カロッツェリア・ヴィニャーレは、第二次世界大戦前からピニンファリーナの母体である「スタビリメンティ・ファリーナ」で修行したアルフレード・ヴィニャーレが、戦後の1948年に興した名門ボディ工房です。ヴィニャーレは非常に優れた能力を持つボディ製作職人であり、同じくスタビリメンティ・ファリーナ出身であるスタイリスト、盟友ジョヴァンニ・ミケロッティとの名コラボレーションによって、数多くの名作を生み出しました。
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彼のコーチワーク技術はフェラーリやマセラティ、ランチアにも認められ、正式なカタログモデルとしても芸術性の高い車が数多く生み出されることになりました。1960年代に入って自社でデザインワークまで行える体制を確立すると、量産メーカーのデザインも主導するようになり、日本の「ダイハツ コンパーノ(1963~70年)」を手掛けたことは、ヴィニャーレの名声が遠く東洋まで轟いていたことを示す好例です。
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ヴィニャーレは、ミケロッティの描いた下描き程度のデザインスケッチを正確な設計図へと変身させた上で、アルミ板から見事なボディラインをたたき出すという卓越した技術を持っていました。この匠の技によって生み出された車両は、単なる移動手段ではなく、走る芸術品として今なお高い評価を受けています。
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リアエンジン+後輪駆動レイアウトとともに、1955年にデビューしたフィアット600は、当時のイタリアにおいて国民車的な小型大衆車でした。その水冷直列4気筒OHVエンジンは当初633ccでスタートし、1960年には767ccにスケールアップした「600D」へと進化を遂げています。
フィアット500をベースとしたヴィニャーレのカスタムモデルは、標準車とは一線を画す独自の魅力を持っていました。ヴィニャーレでは、600の発売直後から「ランデヴー(Rendezvous)」と名づけられた600ベースのクーペを少量製作していましたが、新生600Dの登場に伴ってリニューアルを図りました。
参考)限定車・その他
こうして誕生した新「フォーリ・セリエ」では、ランデヴーの後継にあたるクローズドのクーペにくわえて、スタイリッシュなスパイダーも用意されました。これらのモデルは、フィアットの正規ディーラーでも購入可能な特別仕様車として製作され、ベース車両にはない上質な内装と洗練されたボディデザインが施されていました。
カロッツェリア・ヴィニャーレによる1968年製の「フィアット500ガルミネ」は、ヴィニャーレ作品の中でも特に注目すべきモデルです。リアエンジンにもかかわらず、前部にダミーのラジエターグリルを加えて、レトロ風にしたデザインが特徴的です。
参考)#限定車
このガルミネは、時代を感じさせるエレガントなオープン2シーターですが、シャシー&エンジン、さらにはハンドルやメーターまでフィアット500からの流用となっています。しかし、その外観は完全にオリジナルのデザインが施され、標準のフィアット500とは全く異なる印象を与える車両に仕上がっています。
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ヴィニャーレの手による美しいスパイダーは、フィアット600をベースとし、ワインレッドの内装にシルバー・メタリックのボディカラーを組み合わせたとても魅力的な仕上げとなっているモデルも存在しています。近年に至るまで大規模なレストア作業が行われ、その美しさが保たれているコレクション個体も少なくありません。
ヴィニャーレが手掛けたフィアットベースのカスタムモデルは、現在クラシックカー市場において非常に高い評価を受けています。2023年9月、RMサザビーズ欧州本社がサン・モリッツで開催した「St. Moritz 2023」オークションでは、フィアット600をベースとし、ヴィニャーレが手掛けた美しいスパイダーが出品され、約450万円で落札されました。
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フィアット8V クーペ(ヴィニャーレ)の1954年式モデルは、90万7000ドル(約9500万円)で取引された事例もあります。生産台数114台の8Vのうち、わずか2台がこのコレクションに含まれるという希少性が、その高額な価格を裏付けています。
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イセリ・コレクションから出品されたヴィニャーレ製スパイダーは、2014年から2016年にかけて行われた大規模なレストア作業の恩恵を存分に受けており、ワインレッドの内装にシルバー・メタリックのボディカラーを組み合わせた魅力的な仕上げとなっています。このように、適切なメンテナンスとレストアが施された個体は、投資対象としても高い価値を維持し続けています。
ヴィニャーレが手掛けたフィアット500ベースのカスタムモデルは、単なる移動手段を超えた特別な運転体験を提供します。大きいドアは、ジェンセン・インターセプターと同じアイテムが使用されており、ヴィニャーレ社がそのボディ製造も請け負っていたことから採用されました。
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ヘッドライトは、後のポルシェ928にも似たデザインで、ベースとなったアイデアは1963年のコンセプトカー、ベルトーネ・テストドゥだといわれています。ただし、当時のモーター誌による試乗レポートでは、夜間に充分な明るさを得られなかったという記述も残されています。
インテリアは、1960年代後半の量産モデルとして変わった部分はないものの、装備は充実しています。ステアリングホイールはナルディ社製でスポーティですが、シートは快適性重視で、ランバーサポートがしっかり腰を支えてくれる設計になっています。このように、ヴィニャーレのカスタムモデルは、デザインだけでなく実用性と快適性も追求された一台として、オーナーに特別な満足感を与え続けています。