ダイハツが2017年の東京モーターショーで発表したDNコンパーノは、1963年に登場した初代コンパーノの精神を受け継ぐコンセプトカーとして大きな注目を集めました。初代コンパーノは、ダイハツにとって初の本格的な4輪乗用車として、小型オート三輪が主力だった同社の歴史を大きく変えた記念すべきモデルでした。
初代コンパーノの最大の特徴は、イタリアのカロッツェリア「ヴィニャーレ」が手がけたエクステリアデザインでした。優雅なスタイルは日本車離れしたイタリアンな雰囲気をまとい、当時の日本人にとって憧れの存在だったイタリア車の魅力を国産車で実現したのです。
ボディサイズは全長3800mm×全幅1425mm×全高1430mmと非常にコンパクトで、800ccと1000ccのガソリンエンジンに4速MTまたは2速ATを組み合わせていました。多彩なボディタイプが用意され、セダンは2ドア・4ドア、3ドアのバンとワゴン、2ドアピックアップトラックに加えて2ドアのオープンカーも設定されるなど、ダイハツの力の入れようがうかがえます。
特に注目すべきは1965年に登場した「スパイダー」で、1リッターの高性能ツインキャブエンジンを搭載し、ベルリーナの屋根を取り去ったオープンモデルとして、手軽にスポーツカー気分が味わえるモデルとして話題を呼びました。また、1964年の東京オリンピックでは聖火と共に伴走したことでも有名で、日本の自動車史に深く刻まれた存在となっています。
DNコンパーノは、初代コンパーノをオマージュしながらも現代的な解釈を加えた流麗な4ドアクーペとして設計されました。「DN」は「DAIHATSU NEWNESS(新しさ)」の頭文字で、創業110周年を機に軽自動車だけでなく登録車でもさらなる挑戦に踏み出すことを意気込んだネーミングでした。
エクステリアデザインの最大の特徴は、ロングノーズ・ショートデッキのスポーティなプロポーションです。丸型LEDヘッドライトや薄型グリルを組み合わせたレトロモダンなスタイルが印象的で、流麗なラインで構成されたボディは、リアの絞り込まれた造形や張り出しのあるフェンダーが往年のクーペらしいエレガントさを演出しています。
大型のフロントグリルやテールフィン、縦型のリアコンビランプなど、初代コンパーノのアイコンを継承しつつ、さらに洗練されたデザインとなっています。特にこだわりを感じるのが、フロントグリルに取り付けられているダイハツのエンブレムで、オリジナルを基にリデザインした盾タイプの専用品が装着されています。
ボディサイドには「シューティングライン」と名付けたキャラクターラインを入れることで、実寸からは信じられないほど伸びやかなフォルムに仕上がっています。ルーフ部分はセダンでありながら、まるでクーペのように低く、なだらかな形状で、赤いボディに対して白く塗られたピラー部分は、1968年の東京モーターショーに出品された幻の試作車、コンパーノ「スポーツクーペ」を彷彿とさせる仕上がりとなっています。
DNコンパーノの内装は、航空機のコックピットをモチーフにしたパーソナル感の強い仕上がりが特徴です。インパネ周りは元祖コンパーノの丸型2連メーターをオマージュしつつ、現代的な機能性を兼ね備えたデザインとなっています。
ドアトリムとの連続感を持たせながらも、センターコンソールをあえて分離することで軽快な印象を演出しており、運転席と助手席の独立性を高めた設計が施されています。この設計思想は、DNコンパーノのターゲット層である「アクティブシニア」のニーズを反映したものです。
アクティブシニア層とは、すでに子育てが一段落した世代で、ちょっとしたドライブや近所のカフェへ出かけるのに使えて、いざという時は子供や孫も乗せられるスタイリッシュなセダンを求める層を指します。基本的には1人もしくは2人で乗ることを想定したクーペでありながら、いざというときの使い勝手にも配慮した設計となっています。
この世代は、実用性だけでなく、所有する喜びや運転する楽しさを重視する傾向があり、DNコンパーノはそうしたニーズに応える「小さな高級車」として位置づけられていました。コンパクトながらもプレミアム感を演出し、さりげなく、それでいて生き生きと新しい人生を歩みたい人々への提案として開発されたのです。
DNコンパーノのボディサイズは、全長4200mm×全幅1695mm×全高1430mmと、国内5ナンバー枠に収まる設計で、都市部での取り回しにも配慮されたパッケージでした。特に全長はトヨタ「ヤリスクロス」とほぼ同等で、3ボックスのセダンながら手ごろなサイズにまとめられています。
このコンパクトなボディサイズは、日本の道路事情や駐車場事情を考慮した実用的な設計でありながら、外観は非常にスタイリッシュに仕上げられています。一見すると2ドアクーペに見えるが、実は4ドア4人乗りになっているという巧妙なパッケージングが施されており、実用性とスタイリッシュさを両立させています。
ショーカーならではの大径ホイールや低く構えた車高が、高級感と存在感を引き立てており、コンパクトカーでありながらプレミアム感を演出することに成功しています。キャブフォワードの美しいコンパクト4ドアクーペとして、今後軽自動車と小型車の境界が車両開発面でも税制面でもどんどん曖昧になっていくという流れへの対策としても位置づけられていました。
パワートレインについての詳細な情報は公開されていませんが、ダイハツの技術力を結集したコンセプトカーとして、環境性能と走行性能を両立させた設計が想定されていたと考えられます。
DNコンパーノは発表から8年が経過した現在でも、市販化に向けた具体的な情報は発表されていません。しかし、このコンセプトカーが自動車業界に与えた影響は決して小さくありません。
ダイハツがDNコンパーノを通じて示したのは、軽自動車専門メーカーというイメージからの脱却と、小型車市場への本格的な再参入への意欲でした。55年ぶりにコンパーノの名前を引っ張り出してきたのは、ダイハツがここへきてあらためて軽だけじゃなく小型車に力を入れるという意気込みの表れと解釈されています。
同様の動きはライバルのスズキでも顕著に見られ、今後軽自動車と小型車の境界が車両開発面でも税制面でもどんどん曖昧になっていくという業界の流れに対する対策として注目されています。
DNコンパーノが提示した「小さくてもプレミアム」というコンセプトは、SUVタイプや大型セダンばかりではない、新しい価値観を自動車業界に提示しました。特に高齢化社会が進む日本において、アクティブシニア層をターゲットにした車両開発の重要性を示した点で、業界全体に大きな示唆を与えています。
市販化の可能性については、ダイハツの経営戦略や市場動向によって左右されると考えられますが、DNコンパーノが示したデザインコンセプトや技術思想は、今後の同社の車両開発に確実に活かされていくものと期待されています。歴史的なモデルを現代人へ向けて再解釈した、長い伝統を誇るダイハツだからできた提案として、自動車史に残る重要なコンセプトカーとなっています。