公害対策基本法は1967年、高度経済成長期の深刻な公害問題に対応するため制定されました。四大公害病と呼ばれる水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく、新潟水俣病などが社会問題化し、国民の健康と生活環境を守る法的枠組みが急務となっていました。この法律では大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭という7つの公害を「典型7公害」と定義し、これらの防止を目的としていました。
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当時の経済発展を優先する姿勢も法律に反映されており、第1条第2項には「生活環境の保全については、経済の健全な発展との調和が図られるようにするものとする」という調和条項が含まれていました。この規定は環境保全よりも経済発展を重視する内容であり、公害を十分に抑え込めなかった一因とされています。公害対策基本法は事業者が発生させた汚染物質の規制を主眼とし、工場や事業所からの排ガスや排水に関する環境基準を設けました。
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制定後も公害問題は拡大を続け、1970年には「公害国会」が召集されました。ここで大気汚染防止法や水質汚濁防止法を含む公害関係法律14法が成立し、日本の公害防止の基礎が概ね完成したとされています。1971年には環境庁が発足し、環境行政の体制が整備されました。企業も公害防止対策に10兆円を超える投資を行い、1980年代には「もはや公害は克服された」と言われるまでに改善が進みました。
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環境基本法は1993年、公害対策基本法を発展的に継承する形で制定されました。1970年代以降、環境問題は国内の産業公害から地球規模の問題へと広がり、オゾン層破壊、酸性雨、地球温暖化といった新たな課題が顕在化していました。1972年の国際人間環境会議(ストックホルム会議)を契機に、環境問題への国際的な取り組みが本格化し、ラムサール条約やワシントン条約などが採択されました。
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公害対策基本法は既存の環境問題への対処を中心としていたのに対し、環境基本法では「環境の恵沢の享受と継承」「環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築」「国際的な協調による地球環境保全の積極的推進」という3つの基本理念が掲げられました。これは政策の範囲が地球規模の広がりを持つことを示しています。環境基本法では国際協調や持続可能な社会についての記載があり、この点が公害対策基本法との主な違いとなっています。
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環境基本法は日本の環境行政の目標や、環境保全についての施策体系の基本的方向性と基準を定める法律であり、現在でも日本における環境規制の根幹となっています。環境基本計画の策定が政府に義務づけられ、公害防止計画とは異なり全国計画として自然環境、都市環境、地球環境などにも対象を広げています。環境基本法の制定により、環境保全のための配慮に軸足を移したと考えられています。
自動車は典型7公害のうち大気汚染、騒音、振動の3つに関わる代表的な公害源です。公害対策基本法の時代から自動車排出ガスの規制は重要課題とされ、1970年の大気汚染防止法や騒音規制法において、環境庁長官(当時)が自動車排出ガスの量や騒音の大きさの許容限度を定めることが規定されました。都市部では交通量の増加により窒素酸化物やPM2.5といった有害物質が大気中に多く含まれ、ぜんそくや気管支炎など健康への影響が問題となっていました。
参考)https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h03/7921.html
環境基本法の制定後、自動車排出ガス規制はさらに強化されました。2001年には自動車NOx・PM法が成立し、対策地域における窒素酸化物及び粒子状物質の排出総量の削減が図られました。この法律では車種規制、事業者排出抑制対策、総量削減計画などが導入され、トラック、バス、ディーゼル乗用車などに使用規制が適用されました。環境基本法では環境負荷活動を行う事業者に対し、公害防止施設の整備費用について補助金交付、税制上の優遇措置、低金利融資などの経済的助成が定められました。
参考)https://www.city.kawasaki.jp/300/cmsfiles/contents/0000095/95244/h29dai3shou-dai6shou.pdf
特定特殊自動車(フォークリフト、ブルドーザー、農業用トラクターなど)についても、2005年に特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(オフロード法)が制定され、環境基本法に基づく規制が強化されました。この法律により、2006年以降に製作または輸入された特定特殊自動車は、基準適合表示が付されたものでなければ国内で使用できなくなりました。近年では電気自動車やハイブリッド車の普及、低公害車の導入が進められ、交通由来の環境負荷を減らす動きが活発化しています。
参考)特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律 - Wikipe…
公害対策基本法は公害の防止を前面に出した目的規定であったのに対し、環境基本法では基本理念規定が充実しています。公害対策基本法では公害防止計画という手法に関してのみ計画的対応にとどまっていましたが、環境基本法では環境基本計画が加えられ、総合的・計画的な施策推進の中心的手段となりました。公害防止計画は公害が著しい地域について都道府県知事が作成する地域計画でしたが、環境基本計画は適用対象区域を限定しない全国計画であり、約5年に1回の改定がなされます。
環境基準の設定についても両法律で規定されていますが、環境基本法では大気、水質、土壌、騒音、ダイオキシンの5分野における具体的数値が維持されることが望ましい基準として定められています。環境基準は広範囲の公害対策の数値目標を示す努力目標であり、直接的な罰則はありませんが、科学技術の進歩とともに常に科学的判断が加えられ、必要な改定が行われます。一方、公害規制法では個々の工場や事業場から排出される地点における許容限度を定めた「排出基準」が設定され、これを超える場合は罰則などの強制的措置が取られます。
環境影響評価(環境アセスメント)の推進も環境基本法で規定されており、大規模な開発事業が環境に与える影響を事前に評価する仕組みが整備されました。環境基本法は環境に関わる法律の最上位に位置し、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、悪臭防止法などをベースにしながら、循環型社会形成推進基本法を盛り込み、廃棄物の処理やリサイクルを進めるための法律体系が整備されています。環境政策の範囲は環境省が主管する狭義の環境政策だけでなく、他省庁の主管や共管で企画・立案・推進される広義の環境政策も含んでいます。
参考)302 Found
環境基本法では国、地方公共団体、事業者だけでなく、国民の責務も定められています。国民の責務として、日常生活に伴う環境への負荷低減に努めること、国や地方の環境保全施策に協力することが規定されていますが、違反に対して直接の罰則を科すものではありません。車を運転する人にとって、この責務は自動車排出ガスの削減や騒音・振動の抑制に関わる重要な義務といえます。
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自動車は排気ガス・騒音・振動の三重苦をもたらす代表的な公害源であり、都市部では窓を開けられないという住民の声も少なくありません。道路沿いの住宅では騒音や振動が睡眠障害やストレスの要因になっています。環境基本法第37条と第38条では、環境保全に係る費用負担について原因者負担と受益者負担の原則が定められており、公害や自然環境保全上の支障を防止するために必要な費用は、その必要性を生じさせた者が負担することができるとされています。
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車を運転する際には、アイドリングストップの実践、急発進や急加速を避けるエコドライブの心がけ、定期的な車両点検による排ガス性能の維持などが環境負荷低減につながります。また、可能であれば電気自動車やハイブリッド車、低公害車の選択も有効です。環境基本法の目的は国民の生活や人類の福祉のためであり、人は環境の創造物であると同時に環境の形成者でもあります。車を運転する一人ひとりが環境への配慮を意識することで、持続可能な社会の構築に貢献できます。
環境基本法に基づく監視体制も整備されており、国内の川や湖、海湾などには9,000地点以上の公的水質監視箇所が、市街や主要道路、工場近辺などには2,000カ所の大気観測局が設置されています。これらの監視・測定・公表体制が環境施策の基礎となっており、車を運転する人も環境状況の把握に関心を持つことが求められています。
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