自工会会長が動かした政策で、あなたの車の購入費用が最大15万円も変わります。
「自工会(じこうかい)」という名前を聞いたことはあっても、会長が何をする人なのかピンとこない方は多いかもしれません。正式名称は一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)。1967年に自動車工業会と日本小型自動車工業会が合併して設立された、国内自動車メーカー14社が加盟する業界最大の団体です。
つまり、会長は日本の自動車産業全体の「代表者」です。
自工会のもっとも重要な機能のひとつが、政府や与党への政策提言です。自動車関連の税制改正、電動車普及のロードマップ、安全基準の策定、貿易交渉への対応など、車ユーザーの日常生活に直結するルール作りに業界の立場から関与します。よく知られているのが「自動車税制の抜本改正」への働きかけで、長年にわたり「日本の自動車関連税は世界で最も高い水準にある」として改革を訴えてきました。
日本のGDPの約1割、就業人口の約1割を自動車産業が占めています。これは産業規模として非常に大きい数字で、約550万人の雇用が関係します。会長はその550万人を代表する顔として、政府との折衝や海外との交渉に臨む立場にあります。これが基本です。
自動車税だけでなく、エンジン車の将来、EV普及政策、輸出入に関わる関税交渉なども会長の発言が大きく影響します。車好きな方にとって、この存在を知っておくことは決して損にはなりません。
一般社団法人日本自動車工業会 公式サイト「沿革・歴代会長一覧」
自工会は1967年の設立以来、長くトヨタと日産の2社で会長ポストを分け合ってきました。2002年からはホンダが加わり、「トヨタ→ホンダ→日産」という3社の輪番制が業界の"不文律"として定着します。任期は1期2年が慣例でした。
この体制が大きく崩れたのが、2018年に始まった豊田章男氏(トヨタ自動車社長→会長)の長期政権です。通常なら2年で交代するところ、豊田氏は約5年間もの間、異例の3期連続で会長を務めました。コロナ禍への対応、カーボンニュートラル宣言、型式指定不正問題など、業界が大きな課題を抱えた時期と重なり、強力なリーダーシップが求められたためです。
その後任として2024年1月に就任したのが、いすゞ自動車会長の片山正則氏です。驚くべき点は、1967年の発足以来、初めてトヨタ・日産・ホンダ以外のメーカーから会長が選ばれたことにあります。商用車(トラック・バス)メーカーのトップが業界全体を代表するのは異例中の異例です。
意外ですね。
片山氏が選ばれた背景には、当時業界が抱えていた「2024年問題(物流ドライバーの時間外労働規制)」「型式指定申請の不正問題」など、商用車業界と直結する課題が山積していたことがあります。約60年間続いた輪番制が実質的に崩壊した瞬間でもありました。そして片山氏は2年間の任期を経て、2026年1月1日付でトヨタ自動車社長の佐藤恒治氏にバトンを渡しています。
| 任期 | 氏名 | 所属メーカー |
|---|---|---|
| 1967-1972 | 川又 克二 | 日産自動車 社長 |
| 1972-1980 | 豊田 英二 | トヨタ自動車工業 社長 |
| 2000-2002 | 奥田 碩 | トヨタ自動車 会長 |
| 2002-2004 | 宗国 旨英 | 本田技研工業 会長 |
| 2018-2023 | 豊田 章男 | トヨタ自動車 社長(約5年・異例) |
| 2024-2025 | 片山 正則 | いすゞ自動車 会長(初の非3社) |
| 2026- | 佐藤 恒治 | トヨタ自動車 社長 |
2026年1月1日付で日本自動車工業会の第20代会長に就任したのが、佐藤恒治氏(56歳)です。1992年に早稲田大学理工学部機械工学科を卒業後、トヨタ自動車に入社。シャシー設計部門で初代プリウスのサスペンション設計などを手がけ、技術畑を歩んできた人物です。2023年4月に豊田章男氏の後任としてトヨタ社長に就任し、「電動化×知能化」を柱とした変革路線を推進してきました。
注目すべき点は、佐藤氏が2026年2月にトヨタ社長を退任し、自工会会長職に専念する体制を選んだことです。
トヨタ社長と業界団体の会長を同時にこなすことへの「オーバーロード(過負荷)」が限界に達したためだと報じられています。佐藤氏自身も会見で「両方フルスイングでやれるだろうかと自問自答していた」と率直に語っており、それほど自工会会長の職務が重くなっていることを示しています。
現在、佐藤会長はトヨタ副会長・経団連副会長・自工会会長という3つの肩書きを持ちながら、日本自動車産業全体の「防衛戦」を指揮する立場にあります。会長就任時に掲げたスローガンは「100の議論より1の行動」。地政学リスクや中国メーカーの台頭、米国の関税問題など、業界が嵐の時代を迎えるなかで、スピード感ある課題解決を宣言しました。
結論は「行動重視の会長」です。
日本自動車会議所「佐藤恒治会長(トヨタ社長)『2026年のキーワードは国際競争力』」会見概要
佐藤恒治会長体制が2026年度に掲げた重点テーマが、いわゆる「新7つの課題」です。これは車好きな方にとっても無関係ではありません。自動車産業の方向性が、将来乗れる車の種類・価格・維持費を左右するからです。
7つの課題とは以下の通りです。
特に車好きな方に直結するのが「マルチパスウェイ(複数の技術選択肢を並行推進)」と「自動車税制の抜本改革」です。
欧州が進める「2035年エンジン車新車販売禁止」に対し、自工会は「EVだけが正解ではない」というスタンスを一貫して維持してきました。ガソリン車・ハイブリッド・プラグインハイブリッド・水素・合成燃料など、複数の選択肢を残すことで消費者の選択の自由を守る立場です。これが守られるかどうかが、あなたの「次にどんな車を買えるか」に直接影響します。
これは使えそうです。
また、中国によるレアアースの輸出規制が強まるなか、会長は「サプライチェーンの見える化」を急務として位置づけています。レアアースはEVのモーターや車載電池に不可欠な素材で、調達リスクが高まれば車両価格の上昇につながります。会長がこの問題に積極的に動くかどうかは、将来の新車価格にも影響が出る話です。
自工会会長の活動が車好きに最も直接的なメリットをもたらした具体例が、「環境性能割(かんきょうせいのうわり)」の廃止です。
環境性能割とは、新車・中古車を購入する際に車両価格に対して最大3%が課される税金です。2019年に「自動車取得税」が廃止された際の代替として導入されましたが、自工会は一貫して「消費税との二重課税だ」として廃止を訴えてきました。この長年の主張が、2025年12月の税制改正大綱で認められ、2026年3月31日をもって廃止が決定したのです。
数字で見ると、分かりやすいです。
車両価格300万円の普通車(税率3%適用)を4月1日以降に購入すれば、約9万円の節税になります。500万円の高級車なら約15万円の差が生まれます。これは廃止前後で「購入タイミングを1か月ずらすだけで浮く金額」です。
ただし注意点があります。登録日(ナンバー取得日)が2026年4月1日以降かどうかが判断基準になります。たとえ3月中に契約・決済していても、4月にナンバーを取得すれば廃止後の非課税扱いとなります。逆に、4月購入のつもりでも書類の都合で3月末に登録されると課税対象になるため、ディーラーへの確認が必要です。
4月以降の登録が条件です。
自工会はさらに、現在9種類・総額約9兆円にのぼる自動車関連諸税(自動車税・重量税・ガソリン税・消費税など)の抜本的な見直しも引き続き要望しています。ガソリン税には本来の税額に上乗せされた「暫定税率」が半世紀以上にわたって維持されており、こちらも廃止・見直しの議論が続いています。会長が替わってもこの方針は引き継がれており、今後の税制改正次第では維持費がさらに変わる可能性があります。
日本自動車工業会「令和8年度税制改正大綱について(片山正則会長コメント)」