トヨタ・ヴェロッサは、クレスタとチェイサーの後継車として2001年7月に誕生したスポーツセダンです。車名の「ヴェロッサ」はイタリア語のVero(真実)とRosso(赤)を組み合わせた造語で、情熱的に燃え上がり人の情感に訴えるクルマを目指して命名されました。開発テーマは「エモーショナルセダン」であり、性能を表す数値ではなく人の感性に訴えることを重視して開発されました。
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ボディサイズは、全長4,705mm、全幅1,760mm、全高1,450mmで、マークⅡより全長が30mm短く、全高が10mm低い設計となっています。この低く構えたプロポーションが、スポーティな印象を強調しています。ホイールベースは2,780mmで、マークⅡと同数値を維持しています。
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搭載エンジンは全てVVT-i機構付きの直列6気筒DOHCで、2.5Lターボ(1JZ-GTE型)が最高出力280ps/6,200rpm・最大トルク38.5kgm/2,400rpm、2.5L直噴(1JZ-FSE型)が200ps/6,000rpm・25.5kgm/3,800rpm、2.0L(1G-FE型)が160ps/6,200rpm・20.4kgm/4,400rpmという3種類のパワーユニットが用意されました。駆動方式はFRが基本ですが、2.0Lモデルのみ4WDも設定されました。
参考)ヴェロッサ(トヨタ)の車両情報
価格帯は、2WDのAT仕様で240万円(2.0L)、279万円(2.5L直噴)、337万円(2.5Lターボ)に設定され、マークⅡよりもやや高めの価格設定となっていました。
参考)Document moved
ヴェロッサの最大の特徴は、トヨタがイタリアンセダンを目指して作り上げた独特のデザインにあります。担当デザイナー自身がアルファロメオを意識したと証言しており、「塊から削り出した彫刻のような造形」という表現がなされるほど、従来のトヨタ車とは一線を画したスタイリングでした。
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フロント部分は、フェンダーの流れに沿って始まるヘッドライト、スリット状の開口部、強く張り出したフードグリルで個性を強調しています。この「クラウチングフォルム」と呼ばれる低く構えたスタイリングは、まるでランチアやアルファロメオのような雰囲気を醸し出していました。
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室内のインテリアにもイタリアンテイストが取り入れられ、センタークラスターから始まる曲線と楕円の金属調リングで高級感が演出されました。エキゾティックな存在感をデザイン開発のキーワードにした「エモーショナルセダン」として、兄弟車のマークⅡが落ち着きのある高級車であるのに対し、ヴェロッサは躍動感あるスポーティな性格を持つ4ドアセダンとして位置付けられました。
このデザインは斬新で注目を集めましたが、あまりにも個性的すぎたことが後の販売不振につながったとも言われています。トヨタらしからぬ尖ったデザインは、「10人中2人にハマればいい」という開発目標が立てられたほど、ターゲットを絞ったものでした。
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ヴェロッサのグレード構成は、2WD車の20、25、V25、VR25と、4WD車の20Four、20Four・Gパッケージの計6種類が基本ラインナップでした。価格帯は240万円から337万円と幅広く設定され、顧客のニーズに応じた選択が可能でした。
2002年1月には、限定車「スペチアーレ」が登場しました。これはスポーティ仕様のVR25をベースに、モデリスタによってエクステリアとサスペンションを強化したモデルです。さらに注目すべきは、ヤマハチューンの2.5L版直6DOHCターボエンジンが300psという驚異的なパワーを発揮した点です。この限定車は、ヴェロッサのエモーションがピークに達したモデルとして位置付けられました。
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2003年1月には、20グレードにスポーツ感を高めた「Vパッケージ」が追加されました。同時に、全席ワンタッチ式パワーウィンドウやめっきとサテン調塗装のエアコンレジスター採用、メーター回りの色調変更、新外板色追加などの改良も実施されました。
しかし、これらのグレード追加や限定車投入も販売の起死回生にはつながらず、お買い得バージョンとして「エクシード」を追加するも、2004年4月にビスタ店とネッツ店の統合を機に販売を終了しました。販売期間はわずか2年8カ月で、総販売台数は約2万6000台という結果に終わりました。
ヴェロッサの走行性能は、搭載される3種類のエンジンによって大きく異なります。最上位の2.5Lターボエンジンは280馬力を誇り、マニュアルトランスミッションと組み合わせることで、本格的なスポーツドライビングを楽しめる設定でした。
2.5Lターボには5速MTと4速ATが用意され、特にMT仕様は334万円という価格設定ながら、直列6気筒エンジンとFRレイアウトの組み合わせによる優れた運動性能を実現していました。最大トルク38.5kgmは2,400rpmという低回転域から発生し、力強い加速フィーリングが特徴でした。
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2.5L直噴エンジンは、トヨタのD-4システムを採用し、200馬力というパワーと燃費性能のバランスを重視したユニットです。5速オートマチックトランスミッションと組み合わされ、279万円という価格で提供されました。このエンジンは、日常使いからスポーツ走行まで幅広いシーンに対応できる実用性の高さが魅力でした。
エントリーグレードの2.0Lエンジンは160馬力で、4速ATとの組み合わせにより240万円という価格で購入できました。2.0Lモデルには4WD仕様も用意され、全天候型のスポーツセダンとしての性格も持ち合わせていました。
燃費性能は10・15モードで9.4~12.4km/Lとなっており、実用燃費はグレードや走行状況によって異なりますが、ターボモデルでは8~10km/L程度が一般的でした。
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ヴェロッサの維持費は、2.5Lクラスとしては標準的なレベルです。2003年式の2.5L直噴モデル(FR/5AT)を例にとると、年間走行距離1万kmの場合、燃料費が約17万6千円、車検費用が年間換算で約1万円となります。2.5Lクラスの平均維持費と比較すると約7千円安く、「ちょっと安い」という評価です。
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一方、2.5Lターボのマニュアルモデルは燃費がやや悪化するため、維持費は2.5Lクラスの平均より約5万6千円高くなり、「まあまあ高い」という評価になります。ただし、この差額は主に燃料費の違いによるもので、税金や保険料は排気量によって決まるため、グレード間で大きな差はありません。
中古車市場でのヴェロッサの評価は独特です。2024年時点での中古車相場は、2001年式で約68.9万円~414.8万円、2002年式で約63万円~389.4万円、2003年式で約57万円~385万円と、年式による価格差が比較的小さいのが特徴です。これは、希少性と個性的なデザインが評価されているためと考えられます。
参考)トヨタ ヴェロッサ 価格・車種カタログ情報
買取相場は、グレード「20」の中央値が約14.5万円で、過去5年間の販売数の27.74%を占めています。最も人気の高いターボモデルやスペチアーレなどの限定車は、状態が良ければ200万円を超える価格で取引されることもあります。
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オーナーからの評価は総合評価3.7点で、特にデザインと走行性能が高く評価されています。外装デザインは4.7点、乗り心地も4.7点と高得点を獲得しており、「個性重視」のクルマとして根強い人気があります。
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ヴェロッサがわずか2年8カ月で生産終了となった理由は複数あります。最大の要因は、あまりにも個性的すぎるデザインが日本市場に受け入れられなかったことです。イタリアンセダンを目指した斬新なスタイリングは注目を集めましたが、トヨタの既存顧客層には受け入れられず、販売台数は想定を大きく下回りました。
また、2000年代初頭はセダン市場全体が縮小傾向にあり、特に個性的なスポーツセダンはミニバンやSUVに押されて苦戦していました。マークⅲ系の3兄弟(マークⅡ、チェイサー、クレスタ)という長年の成功体制を崩したことも、販売網の混乱を招いた一因とされています。
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ビスタ店系列での販売に限定されたことも、販路の狭さにつながりました。2004年にビスタ店とネッツ店が統合されることが決まり、ヴェロッサは新体制に引き継がれることなく販売終了となりました。
しかし現在では、この短命さと個性的なデザインが逆に魅力となっています。「トヨタが作ったイタリアンセダン」「壊れないイタ車」という独特のポジションは、他に類を見ない存在感を放っています。直列6気筒エンジンとFRレイアウトという、現在のトヨタでは手に入らない組み合わせも、中古車市場での価値を高める要因となっています。
走行距離の少ない個体や、限定車のスペチアーレなどは、コレクターズアイテムとしての価値も高まっています。2025年時点でも状態の良い個体は200万円前後で取引されており、「名車」としての評価を得つつあります。デザインの華やかさと直6エンジンの魅力は、時代を超えて輝き続けています。
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