三菱パジェロエボリューション最強クロカン誕生秘話

ダカールラリー制覇のために生まれた三菱パジェロエボリューション。わずか2年間の限定生産で終わった幻の最強クロカンマシンの真実とは?

三菱パジェロエボリューション最強クロカン誕生秘話

パジェロエボリューション概要
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ダカールラリー専用設計

1997年発売、世界最過酷ラリーのレギュレーション変更に対応した究極のホモロゲーションモデル

280馬力V6エンジン

3.5L V型6気筒DOHC MIVEC搭載、過給機なしで最高出力280ps/最大トルク35.5kg・mを実現

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専用チューニング

ARMIE独立懸架システム、ワイドボディ、専用エアロパーツで究極の悪路走破性を追求

三菱パジェロエボリューション開発背景とダカールラリー

三菱パジェロエボリューションは、1997年のダカールラリーレギュレーション変更という危機的状況から生まれた究極のクロスカントリーマシンです。1997年から主催者が規定を変更し、メーカーは市販車ベースで改造範囲の狭いT2車両でのみ参戦可能となりました。

 

この規定変更により、三菱は従来のような大幅な改造が許されなくなったため、市販車の段階でレース仕様に近い性能を持つ車両の開発が急務となりました。パジェロエボリューションは、まさにこの「たった1つのレースに勝つため」という明確な目的のもとで誕生した特別なモデルなのです。

 

興味深いことに、パジェロエボリューションの開発コンセプトは、同じ三菱のランサーエボリューションとは根本的に異なります。ランエボがWRCシリーズ戦での総合的な勝利を目指していたのに対し、パジェロエボリューションはダカールラリーという単一のレースでの勝利のみを追求した、極めて特化された設計思想を持っていました。

 

三菱は1983年からダカールラリーに参戦し、1985年には初の総合優勝を果たすなど、パジェロブランドの威信をかけてこの過酷なレースに挑み続けていました。パジェロエボリューションは、そうした15年間の集大成として位置づけられ、「4WDエボリューション、始まる」というキャッチコピーとともに市場に送り出されました。

 

三菱パジェロエボリューション専用エンジンとMIVEC技術

パジェロエボリューションの心臓部には、三菱が誇る6G74型3.5L V型6気筒DOHCエンジンが搭載されています。このエンジンの最大の特徴は、三菱独自の可変バルブタイミング技術「MIVEC(Mitsubishi Innovative Valve timing Electronic Control system)」の採用です。

 

1997年当時のダカールラリーレギュレーションでは、ガソリンエンジンの過給機使用が全面的に禁止されていました。この制約の中で最高出力280ps、最大トルク35.5kg・m(3000rpm)という驚異的な性能を実現したのは、MIVECシステムの恩恵によるところが大きいのです。

 

MIVECシステムは、エンジンの回転数や負荷に応じてバルブの開閉タイミングを最適化することで、低回転域から高回転域まで幅広い領域でトルクフルな特性を実現します。これにより、砂漠の急勾配や深い砂地でも力強い加速を可能にし、ダカールラリーの過酷な環境下での走破性を大幅に向上させました。

 

エンジンの圧縮比は10.0に設定され、無鉛プレミアムガソリンを使用します。燃料タンク容量は75リットルと大容量で、長距離ステージでの給油回数を最小限に抑える設計となっています。

 

当時の自然吸気エンジンとしては異例の高出力を誇るこのエンジンは、後に三菱の他の車種にも展開され、同社のエンジン技術の象徴的存在となりました。

 

三菱パジェロエボリューション専用シャシーとARMIEサスペンション

パジェロエボリューションの走行性能を支える最も重要な要素の一つが、専用開発された「ARMIE(All Road Multilink Independent suspension for Evolution)」サスペンションシステムです。この革新的なシステムは、当時のクロスカントリー車としては極めて先進的な4輪独立懸架を採用していました。

 

従来のクロスカントリー車では、リアサスペンションにリジッド式(固定軸式)が一般的でしたが、パジェロエボリューションは前後ともにダブルウィッシュボーン式独立懸架を採用しました。フロントはダブルウィッシュボーン・コイルスプリング、リアはマルチリンク式ダブルウィッシュボーン・コイルスプリングという贅沢な構成です。

 

最も注目すべきは、前240mm、後270mmという超ロングストローク化です。この設定により、大きな路面の起伏や衝撃を効果的に吸収し、タイヤの接地性を大幅に向上させています。さらに、ショックアブソーバーの減衰力最適化やボールジョイント式スタビライザーの採用により、悪路走破性と乗り心地の両立を実現しました。

 

シャシー面では、ダカールラリーの高速ステージ走行を念頭に、トレッドを前後とも1590mmに拡大しています。これにより、高速走行時の安定性と悪路でのトラクション性能を向上させています。

 

タイヤには専用開発の265/70R16 112Hタイヤと7JJ×16アルミホイールを装着し、過酷な砂漠環境でも確実なグリップ力を発揮します。

 

三菱パジェロエボリューション専用ボディとエアロダイナミクス

パジェロエボリューションの外観は、機能美を追求した専用設計が随所に施されています。ベース車両は2代目パジェロの3ドア・ショートボディ(メタルトップZR-S)ですが、ボディサイズは全長4075mm×全幅1875mm×全高1915mmと、標準モデルよりもワイド化されています。

 

最も印象的な外観上の特徴は、ダクト付きアルミ製ボンネットです。このエアインテークは単なる装飾ではなく、エンジンルーム内の熱気を効率的に排出し、エンジンの冷却性能を向上させる実用的な機能を持っています。

 

フロントオーバーフェンダーには専用のエアアウトレットが設けられ、ホイールハウス内の空気の流れを最適化しています。これにより、高速走行時の空力特性とブレーキの冷却性能を向上させています。

 

リア部分には大型フィン付きリアスポイラーが装着され、高速走行時のダウンフォースを発生させて車両の安定性を高めています。このスポイラーは、ダカールラリーの高速ステージでの空力性能を重視した設計となっています。

 

バンパー形状も専用設計で、迫力ある外観と同時に、悪路での車両保護機能も考慮されています。全体的なデザインは「パキパキとした面構成」で構成され、近未来的な印象を与えながらも、背面タイヤを含む機能的な要素が巧みに組み込まれています。

 

車両重量は1970kgと、専用装備の追加にも関わらず比較的軽量に抑えられており、パワーウェイトレシオの向上に貢献しています。

 

三菱パジェロエボリューション市場投入と現在の中古車価値

パジェロエボリューションは1997年9月に市場投入され、5速MT仕様が374万円、5速AT仕様が390万8000円という価格設定でした。当時としては高額でしたが、その圧倒的な性能と専用装備の充実度を考えれば、むしろリーズナブルな価格設定として受け止められました。

 

生産期間は1997年から1999年までのわずか2年間という短期間で、パジェロ自体が全面改良される1999年まで販売が続けられました。この短い生産期間が、現在の希少価値を高める要因の一つとなっています。

 

現在の中古車市場では、パジェロエボリューションは39万円から635万円という幅広い価格帯で取引されています。状態の良い個体や低走行車両は特に高値で取引される傾向にあり、コレクターズアイテムとしての価値も高まっています。

 

興味深いことに、パジェロエボリューションは当初の販売目標を上回る好調な受注を記録しました。これは、三菱のダカールラリーでの活躍と、パジェロブランドの高い信頼性が市場に浸透していたことの証明でもあります。

 

現在でも自動車愛好家の間では「砂漠のエボ」として親しまれ、その独特な存在感と歴史的価値から、多くのファンに愛され続けています。特に、三菱のモータースポーツ史を語る上で欠かせない重要なモデルとして位置づけられています。

 

2025年現在、パジェロの復活が噂される中で、エボリューションモデルの再登場を期待する声も多く聞かれますが、現在のところ具体的な計画は発表されていません。