トヨタ自動車は2023年4月10日、同社の代表的なミドルクラスセダン「カムリ」の国内生産を2023年12月下旬をもって終了することを正式に発表しました。この発表に先立ち、3月22日には全国のトヨタディーラーに対して国内販売終了の通知が行われており、業界関係者の間では既に終了が既定路線として認識されていました。
カムリの生産終了は、ピクシスジョイ(2023年6月上旬)、パッソ(2023年9月下旬)と合わせて発表され、トヨタのラインナップ整理の一環として実施されました。現行の10代目カムリは2017年にフルモデルチェンジを果たしたばかりでしたが、わずか6年という短いサイクルで国内市場から姿を消すことになりました。
興味深いのは、カムリの受注停止が2022年8月の最終改良後、短期間で実施されていた点です。当初は新型モデルの登場を期待する声もありましたが、2023年に入ってからは「新型生産打ち切り」という情報が販売店に伝えられ、最終的に国内市場からの完全撤退が決定されました。
カムリの国内生産終了の最大の理由は、深刻な販売不振にあります。日本自動車販売協会連合会のデータによると、2021年度の国内販売台数は8,933台、2022年度にはさらに減少して5,750台となり、販売台数上位50位からも外れる状況でした。
この販売不振の背景には、日本市場における「セダン離れ」という大きなトレンドがあります。近年、SUVやミニバンなどの多目的車の人気が高まる一方で、従来型のセダンは市場シェアを失い続けています。特に、同じトヨタのコンパクトカー「ヤリス」が約19万1千台を売り上げているのに対し、カムリは20分の1以下という極端な格差が生じていました7。
また、カムリのポジショニングにも問題がありました。FFミドルサイズセダンという位置づけで、価格帯も中級車クラスに設定されていましたが、日本市場では「大型セダン=成功者の象徴」という従来の価値観が薄れ、実用性を重視する消費者のニーズとマッチしなくなっていました。
さらに、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に起因するサプライチェーンの混乱も、販売台数の急激な低下に拍車をかけました。部品供給の滞りという外的要因も重なり、トヨタは最終的に国内市場でのカムリ継続を断念せざるを得ませんでした。
国内での生産終了とは対照的に、カムリは海外市場では依然として高い人気を維持しています。2022年のグローバル販売台数は約60万台に達し、そのうち日本国内の販売はわずか1%程度という状況でした。
特にアメリカ市場でのカムリの人気は圧倒的で、1982年の上陸以来約1,300万台を売り上げ、2022年には全米で20年連続のセダン部門売上トップを記録しました。北米市場では乗用車部門で16年連続販売台数1位の実績を誇り、SUVが市場を席巻する中でも毎年ベスト10以内の上位に位置し続けています7。
アメリカでカムリが支持される理由として、実用的でコンパクト、そして壊れにくいという評判が定着していることが挙げられます。また、2018年のフルモデルチェンジでアグレッシブなデザインに変更されたことで、より多くの北米ファンを獲得したとされています。
アジアの新興国においても、カムリは「ワンランク上のセダン」としての揺るぎない地位を確立しており、現在100カ国以上で販売が継続されています。累計販売台数は1,800万台を超え、トヨタのグローバル戦略車としての重要な役割を果たし続けています。
カムリの歴史は1980年に「セリカ カムリ」として始まりました。当初は後輪駆動(FR)を採用したクーペ「セリカ」の4ドアセダン版として登場し、若々しいスタイリングと4輪独立サスペンションの採用により「スポーティセダン」の個性を強く打ち出していました。
1982年の2代目では車名から「セリカ」が外され、前輪駆動(FF)を採用することで独立した車種として確立されました。この世代からグローバル展開が開始され、以降現行モデルに至るまでFFミドルサイズセダンの世界戦略車という特徴を維持してきました。
日本市場でのカムリは、モデルチェンジのたびにボディサイズの拡大や高級化が実施され、一時は5ナンバーサイズ維持のために日本専用モデルが設定されるなど、国内ニーズに合わせた調整が行われていました。しかし、1998年7月にはカムリグラシアに統合され、日本国内専用のカムリは一度消滅しています。
現行の10代目カムリは2017年に登場し、TNGAプラットフォームの採用により低重心なスタイリングを実現、歴代のどのカムリよりもスタイリッシュなデザインに進化しました。エモーショナルでスポーティなフォルム、スリムなアッパーグリルと立体的なロアグリルの対比により、FF最上級セダンとしての貫録を演出していました。
カムリの国内生産終了は、日本の自動車業界における大きな転換点として位置づけられます。これにより、トヨタのセダンラインナップは5車種(カローラセダン、カローラアクシオ、プリウス、センチュリー、MIRAI)に減少し、FF方式のミドルサイズセダンは完全に消滅することになりました。
この動きは他メーカーにも波及しており、近年ではトヨタ「マークX」、日産「シーマ/フーガ」、ホンダ「レジェンド」などが相次いで販売を終了しています。セダン市場の縮小は業界全体の課題となっており、各メーカーはSUVやクロスオーバー車へのシフトを加速させています。
一方で、トヨタは2023年秋に「クラウンセダン」の発売を発表しており、セダン市場への取り組みを完全に放棄したわけではありません。カムリの消滅と新しいセダンの登場は、日本市場におけるセダンの再定義を示唆しているとも考えられます。
また、カムリの生産終了は、日本の自動車文化の変化を象徴する出来事でもあります。かつて「大型セダン=成功者の象徴」という価値観が存在していましたが、現在では実用性や燃費性能、多目的性を重視する消費者のニーズが主流となっています。
海外では新型カムリ(11代目)が2023年11月に米国で世界初公開され、中国でも発表されるなど、グローバル市場での展開は継続されています。これは、日本市場の特殊性と海外市場でのセダンニーズの違いを明確に示しており、今後の自動車メーカーの戦略にも大きな影響を与えると予想されます。
トヨタ公式サイトでは、カムリの生産終了に関する詳細情報が掲載されています。
https://toyota.jp/info/end_product/20230410/
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