公道で「アウト・イン・アウト」を使うと、逆に事故リスクが3倍以上に跳ね上がります。
バイクは「視線が向く方向に進む」という特性を持っています。これは感覚的なものではなく、ライダーの体重移動・ハンドル操作・バランス感覚が無意識に視線の先へ誘導されるからです。つまり、峠走行でコーナーを恐れて足元や近くの路面を見つめてしまうと、バイクはそこへ向かってしまうわけです。
では具体的にどこを見るべきか。コーナーに差し掛かったとき、視線はコーナーの「出口」に送るのが原則です。目の前の路面ではなく、カーブの先まで視野を広げることで、カーブの曲率・路面の変化・対向車の存在を早期に把握できます。クシタニのライディング教材でも「3秒先」を見ることが推奨されており、それは時速40km走行中であれば約33m先に相当します。はがき(横約15cm)の約220枚分の距離を先読みするイメージです。
視線が遠くに向くと、自然と上半身のフォームが落ち着きます。これが重要です。
初心者ライダーに多いのは、コーナーを目前にして視線が手元・前輪付近に落ちてしまうパターンです。すると上体が固まり、ハンドルを握る力が強くなります。そうなると「セルフステア(バイクが自然に曲がろうとする力)」が妨げられ、コーナリングの安定性が崩れます。
視線は常に行きたい方向へ向けるのが基本です。
意識的に遠くを見るコツとして、コーナー進入時に「あの木の向こうを見る」「ガードレールが終わる先を見る」といった具体的な目標物を設定する方法が効果的です。最初はわざとらしく感じても、繰り返すうちに自然な習慣になります。
Honda公式のコーナリング解説|視線の重要性と正しいフォームについて詳しく解説されています
「アウト・イン・アウト」はサーキットを前提に生まれたテクニックです。カーブの回転半径を最大に取ることで、高速でコーナーを抜けられる走行ライン──そう理解しているライダーは多いでしょう。しかし公道、とりわけ峠では、このラインが危険を招く最大の原因になり得ます。
なぜなら、峠のコーナーは「連続した曲がりくねった道」だからです。1つのコーナーをアウトいっぱいから入ると、次のコーナーへの体勢が整わないまま突入してしまいます。グーバイク・マガジンをはじめ複数の専門メディアが指摘しているように、アウト・イン・アウトは単独の180度コーナーには有効でも、連続するS字カーブや複合カーブには対応しきれません。
さらに深刻なのが対向車問題です。右コーナーでアウトいっぱいに膨らもうとすると、センターラインをまたいで対向車線に入り込む危険があります。もし対向車が来ていれば正面衝突は避けられません。
つまり、公道では自分の車線内を守るのが条件です。
クシタニのライテク連載(ライテクをマナボウ第32回)では「公道でアウト・イン・アウトをしてはいけない」と明確に述べており、特に右カーブでのアウト側膨らみは路肩の落ち葉・流水・砂利にも乗りやすくなるとしています。
では公道での正しいライン取りはどうするか。基本は「イン・アウト・イン」の考え方です。自分の車線の内側からコーナーへアプローチし、カーブの頂点を過ぎたら外側に膨らまず自然に出る。これにより対向車との安全距離を確保しながら、安定したコーナリングが実現します。
クシタニ公式|ライテクをマナボウ第32回:アウト・イン・アウトの危険性を詳しく解説
多くのライダーが苦手とするのが下り坂での走行です。上り坂に比べて下り坂でコーナリング中に転倒・逸脱するケースは格段に多く、その主な原因はブレーキ操作の誤りです。これが峠走行で最も学んでおきたいポイントのひとつです。
下り坂ではバイクの重心が前方へ移動し、フロントタイヤへの荷重が集中します。このため、フロントブレーキを急に強くかけると前輪がロックしやすく、最悪の場合は車体が前方に「投げ出される」ような転倒につながります。
怖いですね。だからこそ「リアブレーキを引きずる」が正解です。
具体的には、コーナー手前でフロント・リア両方のブレーキを使いつつ十分に減速し、コーナリング中もリアブレーキを軽く踏みっぱなしにします。これにより後輪に荷重が分散され、前のめりになりにくい安定した姿勢を保てます。グーバイク・マガジンのテクニック記事でも「立ち上がりでアクセルを開ける際もリアブレーキは放さない」と解説されています。
また、エンジンブレーキの活用も重要です。ただし注意点があります。高いギアで低回転のままコーナーに入ると、エンジンブレーキが唐突に強くかかり、後輪がロックする危険があります。クシタニのライテク連載では「コーナー前にシフトダウンし、高めの回転数を保ちながら入る」ことで、エンジンブレーキを適度に効かせることを推奨しています。
リアブレーキ活用が下り峠の条件です。
下りが苦手な方は、まず「コーナーに入る前に減速を完了させる」という意識を持つことが先決です。コーナー中にブレーキをかけるのではなく、直線部分で十分に速度を落としてから曲がりに入ることで、コーナリング中の操作を最小限にできます。
クシタニ公式|ライテクをマナボウ第28回:下りカーブが怖い理由と対処法の詳細解説
「峠を楽しみたいから少し速く走っても大丈夫」──そう感じているライダーは少なくありません。しかし法律の話をすると、公道である以上は制限速度を守る義務があります。峠道の一般道で速度超過した場合の罰則は、以下の通りです。
| 超過速度(一般道) | 違反点数 | 反則金(二輪車) |
|---|---|---|
| 1〜14km/h未満 | 1点 | 7,000円 |
| 15〜19km/h未満 | 1点 | 9,000円 |
| 20〜24km/h未満 | 2点 | 12,000円 |
| 25〜29km/h未満 | 3点 | 15,000円 |
| 30km/h以上 | 6点(赤切符) | 裁判での決定(前科あり) |
30km/hを超えた速度超過は「赤切符」扱いになります。反則金を払えば済む話ではなく、刑事手続きの対象になり、前科がつく可能性があります。痛いですね。免許停止(30日以上)はもちろん、悪質な場合は懲役刑も法的には存在します。「峠で30km/hオーバーなんてすぐ出てしまう」という方こそ、注意が必要です。
加えて見落とされがちなのが「二輪車通行禁止区間」の存在です。日本二輪車普及安全協会(JMPSA)によれば、全国に500カ所以上の二輪車通行規制区間があります。これらの多くは「一部ライダーによる騒音・無謀運転による事故」が原因で設置されたもので、違反すれば交通違反として検挙されます。
有名なところでは茨城県の「表筑波スカイライン」(二輪終日通行禁止)、箱根の旧街道周辺、大阪府の「グリーンライン」(1985年から通行禁止)などが挙げられます。知らずに走ると即違反切符です。
二輪通行禁止は事前確認が原則です。
ツーリング前にルートを計画する際は、Googleマップで「バイク通行可能か」を確認するだけでなく、MappleツーリングサポーターやBikeJINのルートマップなどのバイク特化サービスを使うと、二輪規制区間の情報が得られます。走行前に1度確認するだけで、違反リスクを大幅に下げられます。
日本自動車工業会 MotoInfo|二輪車通行禁止道路の実情と全国500カ所以上の規制状況について
峠道に入る前の準備を「走ってみればわかる」で済ませているライダーは、実は大きなリスクを背負っています。特にタイヤ管理は、峠走行の安全性に直結する最重要項目です。
まず空気圧についてです。「峠を攻めるときはタイヤを少し下げるとグリップが上がる」という情報が流通しています。これはサーキット走行では一定の根拠がありますが、公道走行では別の話です。公道ではメーカー指定空気圧が基本で、これはタイヤと車両メーカーが共同で設定した最適値です。指定空気圧のまま走るのが原則です。
むやみに空気圧を下げると、タイヤの変形が大きくなりすぎてハンドリングが不安定になり、特にブレーキ時の挙動が読めなくなります。峠走行ならなおさらです。
また、タイヤの溝の深さも必ず確認しましょう。法定の最低溝深さは0.8mmですが、ワインディング走行ではより早めの交換が安全につながります。目安として、溝が2〜3mm以下になってきたら交換を検討するのが現実的です。
プロテクターの装着も忘れずに確認しましょう。バイク事故での死亡率は自動車の約4倍(警察庁、2023年データ)というデータがあります。身を守る装備として、最低限ヘルメット(フルフェイスが理想)・プロテクター入りジャケット・グローブ・ブーツの4点は揃えておくべきです。
装備が揃えば出発できます。
走行前のセルフチェックリストとしては、以下の項目をルーティン化しておくと安心です。
このリストを「峠に行く前日の夜」に確認する習慣にすると、当日の朝にバタバタせず出発できます。特に長距離ツーリングで峠を含むルートでは、前日確認が有効です。
日本二輪車普及安全協会公式|ワインディング走行の基本と走行前の心構えについて詳しい解説あり