街中で目にする青色の回転灯を装備した車両は、「青色防犯パトロール車両」、通称「青パト」と呼ばれています。一見するとパトカーに似ていますが、実は警察が運用する車両ではなく、警察から「自主防犯パトロール」の適正な運行が認められた市町村や町内会などの地域団体が運用する防犯パトロール用車両です。警察のパトカーは赤色の回転灯を装備し、緊急走行が可能な緊急車両として扱われますが、青パトは赤色ではなく青色の回転灯を装備し、緊急走行は行いません。この色の違いが最も分かりやすい識別方法となっており、ドライバーや地域住民が一目で区別できるよう設計されています。
法令では一般自動車への回転灯装備を禁止していますが、自主防犯パトロール運動の高まりに伴い、2004年12月1日に道路運送車両法の保安基準が緩和されました。これにより、警察からの認可を受けた団体であれば青色回転灯の装備が許可されるようになったのです。申請には警察署と陸運局への手続きが必要で、誰もが自由に青パトを運用できるわけではなく、厳格な基準を満たす必要があります。
青パトが導入される以前、日本の防犯状況は深刻な課題に直面していました。2002年と2003年には、刑法犯の認知件数が戦後最多の約285万4061件に達し、社会全体に大きな不安をもたらしていました。特に1996年から毎年増加し続けていた犯罪数は、警察力だけでは対応しきれない状況となっていたのです。このような背景のなか、地域住民の間に「自分の街は自分で守る」という自主防犯意識が芽生え始めました。
この時期、既存の防犯団体は徒歩によるパトロールを実施していましたが、限られた人員で広い範囲をカバーすることは困難でした。歩きによるパトロールに比べて、少人数で広範囲を移動できる自動車パトロールの必要性が高まり、防犯団体から「緊急車両のような回転灯を装備することでより効果が向上する」という意見が相次ぎました。これが、警察庁と国土交通省に青パト制度の創設を促すきっかけになったのです。
2004年12月1日の青色防犯パトロール導入から現在に至るまで、青パトの普及は驚くべき速度で進みました。導入当初、全国で約100団体しかなかった自主防犯団体は、現在では7000を超える規模に成長しています。さらに、青パト車両の台数も8万台以上に達し、全国津々浦々で地域住民の安全を守る活動が展開されています。
この急速な拡大の背景には、青パトの高い視認性による犯罪抑止効果が確認されたことがあります。2003年をピークに刑法犯の認知件数は減少し続けており、2019年の時点では74万8559件(2002年比で74%減)となりました。市町村数で平均すると、全国のすべての市町村で1日あたり約1.2件の刑法犯が発生しているという計算になりますが、この大幅な減少は青パトの導入を含めた自主防犯活動の効果を示しています。各地域の状況に応じた柔軟な対応が可能であり、窃盗や器物損壊、暴行傷害といった「街頭犯罪」を中心に一定の抑止効果を発揮しているのです。
青パトの運用は完全なボランティア活動であり、多くの防犯団体が深刻な資金難に直面しています。一般に認識されていない現実として、青パトの車体購入費用はもちろんのこと、巡回のためのガソリン代、車両整備代、車検代、自賠責を含む自動車保険代、そして日常的な維持費に至るまで、すべてが自己負担であることが挙げられます。緊急走行が可能な警察のパトカーと異なり、青パトには安定した予算配分がなく、団体の経済力によって青パトの完成度が大きく変わるのが実情です。
地方自治体が主体となる防犯団体では予算が付くため、パトカーを模した高品質な青パトを購入できますが、町内会や自治会などの民間団体は金銭的な安定収入が見込めません。このため、広告を施す程度の簡易的な車両から、個人所有の軽トラックに回転灯だけを取り付けたものまで、その完成度は実に様々です。なかには青色回転灯を1ランク下のスピーカー無しの物にせざるを得ない団体もあり、経済的な制約が活動の質に直結しているという課題があります。
大阪市などでは資金面での支援が進みつつあり、日本財団の「チーム青パト」プロジェクトといった慈善団体による青パト車両の寄贈や購入費用の一部助成といった取り組みが行われています。しかし、全国的な支援体制はまだ十分とは言えず、多くの防犯団体が自己資金と献金で何とか活動を維持しているという厳しい現状があります。
青パトを運用する団体は、単に青色回転灯を装備すれば良いのではなく、厳格な法的要件を満たす必要があります。申請時に満たすべき基準として、まず申請団体は市町村、警察本部長からの委嘱を受けた団体、地域安全活動を目的とした一般社団法人やNPO法人、または市町村長の認可を受けた自治会など、特定の形態のいずれかに該当する必要があります。次に、実績と計画に照らして継続的な自主防犯パトロール実施が認められることが求められます。
さらに重要な要件として、青色防犯パトロール講習を受講していることが挙げられます。この講習では、パトロール中に予想される事案への対応方法や、適切なパトロール方法についての知識を習得します。申請はパトロール地域を管轄する警察署を通じて行われ、パトロール実施者証の交付後、約2年毎に青色防犯パトロール講習を受講することが義務付けられています。さらに証明書発行から15日以内に地方運輸支局で、自動車検査証に自主防犯活動用自動車として記載される必要があり、行政手続きの層も厚いのです。
重要な法的限定として、青パトは回転灯を装備していても道路交通法の定める緊急車両には該当せず、サイレンを鳴らしての緊急走行はできません。つまり、通常の交通ルールに従って走行する必要があり、優先通行権も持たないのです。この点は、事案発生時の初期対応能力に影響し、警察への通報と協働することが青パト活動の基本原則となっています。
警察庁「青色回転灯等装備車の運用状況」ページ - 全国の青パト運用状況や統計情報を確認できる公式資料
Wikipedia「青色防犯パトロール」- 導入背景から運用実態、法的基準まで網羅した総合的な情報源