ポルシェが2018年に製作した「ヴィジョン・レンディエンスト」は、スポーツカーブランドとして知られる同社が初めて挑戦したミニバンスタイルのコンセプトカーです。車名の「レンディエンスト（Renndienst）」は、ドイツ語で「Renn（レーシング）」と「Dienst（サービス）」を組み合わせた造語で、ポルシェのモータースポーツの歴史と実用性を融合させる意図が込められています。
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このモデルのルーツは、1960年代にポルシェのレースチームでサポート車両として活躍していたフォルクスワーゲン「タイプ2」、いわゆる「ワーゲンバス」に遡ります。当時、「RENNSPORT（レンシュポルト）」のロゴやポルシェのエンブレムを付けたタイプ2がレース現場で使われており、その歴史的背景がこのコンセプトカーの開発動機となりました。レンディエンストのボディカラーが赤いのも、かつてのサポート車両へのオマージュです。
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ポルシェは「広い空間をテーマに据えたとき、ポルシェらしさはどのように表現されるのか」という思考実験から、このプロジェクトをスタートさせました。最大6人が乗車可能なマルチパーパスビークルとして設計され、家族がゆったりとくつろげる空間を提供することを目指しています。2020年に「Porsche Unseen（実現しなかったコンセプトカー）」として世界初公開されましたが、市販化の予定はありません。
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レンディエンストの最大の特徴は、流線型の「タマゴ型」シルエットです。モノフォルムな滑らかなボディラインと、大胆に張り出したフェンダーが目を引くデザインとなっています。大径タイヤと5本スポークのアルミホイール、ホイール内部にはスポーツカー顔負けのブレーキシステムが装備され、ミニバンでありながらポルシェのDNAを強く感じさせる仕上がりです。
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フロント部分には、ミニマリストのLEDヘッドライトとラウンドしたノーズ、アグレッシブなコーナーエアインテークを採用。リアには、ポルシェ「911」や「タイカン」でおなじみの横一文字のLEDテールランプが配されています。この横一文字のライトデザインは、現在のポルシェにも受け継がれている要素です。
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ドアシステムも革新的で、左右のドアは前後にスライドして大開口部を実現する形状となっており、センターピラーレス構造により高い乗降性を確保しています。サイドウインドウは左右非対称にデザインされ、左側はウインドウを最小限にすることで囲まれ感を演出し、右側は大きなウインドウバンクを採用することで外の景色を遮らない設計になっています。この非対称デザインは後席乗員のプライバシーを守る配慮も兼ねています。
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意外なデザイン要素として、傾斜したルーフラインとアグレッシブなサイドスカートの組み合わせがあります。これにより、ファミリーカーとしての実用性とスポーティさを両立させることに成功しています。
レンディエンストの内装は、従来のミニバンの常識を覆す革新的な設計です。最も特徴的なのは、運転席が車両のセンターに配置されたシングルシーター仕様となっている点です。この中央配置により、前方の道路やダッシュボードの画面を障害物なく見渡せるようになっています。
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座席構成は全3列で最大6人乗車が可能です。1列目と2列目のシートは、シートベルトを内蔵した同型のバケットタイプで、人間工学に基づいて設計されています。2列目は独立型のキャプテンシートが2つ設置され、左右にオフセット配置されることで快適性を高めています。3列目は横3人掛けのベンチシートとなっており、ヘッドレストはフローティング設計でリアウインドウの視界も良好です。
参考）ポルシェのミニバンが示唆する未来のコクピット／パッセンジャー…
ダッシュボード周りも未来的な仕様です。ドライバー正面にはポルシェ伝統の5連メーターが配置され、その左右には2列目シート乗員用の大型液晶モニターを装備しています。さらに、ドライバーズシートは180度回転が可能で、駐車時には2列目以降の乗員とコミュニケーションを図ることができる設計になっています。
デジタルライフスタイルとドライバー、乗員、車両の関係に特化したUXデザインが採用されており、スマートフォン世代を対象とした「安全・快適に移動する」というコアバリューが内装全体に反映されています。ドアを閉めると、まるでカプセルに入ったような安心感と快適性を感じられる空間設計となっています。
参考）https://intensive911.com/german-car-brand/porsche/287820/
レンディエンストは、全輪駆動のBEV（バッテリー電気自動車）を想定して設計されています。パワートレインはエンジンではなくモーターで、すべてのコンポーネントを床下に配置することで、広々とした車内空間を実現しています。
床下配置により、従来の内燃エンジン車では避けられなかったエンジンルームやトランスミッションハンプの空間的制約から解放され、乗員空間を最大限に活用できるパッケージングとなっています。出力などの詳細スペックは明らかにされていませんが、電動化されたパワートレインにより、電気信号のスピードで加速を制御する高い応答性と滑らかで上質な走りが期待できます。
参考）電動パワートレイン制御技術
電動パワートレインの採用により、テールパイプからの排気ガスやエンジンノイズがなく、可動部品が少ないため摩耗も抑えられます。さらに、バッテリパック、インバータ、電動モータ、ギアボックスで構成されるBEVパワートレインは、頻繁なメンテナンスが必要な点火プラグやオイル交換が不要になるため、維持費も低くなるという利点があります。
参考）EVパワートレインとは
ポルシェは自働運転モードも備えていると発表しており、将来の自動運転技術との統合も視野に入れた設計となっています。大径タイヤとスポーツカー顔負けのブレーキシステムの組み合わせにより、ミニバンとは思えないスポーティな走行性能も期待できる仕様です。
レンディエンストは、ポルシェのモータースポーツの歴史と深く結びついています。1960年代、ポルシェのレースチームはフォルクスワーゲン「タイプ2」をサポート車両として使用していました。これらのバンには「RENNSPORT（レンシュポルト＝レーシング・スポーツ）」のロゴやポルシェのエンブレムが付けられ、レース機材の輸送や整備スタッフの移動に活用されていました。
「レンディエンスト」という車名は、このレースサポート活動に由来しており、ポルシェの競技活動における実用車両の重要性を象徴しています。ダークレッドの車体色も、当時の「ポルシェ・レンディエンスト・バス」をモチーフにしたものです。
参考）https://news.kakaku.com/prdnews/cd=kuruma/ctcd=7010/id=128234/
興味深い事実として、2023年にはフォルクスワーゲンの電気自動車「ID.Buzz」がポルシェカレラカップのサポート車両として導入されました。この赤い車体のID.Buzzは、まさに当時のサポート車両「ポルシェ・レンディエンスト・バス」へのオマージュとなっており、レンディエンストのコンセプトが現実のモータースポーツシーンでも受け継がれています。
参考）VW『ID.Buzz』がポルシェカレラカップのサポート車両に…
ポルシェはモータースポーツの最高峰でも活躍しており、LMP1クラスに挑んだ「919ハイブリッド」などの開発で培った技術が、このような革新的なコンセプトカーにも応用されています。レンディエンストは、レースで培った技術と日常の実用性を融合させるという、ポルシェの一貫した哲学を体現したモデルといえます。
参考）https://www.porsche.com/japan/jp/aboutporsche/christophorusmagazine/archive/366/articleoverview/article02/
<参考リンク：ポルシェのレンディエンストに関する詳細情報>
ポルシェ斬新「タマゴ型'ミニバン'」に注目！ 'めちゃ薄シート'の「3列6人乗り」仕様！ 「大型スライドドア」搭載のファミリーカー!? 「レンディエンスト」ドイツ仕様とは？ - くるまのニュース
<参考リンク：レンディエンストの内装デザインについて>
ポルシェのミニバンが示唆する未来のコクピット - MOTOR FAN
