2022年11月に発表された新型セレナは、日産として初めて全車にボタン式シフトを採用したモデルです。従来のe-POWER車で使用されていたジョイスティックタイプから大きく方向転換し、横並びのボタン配置という斬新なデザインを採用しました。
日産自動車広報部によると、この採用には3つの明確な理由があります。
この変更は単なるデザイン上の変更ではなく、セレナというファミリーカーの本質的な価値を高めるための戦略的な判断だったのです。特に、ミニバンユーザーが重視する室内空間の有効活用において、従来のシフトレバーが占めていたスペースを削減することで、より快適な車内環境を実現しています。
新型セレナのシフトボタンは、左からP(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D/B(ドライブ/ブレーキ)の順で横一列に配置されています。この配置は一見シンプルに見えますが、実際には高度な安全機能が組み込まれています。
最も注目すべきは誤操作防止機能です。日産は「誤操作等を考慮し特定条件の操作の場合、ボタン操作のみでは切替を拒否、もしくは安全なレンジへの切替のみ許可している」と説明しています。具体的には以下のような安全対策が講じられています。
これらの機能により、従来のシフトレバーと同等以上の安全性を確保しながら、より洗練された操作感を実現しています。実際の事前撮影会では、参加者から「特に違和感はなかった」という評価も得られており、設計の妥当性が実証されています。
新型セレナのボタン式シフトに対するユーザーの反応は、賛否両論に分かれています。SNSでは様々な意見が飛び交い、自動車業界でも大きな話題となりました。
肯定的な意見。
否定的な意見。
日産販売店では、実際に「使い勝手はどうなのか」「誤操作はしないのか」といった質問を多く受けているとのことです。しかし、販売店スタッフは「慣れるまでに多少の時間はかかると思いますが、それはどのクルマでも同じ」と回答しており、実用性に問題はないとの見解を示しています。
新型セレナのボタン式シフトは、他社の電制シフトシステムと比較しても独特の特徴を持っています。主要な競合システムとの比較を見てみましょう。
トヨタ系システム。
ホンダ系システム。
セレナの横並びボタン配置は、これらの中でも特に独創的なアプローチです。ホンダのステップワゴンも同様にボタン式を採用していますが、縦配列であるのに対し、セレナは横配列を選択しました。この違いは、それぞれのメーカーの設計思想の違いを表しています。
日産の横並び配置の利点は、左右の手の動きが最小限で済むことと、視覚的に全てのボタンを一度に確認できることです。一方で、慣れ親しんだシフトレバーの前後動作とは大きく異なるため、適応期間が必要という課題もあります。
新型セレナのボタン式シフト採用は、自動車業界全体の電動化・デジタル化の流れを象徴する出来事といえます。従来の機械的なシフトレバーから電子制御システムへの移行は、単なる操作方法の変更以上の意味を持っています。
技術的な進歩の側面。
デザイン面での革新。
この変化は、特にファミリーカーセグメントにおいて重要な意味を持ちます。セレナのような大型ミニバンでは、室内空間の最大化が最重要課題の一つであり、シフト機構の小型化は直接的な価値向上につながります。
また、電動化が進む自動車業界において、従来の機械的なシフト機構は必ずしも必要ではなくなってきています。セレナの取り組みは、この技術的変化を先取りした先進的な判断として評価できるでしょう。
今後、他のメーカーも同様の電制シフトシステムを採用する可能性が高く、セレナの横並びボタン配置が業界標準の一つとなる可能性も十分にあります。ユーザーの慣れと受け入れが進めば、従来のシフトレバーは過去の技術となる日も遠くないかもしれません。