ロックトゥロックとは、ステアリングホイールを左右どちらかに目いっぱい切った状態から、反対側に同様に目いっぱい切ったときの回転数のことです。この数値は「ステアリングの最大切角を回転数で表したもの」として定義されており、車の操縦性を評価する重要な指標となっています。
参考)【今さら聞けない】カタログ等で見かける自動車のロックトゥロッ…
ロックトゥロックの回転数は、ステアリングギヤ比によって変わってきます。ステアリングギヤ比が小さいほど、少しステアリングを切るだけでフロントタイヤの向きが大きく変わり、クイックでスポーティーなハンドリングになります。一方、ギヤ比が大きい場合は、安定感のあるハンドリングとなり、高速道路などでの直進安定性に優れる特性があります。
参考)【今さら聞けない】自動車のロックトゥロックって何?(WEB …
この回転数の違いは、車の性格や用途によって設定されています。例えば、低速域ではステアリングを切る角度が少なくて済み取り回しもよくなりますが、高速ではステアリングが過敏すぎて直進安定性が損なわれる可能性があるため、各メーカーはそのクルマのキャラクターに合ったステアリングギヤ比を設定しているのです。
参考)https://news.livedoor.com/article/detail/13351432/
ファミリーカーのロックトゥロックは一般的に4回転前後が目安となっています。ノンパワーステアリング時代のクルマも含めて、この数値は操作の軽さと安定性のバランスを考慮して設定されています。
セダンやミニバンでは3回転半ぐらいだと比較的クイックな部類に入ります。例えば、ヴェルファイアなどのミニバンでは3.5回転程度のロックトゥロックが設定されており、大型ボディでも適度な取り回し性を確保しています。また、ワゴンRやムーヴコンテなどの軽自動車でも約3.5回転となっており、日常使いでの扱いやすさを重視した設定です。
参考)https://bbs.kakaku.com/bbs/K0000737343/SortID=21135905/
パワーステアリングが大多数になった現在では、スポーツカーも一般車も回転数に大きな差がなくなってきており、多くのファミリーカーが3.5回転前後に集約されています。トヨタのシエンタも3.5回転のレシオを採用しており、やや遅めながらもごく普通の感覚で扱えるよう設計されています。
参考)ロック トゥ ロック|まえぴょん先生のブログ|まえぴょん先生…
スポーツカーのロックトゥロックは3回転以下がスポーティーなハンドリングの目安となります。クイックなステアリングレスポンスを実現することで、スポーツ走行での操作性を高めています。
参考)なぜスポーツカーのハンドルは小さいのか? 理由を解説
特筆すべきは、ホンダS2000の標準車が2.4回転という非常にクイックなロックトゥロックを実現していることです。さらに可変ギアレシオステアリング(VGS)を搭載したモデルでは、わずか1.4回転という驚異的な数値を達成しており、これは市販車として極めてクイックな設定です。
軽スポーツカーではマツダAZ-1(スズキ・キャラ)が2.2回転という最短クラスの回転数を誇っており、ショートホイールベースと相まって凄まじくクイックな特性を持っていました。また、日産スカイラインV37では全モードで2.2回転程度のロックトゥロックが設定されており、電子制御ステアリングによる精密な操作感を実現しています。
参考)スカイラインV37 2000km乗ってのファーストレビュー(…
F1マシンに至っては、ロックトゥロックが半回転以下となっており、ステアリングを持ち替えることなくフルカウンターを当てることができる極限の設定です。
可変ギアレシオステアリングは、速度域によってステアリングギヤ比がバリアブルに変化する技術です。ホンダのVGS(車速応動可変ギアレシオステアリング)、トヨタのVGRS(バリアブル・ギア・レシオ・ステアリング)、BMWのアクティブステアリングなどが代表的なシステムとして知られています。
参考)VGS(車速応動可変ギアレシオステアリング)のテクノロジー …
VGSの仕組みは、ラック&ピニオン式ステアリング装置のピニオンギア上部にギアレシオ可変機構を一体化した構造です。DCモーターがウォームギアを回転させることで、ステアリングホイールの入力軸とピニオンギア回転軸とのオフセット量を変化させ、これによりギアレシオを無段階に変化させることが可能になっています。
参考)https://www.honda.co.jp/factbook/auto/s2000/200007/004.html
車速に対するギアレシオの設定は、低中速時はクイックレシオ、高速時はスローレシオとなり、さらにステアリングを大きく切り込んだ時のレスポンスアップを実現するため、舵角が増えるにつれてクイックレシオとする設定です。例えばBMWの3シリーズなどでは、低中速域のステアリングのロックトゥロックが2回転以下という極めてクイックな設定になっています。
ただし、ギヤ比が可変するということはリニアリティが足りないことにもつながるため、サーキット走行や雪道などでは最適なカウンターステアを当てにくいというデメリットもあり、まだ発展途上中の技術といえます。
ロックトゥロックの回転数は、車の取り回し性能に直接影響を与える重要な要素です。回転数が少ないほどステアリング操作が素早く行えるため、狭い場所での切り返しやUターンが容易になります。
参考)ハンドルの回転数でわかること - クルマの大辞典
しかし、最小回転半径とロックトゥロックは異なる概念です。最小回転半径はハンドルを最大に切った状況で行うものであり、ホイールベースとトレッドの関係の方が大きく影響します。つまり、ロックトゥロックが少なくても、最小回転半径が小さいとは限らないのです。
例えば、三菱トライトンでは先代がパワーステアリングのロックトゥロックが4回転強という回しきれないくらいのものでしたが、新型では改善され、最小回転半径5.4mという優れた小回り性を実現しています。また、ホンダのインスパイアでは可変ステアリングギアレシオ(VGR)を採用し、ロック・トゥ・ロックを約2.5回転に設定することで、ボディの大型化に対応した取り回し性を確保しています。
参考)【三菱 トライトン】SUV感覚で乗れる本格ピックアップトラッ…
ステアリングの直径を小径化することでも、円周が短くなる分、小さな操作量で素早くタイヤの向きを変えることができるため、実質的なクイックさを向上させることが可能です。
ロックトゥロックの練習は、モータースポーツ、特にドリフトやジムカーナなど、フルカウンターを多用する種目で重要な要素となります。この練習の目的は車を打舵(だだ)させることではなく、ステアリング操作を早くすることです。youtube
具体的な練習方法は、駐車場などで加速減速をせずアイドリング状態でステアリングを左右に目いっぱい素早く回します。これにより素早く的確なハンドル操作ができるようになり、ターンの旋回半径や適正なカウンターステアを当てることができるようになります。この練習をすることで、車が左右どちらかに打ちすぎたりすると、ステアリング操作が一定ではなくどちらかに偏っていることがわかります。youtube
ただし、停止状態でのロックトゥロック練習、いわゆる「据え切り」は、タイヤやクルマへの負担がそれなりにあるため注意が必要です。駐車場などで練習する際は、スピードが出ないのでヘルメットや服装については自由ですが、周囲の安全確認を十分に行うことが大切です。youtube
多くのレーシングドライバーが、キャリアの初期段階でこのロックトゥロックの練習を行っており、素早く正確なステアリング操作を身につけることが、上級のドライビングテクニックを習得する上での基礎となります。