大気汚染防止法は、昭和43年(1968年)に制定された法律で、工場や事業場だけでなく自動車からの排出ガスも規制対象としています。自動車に関しては、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)などの有害物質について、車種や定格出力ごとに厳格な許容限度が定められています。環境省が公表している排出基準では、乗用車から大型トラックまで細かく区分され、それぞれの走行距離あたりの排出量が規定されています。
参考)自動車排出ガスの量の許容限度
この法律により、自動車メーカーは新車製造時に排出ガス基準をクリアすることが義務付けられており、基準を満たさない車両は販売できません。また、既存の車両についても、定期的な車検時に排出ガス検査が実施され、基準値を超過した場合は車検に合格できない仕組みになっています。環境基準を達成するため、段階的に規制が強化されてきた歴史があり、現在では規制前と比較してNOxが95〜98%、PMが99%削減されるなど、大幅な改善が実現しています。
参考)大気汚染防止法の手引き:静岡市公式ホームページ
ガソリン車の排出基準は、車両区分や重量によって細かく設定されています。乗用車の場合、WLTCモード(国際的な走行試験法)による測定で、一酸化炭素は1キロメートル走行あたり2.03グラムが許容限度とされています。炭化水素やNOxについても同様に厳しい基準が適用され、平成12年規制以降、段階的に強化されてきました。
普通自動車や小型自動車では、車両総重量によって基準値が異なります。車両総重量が1,700キログラム以下の軽量車と、1,700キログラムを超える中量車では適用される基準が異なり、重量が増すほど一定の緩和措置が設けられています。LPG(液化石油ガス)を燃料とする車両も、ガソリン車と同様の基準が適用されます。測定は10-15モードや11モード、G13モードなど、車両の種類に応じた試験サイクルが用いられ、実際の走行状況に近い条件での評価が行われています。
参考)排出ガスの規制値
ディーゼル車は、ガソリン車と比較してNOxやPMの排出量が多いため、特に厳格な規制が適用されています。軽油を燃料とする普通自動車や小型自動車では、車両総重量3,500キログラム以下の車両に対してWLTCモードによる測定が義務付けられ、一酸化炭素は1キロメートルあたり0.88グラムという厳しい基準が設定されています。重量車(3,500キログラム超)については、WHSCやWHTCといった専門的な測定方法が採用され、1キロワット時あたりの排出量で管理されています。
ディーゼル車の排出ガス対策として最も重要なのが、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)の適切な管理です。DPFは排気ガス中のPMを捕集する装置ですが、目詰まりを起こすとエンジン性能の低下や燃費悪化を招きます。定期的な点検と再生処理が必要で、高速道路走行などでエンジン回転数を上げることで自動再生が促進されます。短距離運転が多い場合は、診断ツールを使った強制再生も有効です。またSCR(選択的触媒還元)システムを搭載した車両では、AdBlue(尿素水)の補充も重要なメンテナンス項目となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10882660/
建設機械や産業機械、農業機械などのオフロード車両(特定特殊自動車)についても、大気汚染防止法とは別に「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(オフロード法)」により規制されています。この法律は平成18年(2006年)から段階的に施行され、フォークリフト、ブルドーザ、バックホウ、農耕用トラクターなど、公道を走行しない特殊な構造の車両が対象です。
参考)特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律 - Wikipe…
規制値はエンジンの定格出力によって区分されており、例えば130kW以上560kW未満の車両では、NOxが6.0g/kWh、PMが0.2g/kWh、黒煙が40%以下と定められています。規制開始後に製造または輸入された車両は、技術基準適合の表示(ラベル)がないと使用できず、違反した場合は行政処分の対象となります。特殊自動車のユーザーは、車両購入時に基準適合表示を必ず確認し、適切な整備を行うことで排出ガスの低減に貢献できます。
参考)特殊自動車排出ガス規制
自動車ユーザーができる排出ガス削減対策は、日常的なメンテナンスから始まります。まず重要なのがエンジンオイルの定期交換で、劣化したオイルは燃焼効率を低下させ、排出ガスの増加につながります。オイル交換は走行距離や使用状況に応じて、メーカー推奨のタイミングで実施することが望ましいです。またエアフィルターの清掃や交換も、適切な空気供給による完全燃焼を促進し、有害物質の排出を抑制します。
参考)ディーゼル車の排ガス基準と車検対策:合格へ導く整備ポイント …
燃料の質も排出ガスに影響を与えます。品質の良い燃料を使用することで、不完全燃焼を防ぎ、エンジン内部の汚れも軽減できます。ディーゼル車の場合は、専用の燃料添加剤を使用してDPFの目詰まりを予防する方法も効果的です。運転方法の工夫も重要で、急加速や急減速を避け、一定速度での走行を心がけることで燃費が向上し、排出ガスも削減できます。特に短距離走行が多い方は、定期的に高速道路を走行してエンジンを高温状態に保ち、DPFの自動再生を促すことも有効です。
参考)燃費向上に貢献するディーゼル微粒子フィルター(DPF)とは?…
大気汚染防止法に違反した場合、使用者には罰則が科されます。特に排出基準を超過した状態で自動車を使用し続けることは法令違反となり、50万円以下の罰金が科される可能性があります。また車検時に排出ガス検査で不合格となった場合、基準値をクリアするまで車検証の交付を受けられず、公道を走行できなくなります。
車検に合格するためには、事前の整備が不可欠です。まず車検の数週間前にディーラーや整備工場で予備検査を受け、排出ガスの状態を確認することをおすすめします。基準値を超えている場合は、エンジンの調整、触媒コンバーターの交換、DPFの清掃や再生などの対策が必要です。特にディーゼル車では、DPFの状態が排出ガス量に大きく影響するため、専門業者による診断と適切な処置が重要です。日頃から排出ガス量を意識した運転とメンテナンスを行うことで、車検時のトラブルを未然に防ぐことができます。
環境省による大気汚染防止法の詳細情報
https://www.env.go.jp/air/osen/law/
自動車排出ガス規制の具体的な許容限度について
自動車排出ガスの量の許容限度
静岡市による大気汚染防止法の手引き(排出基準の詳細)
大気汚染防止法の手引き:静岡市公式ホームページ