日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)の選考委員は、60名を上限とする自動車の専門家で構成されています。選考委員には、モータージャーナリスト、自動車メディアの編集長、レーシングドライバー、さらにはクルマに造詣の深い著名人などが含まれ、多様な視点から評価が行われます。選考委員になるには、実行委員から推薦を受け、さらに実行委員の投票で上位60名以内に入る必要があり、非常に狭き門となっています。
選考委員は毎年改選され、数名ずつ入れ替わる仕組みです。一方で、30年以上選考委員を務めるベテランも存在し、経験豊富な委員と新しい視点を持つ委員がバランス良く配置されています。選考委員に選ばれた後も、毎年実行委員の投票によって信任を受け直す必要があり、その責任は重大です。
選考委員の主な仕事は、対象期間内に発表または発売された乗用車すべてに試乗し、総合的に評価することです。例えば2022-2023年度は48台がノミネートされたため、月平均で4台の新型車に試乗する計算となり、相当の時間と労力を要します。試乗会への参加だけでなく、技術者との対話や意見交換の機会も与えられ、各車の理解を深めることが求められます。
選考委員になるための明確な資格基準は公表されていませんが、自動車に関する記事を定期的に掲載している雑誌媒体からの推薦が前提条件となります。候補者として推薦されても、実行委員の投票で上位60名に入らなければ選考委員にはなれません。この選出プロセスにより、専門性と信頼性を兼ね備えた委員が選ばれる仕組みが確立されています。
選考委員の多くは、自動車ジャーナリストとしての実績や、メディアでの執筆活動が評価されて選ばれています。例えば、フリーアナウンサーの安東弘樹氏は、現役の社員アナウンサー時代に選考委員に選ばれた珍しいケースです。これは、自動車関連の番組やイベントでの活動が認められた結果であり、必ずしもフリーランスのジャーナリストだけが選考委員になれるわけではないことを示しています。
選考委員には、単なる自動車愛好家ではなく、技術的な知識、評価能力、公平性が求められます。各メーカーやインポーターが主催する試乗会に参加し、コンパクトカーからスーパーカーまで幅広い車種を評価する能力が必要です。また、選考結果は自動車業界に大きな影響を与えるため、メーカーからの圧力に屈しない独立した視点を持つことも重要な要素となります。
選考委員は年間を通じて、各メーカーやインポーターが主催する試乗会に参加します。試乗会は通常3日間から1週間程度の期間で開催され、予約制で数十人の選考委員が順次試乗する形式です。コンパクトカーやミニバン、小型SUVなどの日常使用を想定した車種は、都内や横浜市内のホテル駐車場で1~2時間程度の試乗が行われます。
一方、スポーツカーや高性能車の評価には、富士スピードウェイや袖ヶ浦フォレストレースウェイなどの専用コースが使用されます。特に10ベストカー選出後の最終試乗会では、選考委員全員が同じ条件で10台を一気に試乗できる機会が設けられ、これが最終投票前の重要な判断材料となります。サーキットでの試乗により、車の限界性能や安定性、ハンドリング特性などを詳細に評価できます。
試乗会では、単に走らせるだけでなく、技術者との質疑応答や、車両の細部まで観察する時間が確保されます。選考委員は、デザイン、性能、品質、安全性、環境負荷、コストパフォーマンスなど多角的な視点から評価を行い、それぞれの車の個性や特徴を理解します。これらの経験を基に、選考委員は10ベストカーの選出と最終投票を行うのです。
選考は2段階のプロセスで行われます。第1次選考では、選考委員がノミネート車の中から最終選考に相応しいと判断した10台を選び、投票します。獲得票数の上位10モデルが「10ベストカー」として選出され、この段階では順位はつけられず、すべて同格として扱われます。2024年度のように同票で11台が選ばれることもあります。
第2次選考(最終選考)では、配点方式が採用されています。2023年から導入された新システムでは、各選考委員が16点の持ち点を10ベストカーのうち3モデルに配点します。最も高く評価するモデルに必ず10点を、2位に4点を、3位に2点を投じることが義務付けられています。この方式により、選考委員の評価が明確化され、各車の得点合計で日本カー・オブ・ザ・イヤーが決定されます。
この配点方式は、以前の25点を5台に分配する方式から変更されたものです。新方式では、選考委員がより明確に上位3台を選ぶ必要があり、曖昧な評価を避けることができます。理論上の最高得点は10点×60名=600点となり、最高得点を獲得した車がその年のイヤーカーとしてトロフィーを授与されます。選考委員別の配点は公開され、透明性の高い選考プロセスが確保されています。
選考委員の中には、特定の専門分野を持つ専門家が多く含まれています。例えば、モータースポーツ出身の選考委員はドライビング性能を重視し、環境問題に詳しいジャーナリストは燃費や排出ガスを重視するなど、それぞれの視点から評価が行われます。この多様性こそが、カー・オブ・ザ・イヤーの総合的な評価を支える基盤となっています。
近年、選考委員の間では「多様化したクルマの中から1台を選ぶことの意味」が議論されています。電動化、自動運転技術、コネクテッドカーなど、パワーユニットや技術の種類が増え、完全に別の種類のクルマを同じ基準で評価することの難しさが指摘されています。それでも選考委員たちは、コンセプト、デザイン、性能、品質、安全性、環境負荷、コストパフォーマンスを総合的に評価し、その年を代表する1台を選び続けています。
選考委員の評価は、自動車業界に大きな影響を与えます。カー・オブ・ザ・イヤー受賞車は販売促進の強力な武器となり、メーカーにとっては開発努力が認められた証となります。選考委員の中には、自分が高く評価したクルマを実際に購入する人もいますが、「いろんなクルマに乗らなければならないから自分のクルマは持たない」と宣言する委員もおり、その姿勢は評価の公平性を象徴しています。
選考委員が評価する際、一般のユーザーが気付きにくい細かな点も重視されます。例えば、スバル・クロストレックが10ベストカーに選ばれた理由の一つは、電子制御ではなくエンジニアリングによって改良されたサスペンションの動きでした。選考委員は、プロトタイプ段階での試乗経験から、市街地走行での疲労軽減や快適性向上につながる基礎技術の進化を高く評価しました。
また、日産セレナのように、プラットフォームとエンジンが先代と同じでも、最適な改良によって静粛性や視界が大幅に向上したケースも評価されます。選考委員は「単なる使いまわし」ではなく、既存パーツを熟知したうえでの最適化を見抜き、ロングセラーモデルならではの成熟度を評価します。ファミリーカーとしての使用シーンやドライバーの多様性を理解した設計は、専門家の目には明確に映るのです。
選考委員のコメント評価も重要な役割を果たします。10ベストカーそれぞれに対して選考委員がコメントを残すことで、多くの人が各車の個性を知ることができます。あまり知られていない事実として、選考委員は101方式による評価も行い、総評も必ず提出します。これらのコメントは、単なる点数以上に、なぜその車が評価されたのか、どこが優れているのかを具体的に伝える情報源となっています。
日本カー・オブ・ザ・イヤー公式サイト - 選考委員一覧
選考委員の名前や経歴、各委員の評価コメントが掲載されており、選考の透明性を確認できます。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考基準
選考方法や評価基準の詳細が記載されており、選考プロセス全体を理解するための重要な情報源です。
安東弘樹氏が語る選考委員の実態
現役選考委員による内部視点からの解説で、選考委員の日常業務や選考の難しさが具体的に説明されています。