
SUPERCAR COMPLETE FILE vol.06 FERRARI 365GT/4 BB
ミッドシップエンジンレイアウトとは、自動車のエンジン搭載位置による分類のひとつで、前輪と後輪の車軸の間にエンジンを配置する方式です。一般的な自動車の多くはフロントエンジンを採用していますが、ミッドシップはエンジンを車体中心部近くに配置することで、優れた運動性能を実現します。
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ミッドシップには大きく分けて2つのタイプが存在します。運転席・助手席後方にエンジンを搭載する「リア・ミッドシップ(MR)」と、前寄りにエンジンを搭載した「フロントミッドシップ」です。世間一般にミッドシップと言えば、スーパーカーやスポーツカーに採用されるリア・ミッドシップを指すことが多いでしょう。
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フロントミッドシップは前車軸よりも後方、かつ前後車軸の間にエンジンを配置したレイアウトで、日産GT-Rなどの高性能車や軽トラックにも採用されています。このレイアウトは前後重量配分50:50を実現しやすく、優れたボディバランスによって高い運動性能を発揮します。
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ミッドシップエンジンレイアウトの最大のメリットは、優れた重量配分による高い運動性能です。車体のもっとも重い部品であるエンジンを車体中心付近に配置することで、重量バランスに優れ、回頭性が良くコーナリング速度が速まるという特性があります。
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リア・ミッドシップ車では、軽量なフロントセクションのおかげで鋭い回頭性を実現し、コーナリング性能が飛躍的に向上します。前後重量配分が最適化されることで、車体の中心付近に重心点が存在し、慣性モーメントの影響を偏った形で受けないため、限界付近でもニュートラルステア特性を示します。
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フロントミッドシップレイアウトでは、前後重量配分50:50が実現されることで、リア車輪軸の荷重が増加し高いトラクション性能を生み出します。またブレーキング時のノーズダイブ量が少なくなり、リアタイヤの接地圧が高く保たれるため、より高い制動力を発揮させることが可能です。
F1をはじめとするフォーミュラカーやレーシングカーに多く採用されているのは、こうした優れた運動性能が理由です。
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ミッドシップエンジンレイアウトには、実用性や居住性の面でいくつかのデメリットが存在します。最も大きな課題は、後部座席を設置できない、または極めて狭い空間になってしまうことです。運転席や助手席の後方にエンジンが搭載されるリア・ミッドシップの場合、二人乗り仕様がほとんどで、大人数でのドライブには不向きです。
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荷室スペースの確保も困難で、積載性が非常に悪くなります。初代NSXはトランクスペース確保のためにリアオーバーハングを異様に伸ばしたスタイリングとなっていたほどです。また、エンジンが真後ろから聞こえてくるため、静かなドライブを好む人にとってはエンジン音が気になりやすいという点もデメリットです。
整備性の悪さも指摘されています。エンジンが車体中央に配置されているため、車検や点検の際にアクセスが困難で、メンテナンスに手間とコストがかかります。さらに、スポーツカーやスーパーカーが多いことから、車両価格自体が高額になり、部品代や整備費も含めて維持費が高くなる傾向があります。
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運動性能面でも、軽量なフロント部分による回頭性の良さは、直進性が損なわれやすいという側面があります。また後輪駆動のMR車では、旋回中の加速シーンでリアスライドによるオーバーステアが発生しやすく、ドライバーの技量が求められます。
ミッドシップエンジンレイアウトとFRレイアウトの最大の違いは、エンジンの搭載位置にあります。FR車はエンジンが前車軸上またはその前方に配置されますが、ミッドシップは前後車軸の間にエンジンが配置されます。この配置の違いが、車両の運動特性に大きな影響を与えます。
一般的なFR車はフロント部分に重量物が集中するため、慣性モーメントの影響を受けてアンダーステア特性を示します。一方、フロントミッドシップレイアウトのFR車では、慣性モーメントの影響を受ける場所が車体中心付近になるため、ニュートラルステア特性を示し、より自然なハンドリングが得られます。
重量配分の観点から見ると、一般的なFR車は前方に重心が寄る傾向がありますが、フロントミッドシップは前後重量配分50:50を実現しやすく、優れたボディバランスを持ちます。この重量配分の違いが、コーナリング性能、トラクション性能、ブレーキング性能といったトータル的な運動性能の差として現れます。
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燃料タンクの位置も重要な要素です。FR車の燃料タンクは車体後方にあるため、燃料が減ると前後重量配分が崩れていきますが、ミッドシップ車では燃料の増減による重量配分の変化が少ないという利点があります。
ミッドシップエンジンレイアウトを採用したスーパーカーの歴史は、ランボルギーニ・ミウラから始まります。1966年に発表されたミウラは、V12エンジンを横置きミッドシップで搭載した初の市販車となり、自動車業界に大きなセンセーションを巻き起こしました。当時、大排気量のV12エンジンを扱っていたのはフェラーリとランボルギーニの二社のみで、ミウラの登場によりランボルギーニは設立後わずか数年でフェラーリと同じステージに立つこととなりました。
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フェラーリもランボルギーニの成功を見て、1973年に初のシリーズ生産されるミッドシップ12気筒モデル「365GT4 BB」をデビューさせました。このモデルはV型12気筒エンジンのバンク角を180度まで開き、ミッドに縦置き搭載するという革新的な設計を採用しています。
国産ミッドシップスポーツカーの代表格は、1990年に発売されたホンダNSXです。発売と同時に注文が相次ぎ、日本製ミッドシップスーパーカーとして世界的に高い評価を受けました。その他、トヨタMR2、ホンダビート、マツダAZ-1といった個性的なミッドシップスポーツカーが日本でも生産されてきました。
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軽自動車でありながらリア・ミッドシップエンジンとスーパーカーのようなレイアウトを採用したホンダS660も、ミッドシップを安価で体験できる貴重なモデルとして知られています。前後異径タイヤとハイグリップタイヤを採用し、シャシー性能を高めることで安心できるバランスに仕上げられています。
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ミッドシップエンジンレイアウトを採用した車両のメンテナンスには、特有の課題があります。エンジンが車体中央に配置されているため、整備作業時のアクセス性が悪く、通常のフロントエンジン車に比べて作業時間がかかります。オイル交換やクーラント交換といった基本的なメンテナンスでも、エンジンルームへのアクセスが限られているため、専門的な知識と技術が必要です。
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ただし、車種によっては整備性を考慮した設計が施されている場合もあります。例えばホンダZでは縦置きミッドシップながら、ジャッキアップせずにオイル交換ができるなど、整備性に配慮された設計が評価されています。一方で、ホンダバモスのようにエンジンが荷室の下に縦置きで搭載されている車両では、整備性が極めて悪いとされています。
参考)X
定期的なメンテナンスは特に重要で、エンジンオイル交換は5,000kmまたは6カ月ごと、冷却水交換は2年ごとが推奨されています。走行状況によっては早めの交換が安心です。スポーツ走行を楽しむ場合には、相応のメンテナンスや調整が必要となりますが、日常使いで流す程度であれば比較的扱いやすいという評価もあります。
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マクラーレンGTのように、ミッドシップスポーツカーでありながら前後に荷室を備えた実用的なモデルも登場しており、従来の「実用性に欠ける」というイメージを払拭する動きも見られます。メンテナンス面での課題はありますが、専門店での定期的な点検と適切な維持管理により、長く乗り続けることが可能です。
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