ワンメイクレースは、同一車種・同一仕様の車両で競い合うモータースポーツです。国内では自動車メーカーが主催するシリーズから、バイク、カートレースまで、幅広いカテゴリーが展開されています。JAF公認の参加型レースとして、アマチュアドライバーでも本格的なレース体験ができる環境が整っています。
国内で開催されている主要なワンメイクレースには、以下のような種類があります。
自動車レース系
GR86/BRZ Cupは、2022年から開催されている国内最大規模のワンメイクレースです。トヨタGR86とスバルBRZの専用車両を使用し、プロフェッショナルシリーズとクラブマンシリーズの2クラスで展開されています。全国の主要サーキットを転戦し、1大会で100名を超えるエントリーを集める盛況ぶりです。
N-ONE OWNER'S CUPは、ホンダの軽自動車N-ONEを用いた手軽さがコンセプトのレースです。十勝スピードウェイ、スポーツランドSUGO、モビリティリゾートもてぎ、筑波サーキット、富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、岡山国際サーキット、オートポリスの全国8サーキットで年間11戦が開催されています。ナンバー付き車両で参戦できるため、参加のハードルが低いのが特徴です。
ロードスター・パーティレースⅢは、マツダ製ロードスター(NR-Aグレード)のナンバー付き車両を使用します。北日本シリーズ(スポーツランドSUGO)、東日本シリーズ(筑波サーキット)、西日本シリーズ(岡山国際サーキット)の3シリーズに分かれ、東日本では旧型NC型のレースも継続開催されています。
TOYOTA GAZOO Racing Yaris Cupは、トヨタ製ヤリスのナンバー付き車両によるワンメイクレースです。2024年からは北海道・東北・関東・関西・西日本の5つのシリーズに分かれ、年間特別戦も開催されています。1大会で最大90台が出場する大規模なレースです。
自動車メーカー系ワンメイクレースの詳細情報(各シリーズの特徴と開催スケジュール)
バイクレース系
HRC NSF250R Challengeは、Honda NSF250Rを使用した本格的なワンメイクレースです。各地方選手権のJ-GP3クラスで開催され、参戦マシンのレギュレーションをSTDに限定することで参戦コストを抑えています。優秀な成績を収めれば「IDEMITSU ASIA TALENT CUP」への出場権を得られ、世界選手権へのステップアップも可能です。
HRC GROM Cupは、HONDA GROMを使用した125ccミニバイクのワンメイクレースです。マシンの改造範囲を制限しているため性能差がほとんどなく、気軽に参戦できることが魅力です。各地方大会に規定数以上参戦すれば「HRC GROM Cup グランドチャンピオンシップ」の出場権を得られます。
CBR250R Dream Cupは、Honda CBR250Rを用いた年式・モデルチェンジに関わらず参加できるワンメイクレースです。改造範囲が狭いため低コストでレースに参加でき、若手ライダーからリターンライダー、ベテランまで幅広い層が参戦しています。
HRCワンメイクレースシリーズの詳細(各クラスのレギュレーションとスケジュール)
ワンメイクレースへの参加には、車両購入費と大会ごとの参加費用が必要です。
車両購入費
GR86/BRZ Cupの専用車両「GR86 Cup Car Basic」または「SUBARU BRZ Cup Car Basic」は、トヨタ及びスバルの販売店で購入できます。これらはレース参戦に必要なロールケージ(6点式+サイドバー)、競技用シートベルトアンカー、空冷式エンジンオイルクーラーが専用装備として架装されており、ナンバー付き車両として公道走行も可能です。
N-ONE OWNER'S CUPでは、市販のN-ONE(DBA-JG1, 6BA-JG3型)にレース用改造を施して参戦します。規定範囲内の改造に留めることで、コストを抑えた参戦が可能です。
大会参加費
1戦あたりの参加費用は、レースカテゴリーによって大きく異なります。N-ONE OWNER'S CUPなどの軽自動車レースでは、参加料と移動費、宿泊費などを含めて1戦あたり約10万円が目安です。
一方、GR86/BRZ Cupのプロフェッショナルシリーズでは、タイヤ代が大きな負担となります。1セット約12万円のタイヤを1レースに3〜4セット使用することもあり、1戦の参戦費用は100万円が目安とされています。クラブマンシリーズでは指定タイヤのワンメイクとなるため、比較的コストを抑えられます。
バイクレースでは、HRC GROM Cupの参加料が約8,000円と手頃な設定です。車両本体も125ccミニバイクのため、四輪レースに比べて初期投資を抑えられます。
レンタルサービスを利用すれば、車両を所有せずに参戦することも可能です。SNSなどで探せば、オーナーやショップが提供するレンタルサービスがあり、1戦スポットで約30万円(レーシングギヤ一式やライセンス取得料は別)が相場とされています。
国内の主要サーキットでは、定期的にワンメイクレースが開催されています。
北海道・東北エリア
十勝スピードウェイでは、N-ONE OWNER'S CUPやTOYOTA GAZOO Racing Yaris Cupが開催されています。スポーツランドSUGOでは、これらに加えてロードスター・パーティレースⅢ北日本シリーズも実施されています。
関東エリア
筑波サーキットは、ロードスター・パーティレースⅢ東日本シリーズの拠点として、NDシリーズ、NDクラブマン、NCシリーズの3クラスが年間4戦ずつ開催されています。N-ONE OWNER'S CUPも定期開催されており、首都圏から参加しやすい立地です。
モビリティリゾートもてぎでは、N-ONE OWNER'S CUPやGR86/BRZ Cupが開催され、DE耐など耐久レースの併催も行われています。
富士スピードウェイは、国内最高峰のサーキットとして、GR86/BRZ Cup、N-ONE OWNER'S CUP、TOYOTA GAZOO Racing Yaris Cupなど、多数のワンメイクレースが開催されています。「ザ・ワンメイクレース祭り」として複数カテゴリーが一堂に会するイベントも実施されています。
中部・関西エリア
鈴鹿サーキットは、F1日本グランプリの開催地としても知られ、GR86/BRZ Cup、N-ONE OWNER'S CUP、HRC各種レースのグランドチャンピオンシップなど、重要なレースが多数開催されています。鈴鹿ツインサーキットでは、スイフト・スプリントカップなどのローカルレースも実施されています。
中国・四国・九州エリア
岡山国際サーキットでは、ロードスター・パーティレースⅢ西日本シリーズやN-ONE OWNER'S CUPが定期開催されています。オートポリスでも同様にN-ONE OWNER'S CUPなどが開催され、九州地区のモータースポーツ拠点となっています。
ワンメイクレースには、他のレースカテゴリーにはない独自の魅力があります。
イコールコンディションの実現
ワンメイクレース最大のメリットは、使用する車両やコンポーネントを統一することで、純粋なドライバーの運転技術を競える環境が整っている点です。通常のレースでは、使用するマシンの性能差が結果を大きく左右しますが、ワンメイクでは車両性能の優劣がレース結果に影響を与える可能性を極力減らしています。
GR86/BRZ Cupでは、エンジンやミッションに手を入れられる範囲が極めて小さく、タイヤもワンメイクという徹底ぶりです。さらにクラブマンシリーズでは、サスペンション等の主要部品もほぼ指定部品となっており、完全なイコールコンディションが追求されています。
参戦コストの抑制
ワンメイクを採用するもう一つの大きな目的は、レース参戦にかかるコストの抑制です。対象に選ばれたメーカーは、レース参戦者全体からの発注が見込めるため大量生産が可能になり、結果として単価が下がります。また苛烈な開発競争に晒されることもないため、さらに開発費を抑えられます。
N-ONE OWNER'S CUPのようなナンバー付き車両のレースでは、レース専用車両を用意する必要がなく、日常的に使用している愛車で参戦できることも大きな利点です。移動も自走で可能なため、トランスポーターを手配する費用も不要になります。
メーカーサポートの充実
自動車メーカーが主催・バックアップしているワンメイクレースでは、ディーラー整備やメーカーからの技術サポートを受けられることが大きな魅力です。車両トラブルが発生した際も、メーカーのサポート体制があるため安心して参戦できます。
ポルシェ・カレラカップでは、インポーター側が徹底したサポート体制を敷いており、レース後も車両の売却に関する引き合いが海外から多数あるなど、資産価値の維持にも配慮されています。
ワンメイクレースのメリット詳細(イコールコンディションとコスト抑制の仕組み)
自動車やバイク以外にも、特殊なカテゴリーのワンメイクレースが国内で展開されています。
カートレース
全日本カート選手権EV部門は、TOM'S EVK-22を使用したワンメイクレースです。2022年からスタートし、トムスが製作したEVカートのワンメイクで、メインテナンスもトムスが担当することでイコールコンディションを徹底しています。最高速度125km/h、走行時間20分という性能で、環境に配慮した次世代のカートレースとして注目されています。
FS-125クラスは、全日本カート選手権の中でも、ワンメイクレースならではの和やかさと全日本選手権らしい緊迫感が混在する独特の雰囲気を持っています。タイヤはブリヂストンSL17(ドライ)/SL94(ウェット)のワンメイクで、ローカルレースで初・中級クラスとして一般的に行われているレースと同じパッケージです。
SLカートミーティングは、ヤマハ製エンジンKT100Sシリーズのワンメイクで、改造も禁止されているため、ローコストでイコールコンディションのレースを楽しむことができます。カート初心者からベテランまで手軽に参加できる環境が整っています。
スーパーカートSK4クラスは、ヤマハ製WR250エンジンを使用したワンメイク・フォーミュラカートレースです。6速シーケーシャルギアボックスとクラッチが装着されたWR250により、フォーミュラカー並みの本格的な走行が楽しめます。
海外製スーパーカー
ランボルギーニ・スーパートロフェオは、「ウラカン スーパートロフェオ EVO」を使用する世界最速のワンメイクレースです。ヨーロッパ、アメリカ、アジアの3グループに分かれて開催され、最終戦では各地の上位ランカーによるワールドファイナルレースがイタリアのバレルンガ・サーキットで行われます。日本では富士スピードウェイや鈴鹿サーキットでアジアシリーズが開催されており、2023年から3年ぶりにアジア大会が再開されました。
ポルシェ・カレラカップは、1990年にドイツで始まった歴史あるワンメイクレースで、日本では25年以上の歴史を誇ります。911GT3カップカーによって行われ、エンジンやミッションを始め車両に手を入れられる範囲が極めて小さく、タイヤもワンメイクという徹底ぶりです。レース後のパドックでは車両解説やサーキットタクシーなど、一般観客も楽しめるプログラムが充実しています。
TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupの詳細(レギュレーションと参加規程)
ワンメイクレースは、参戦するだけでなく観戦の魅力も大きいモータースポーツです。
接近戦の迫力
イコールコンディションで競われるワンメイクレースでは、車両性能差がほとんどないため、スタートからゴールまで接近したバトルが展開されます。GR86/BRZ Cupでは、1大会で100名を超えるエントリーがあり、予選落ち車両を対象にしたコンソレーションレースも開催されるなど、一日中レースを楽しめます。
富士スピードウェイやスポーツランドSUGO、十勝スピードウェイなどで開催される場合には、パドックパス無しでパドックを楽しむことができます。レース前にドライバーやマシンを間近で見られる機会は、ワンメイクレース観戦の大きな魅力です。
初心者でも理解しやすい
同じ車種が競い合うため、レース初心者でもどの車がどれだけ速いのか判断しやすく、純粋にドライバーの技量を見極めることができます。86/BRZレースは"プロ"も恐れるワンメイクレースとして知られ、SUPER GTで活躍するプロドライバーも多数参戦し、そこに腕に覚えのあるアマチュアドライバーが果敢に挑む構図が見どころです。
入場料の手頃さ
富士チャンピオンレースシリーズでは、スーパーカー「ランボルギーニ」からカートまで2日間9レースを、各日入場料大人1,200円という手頃な価格で観戦できます。気軽にサーキットへ足を運べる環境が整っており、モータースポーツ観戦の入門として最適です。
サーキットでのレース観戦には、現地ならではの楽しみ方があります。レース中のバトル以外にも、ピットウォーク、ドライバーサイン会、車両展示など、一日を通して様々なイベントが開催されています。遠方からの観戦の場合は、予選と決勝の両方を楽しむために宿泊する観客も多く、サーキットによっては場内に車中泊スペースが用意されています。
サーキット観戦の楽しみ方詳細(ビッグレースから地方ワンメイクまでの過ごし方)
ワンメイクレースは、参戦するドライバーにとっても観戦する側にとっても、モータースポーツの本質である"走る喜び"と"競う楽しさ"を純粋に味わえる環境が整っています。自動車メーカーの全面的なバックアップにより、アマチュアでも本格的なレース体験ができる貴重な機会として、今後もさらなる発展が期待されるカテゴリーです。