路面標示は、道路交通に対して必要な案内、誘導、警戒、規制、指示などを路面標示用塗料、道路鋲、石などによって行うものです。路面標示は大別して道路標示と区画線から構成され、道路標示は都道府県公安委員会が、区画線は道路管理者が設置することになっています。路面標示の種類は、法的根拠によって以下の3つに分類されます。
参考)日本の路面標示 - Wikipedia
規制標示は特定の通行方法を制限または指定する目的で設置され、「転回禁止」「最高速度」など29種類あります。これらは黄色(橙色)で表示されることが特徴で、道路交通法上の規制事項を路面に示すものです。
参考)路面標示のいろいろ
指示標示は特定の通行方法ができることや、その区間・場所の道路交通法上の意味、通行すべき道路の部分などを示す目的で設置され、「横断歩道」「停止線」など15種類あります。これらは白色で表示され、道路利用者に対して適切な通行方法を指示します。
参考)https://www.sonysonpo.co.jp/auto/guide/agde904.html
区画線は道路の構造の保全や交通の流れを適切に誘導する目的で設置され、「車道中央線」「車道外側線」など8種類あります。区画線は基本的に白色のみで表示され、道路の構造的な区分を明示します。
参考)大阪市:区画線の維持管理に関する今後の取り組みについて (……
路面標示に用いられる塗料は「トラフィックペイント」とも呼ばれ、品質と種類は「JIS K 5665(路面標示用塗料)」で規定されています。路面標示用塗料は大きく分けて液状の1種・2種、粉状の3種に分類され、それぞれ異なる特性と用途を持ちます。
参考)路面標示材の基礎知識|路面標示材協会
1種塗料は常温で路面に塗装するもので、水系材料と溶剤系材料に分けられます。乾燥時間は15分以内で、交通量の少ない道路や積雪寒冷地での施工に適しています。石畳やレンガの場合、仮舗装や損傷が激しい舗装状態が良くない場合にも適用されます。
2種塗料は50-80℃に加熱して路面に吹き付けるもので、乾燥時間は10分以内です。道路縦断方向の施工や積雪寒冷地に適しており、1種と同様に水系・溶剤系材料があります。
3種塗料は180-200℃に加熱溶融して使用される粉体状の塗料で、溶媒を含まないため速乾性を持ちます。乾燥時間は3分以内で、車両や歩行者による摩耗が激しい場所に適用されます。全体の約90%を占める最も多く使用されている塗料です。
参考)路面標示材
路面標示の設置場所と基準は、「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」によって定められており、設置者や設置目的によって明確に区分されています。道路標示は都道府県公安委員会が設置し、区画線は道路管理者が設置するという役割分担が確立されています。
設置基準において重要なのは、道路利用者が充分視認でき、かつ正しく伝わるよう配慮することです。測量用具やチョークなどを用いて路面に罫書きし、矢印や数字は既に様式が定められているものの、地名に用いる文字はバランスを考えて工事毎にレイアウトが検討されます。
特に横断歩道の設置基準では、交差点では歩行者を無用に迂回させないよう自然な流れとなるように設置し、横断歩道の長さは15m以下にすることが定められています。15mを超える場合は交通弱者に配慮して退避スペースを設ける必要があります。幅員は4mを標準とし、車椅子横断者のすれ違いができるよう最小2mが確保されます。
標識と標示の関係性も重要で、道路標示と道路標識をセットで設置するものがあり、一部の区画線は道路標示とみなされることもあります。例えば、区画線の車道中央線は指示標示の中央線とみなされ、車道外側線は車両通行帯最外側線として取り扱われます。
路面標示は設置後の維持管理が交通安全の確保に極めて重要な役割を果たしており、適切な維持管理により良好な状態を保つことで道路利用者の安全を確保します。日本交通科学協議会の1995年度調査では、路面標示が鮮明であると運転時の不安が少なく、夜間や雨天時には視認性が大きく低下するため運転時の不安が増大することが確認されています。
維持管理の点検では、剥離・汚れなどによる不鮮明部分の有無、摩耗による不鮮明部分の有無、夜間視認性の有無という3項目をチェックします。これらの点検によって視認性が低下したと判断される場合は塗り替えを行う必要があり、運転時の快適性や法律遵守性を守るためにも遅くとも12か月以内の再施工が望ましいとされています。
大阪市では区画線の維持管理について短期集中的な補修とデジタル技術の活用に取り組んでおり、計画的な維持管理を推進しています。また、高耐久性路面標示材による長寿命化の取り組みも進められており、従来の事後保全から予防保全への転換が図られています。
参考)積雪地域における道路の路面標示を長寿命化させたい!
最新技術としては、AIを活用した区画線の劣化診断システム「GLOCAL-EYEZ」が開発され、スマートフォン1台で撮影するだけで15種類の路面標示の剥離や摩耗を自動検知できるようになっています。これにより目視点検と比べて精度と効率が向上し、維持管理の効率化が実現されています。
参考)AIを活用した区画線の劣化診断で、道路の安全性向上に挑む【実…
路面標示技術は交通安全とスマートインフラの発展とともに急速に進歩しており、2025年現在では従来の塗料技術を超えた革新的なソリューションが展開されています。特に注目されているのがスマート反射技術による熱可塑性道路標示で、高い耐久性と耐候性を持ち、反射ガラスビーズによって夜間の視認性を大幅に向上させています。
参考)道路標示イノベーション2025:交通安全とスマートインフラの…
AIを活用した自律走行車のための道路標示システムも実用化が進んでおり、組み込み型スマートセンサーによるAI交通制御機能を持ちます。リアルタイム車線検知により自動運転車を誘導し、高度道路交通システム(ITS)をサポートする機能が搭載されています。
路面投光技術も注目される分野で、首都高速道路の浜崎橋ジャンクションでは2017年にLED投光器で矢印を路面上に映し出して車両を誘導する「可変式路面表示」の実験が行われました。また、藤枝市では横断歩道の手前で歩行者が安全確認するよう促す標示を映し出す実験も実施されています。
国土交通省では2021年11月から2024年6月にかけて自動運転に対応した区画線の要件案作成に向けた研究を進めており、将来の完全自動運転社会に向けた路面標示の標準化が検討されています。これらの技術革新により、路面標示は単なる交通誘導手段から、スマートシティを支える重要なインフラ要素へと進化を続けています。