達成されるため、燃費効率が優先される現代の自動車設計において採用が急速に広がっています。
副変速機付CVTの採用車種は急速に増加しており、日産ではシルフィ、ジューク、ノート、マーチ、デイズなど多数の車種に搭載されています。スズキも副変速機構付CVTをスペーシア、ハスラー、ワゴンRといった人気軽自動車に採用しており、三菱のINVECS-III CVTもこのカテゴリーに含まれます。
油圧系の無段変速機は、自動車用の摩擦式CVTとは異なる方式で、エンジンで駆動させた油圧ポンプが発生させた油圧を油圧モーターで再び回転力に変換する仕組みです。静油圧式無段変速機(HST)は特に農業機械や建設機械の分野で広く採用されています。
HST方式の最大の利点は、レバー操作だけで無段階での加速・減速・停止・後退が可能であり、クリープ現象がないため細かい速度制御に優れている点です。農業用トラクタのコンバインハーベスターは1950年代にはすでに可変ベルト駆動を使用していましたが、より高度な制御が必要な用途ではHST方式が採用されてきました。ただし、ベルト式CVTに比べると伝達効率が低く、内部の潤滑と冷却を常に行う必要があるため、一定以上のエンジン回転数を保たなければならないという制限があります。
自動車購入時に無段変速機の種類を理解することは、実用的な観点から重要です。現在、一般的な乗用車に搭載される無段変速機はベルト式が大多数を占めており、スバルのリニアトロニック(チェーン式)を除けば、ほぼこの方式で統一されています。副変速機付CVTもベルト式の拡張型であり、基本原理は同じです。
購入検討時の選択ポイントとしては、街乗りと渋滞での快適性を重視する場合はベルト式で十分な性能を発揮します。一方、高速走行の比重が多い長距離利用を想定している場合は、副変速機付CVTやチェーン式を備えた車種の方が、高速域での効率を優先した設計になっているため、燃費面で有利になる傾向があります。
燃費性能の比較では、日本のJC08モード測定時には従来のCVT搭載車がMT車やステップAT車より燃費値が良い車種が多くなっています。しかし欧州複合モード(一定負荷連続運転や高速走行の比重が大きい)で測定すると、MT車の方が良好な結果が出る場合もあります。この差は、ベルト式CVTが高速域での効率低下という物理的な制限を持つため、一定負荷での長距離走行に最適化されていないことを示しています。
無段変速機の技術進化は、ベルト式の課題である高速域効率の改善に向かっています。2018年にトヨタが導入した「Direct Shift-CVT」は、低速域でハスバ歯車式のギア駆動を併用することで、加速時のもたつき感を改善し、変速比幅を7.5に拡大しました。2019年にはダイハツの「D-CVT」が高速域でCVTと直結ギアを併用する方式を導入し、高速域での伝達効率を8%向上させています。
これらの進化の共通点は、CVT単独では解決できない課題に対して、ギア直結や動力分割機構といった補助的な機構を統合する戦略を採用していることです。このトレンドは今後も続くと予想され、より複雑で多機能な無段変速機システムが登場する可能性があります。
一方、チェーン式CVTの効率改善も継続しており、2021年には最高90%の伝達効率が実現されています。これは従来のベルト式の最高性能を上回るもので、チェーン式の採用拡大が進む可能性を示唆しています。
参考リンク:無段変速機の標準化と技術動向について、日本の知的財産専門機関で詳細な技術解説がされています。
無段変速機の機構分類と産業動向
参考リンク:ウィキペディアの無段変速機ページでは、各方式の歴史と技術的詳細、世界中のメーカー採用事例が網羅的に解説されています。