全国134種のナンバープレート地域名表示の中で、ナンバー富士山は唯一「山の名前」を採用している特殊なナンバーです。従来のナンバープレートに表示される地名は「品川」「横浜」など管轄する運輸支局の名称が使われてきました。しかし、国土交通省が2004年から導入を進めた新たな地域名表示ナンバープレート制度により、地域振興と観光発展を目指す象徴として「富士山」という地名ではなく、地域の核となる地理的特徴を掲げることが認められたのです。
この制度導入にあたり、「一定のまとまりのある複数の市町村の集合」「登録自動車が10万台を超える」などの基準があります。富士山周辺地域は2000年代初頭に「富士山ナンバー創設促進協議会」という団体を立ち上げ、調査・研究を経て条件をクリアしました。特に両県が合同でナンバーを出すというケースがそれまでなかったため、関係自治体との調整に時間がかかり、2006年の他地域の先行導入から2年遅れての2008年交付開始となったのです。
富士山周辺地域は古くから経済・文化的なつながりが深く、ナンバー富士山は単なるナンバープレートではなく、地域のアイデンティティを表現するツールとして機能しています。静岡県と山梨県という異なる都道府県の境を越えて、富士山という共通の象徴の下に地域が一体となることで、郷土愛を育み、全国に向けて富士山周辺の魅力を発信するという役割を担っています。
実際、SNSでは「山梨でレアな富士山ナンバー見れた!」といった投稿も見られ、走る広告塔としてナンバー富士山が全国で認識される度に、対象地域への関心が高まる効果も生まれています。ただし一方で「地元民からするとナンバー富士山はダサく見える」という否定的な意見も存在し、評価は地域や世代によって分かれているのが実情です。
希望ナンバー制度を利用する際、ナンバー富士山の対象地域の車主が選べるのが4桁の一連指定番号です。圧倒的に人気が高いのは「3776」で、これは富士山の標高そのものを表しています。富士山の最新測定による標高は3,776メートルであり、この数字はナンバー富士山の運用開始当初から山好きの間で最高のコンビネーションとして注目されてきました。
「富士山×3776」という組み合わせは他のご当地ナンバーでは絶対に実現できない唯一無二の表現です。筆者が調査した山好きのコミュニティでは、標高ナンバーを利用している愛好家が多数存在しており、その中でも「3776」の取得に成功した人は特別な達成感を語っています。この番号は希望ナンバー利用者の中でも極めて競争率が高く、すぐに予約が埋まってしまうほどの人気ぶりです。
「3776」に続く人気番号として、複数の選択肢が存在します。「223」は「ふじさん」の語呂合わせであり、シンプルで覚えやすいという理由で支持されています。また「2255」は「富士五湖」を表す番号として、富士山周辺の観光資源を意識したチョイスとなっており、観光地として周知を広げたい地域の取り組みを反映しています。
さらに「2236」は「富士山麓」を表す番号として、富士山の裾野に広がる地域の特性を表現したものです。こうした語呂合わせや地域特性を反映した番号選びにより、単なる個人の希望ではなく、地域愛や富士山への思いが込められた象徴的な数字として機能しているのです。
希望ナンバー制度の利用には、車検証に記載された「使用の本拠の位置」が対象地域に属していることが前提条件です。自家用車の場合はほとんどが実際に車を使用する自宅の住所が登録されており、仕事用の車であれば店舗や営業所などのケースもあります。この条件を満たしていれば、インターネットのお申し込みサービスや、ディーラー、整備工場を通じて希望番号の申請が可能です。
希望番号は先着順となるため、「3776」などの人気番号は申請受付開始直後に満枠に達することが多いのです。申請時には車検証が必須となり、手続きから交付までは通常2〜3週間程度かかります。
2018年10月から図柄入りナンバープレートの交付が開始されましたが、ナンバー富士山の興味深い特徴は、同じナンバーでありながら静岡県と山梨県で全く異なるデザインになっていることです。これは各県の地理的特性と文化的背景を反映させた結果であり、同一のナンバープレートながら地域ごとの個性を表現する独自の工夫となっています。
図柄入りナンバープレートは「走る広告塔」として機能することを目的としており、各地域の風景や観光資源、地域固有の特性を視覚的に表現することで、全国の人々の目に地域の魅力を届ける仕組みです。ナンバー富士山も同じ理念の下で制作されましたが、両県の異なる視点から富士山を表現することで、より多次元的な地域発信が可能になったわけです。
静岡県版ナンバー富士山は、「美しく雄大な富士と豊かな田園」をテーマに制作されました。なだらかな富士山のふもとに、花々や茶畑が広がる豊かな田園風景が描かれています。静岡県側の対象地域は富士市や富士宮市、御殿場市など、富士山の南麓に位置する平坦地が多く、こうした地形的特性が図柄に反映されています。富士市は製紙業が盛んであり、富士宮市は富士山本宮浅間大社で知られる神社の町として古くから信仰の中心地となっています。
静岡版デザインに描かれた田園風景は、こうした農業と観光が共存する地域特性を示すとともに、南麓からいかに見えるかという視点を重視しています。実際に静岡県側から見た富士山は、なだらかで優美な山容が特徴であり、その印象がデザインに大きく反映されているのです。
山梨県版ナンバー富士山は、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の名作「富嶽三十六景」の中の一作品「凱風快晴」(がいふうかいせい)をアレンジした「山梨県版凱風快晴」として制作されました。これは赤富士として知られる特徴的な描写であり、北斎の原作同様に富士山の山頂から中腹が赤く染まる幻想的な表現になっています。
凱風快晴は北斎の代表作の中でも最も有名な作品の一つであり、江戸時代の芸術を代表するアイコンとなっています。山梨県側の対象地域は富士吉田市や富士河口湖町など、富士山の北麓に位置しており、北麓からの視点で見た富士山は、南麓とは異なる角度から捉えられます。北斎が描いた赤富士も、古い時代から伝わる山梨地方の文化的背景と深くつながっており、この伝統的な芸術表現を用いることで、山梨県の歴史と文化を象徴的に表現しているのです。
地元高校生を含む全国から101点の応募があり、2500人以上の地元住民投票を経て、最終的に現在のデザインが選ばれたという背景があります。
図柄入りナンバープレートには、フルカラー版とモノトーン版の2パターンが用意されています。交付手数料は登録自動車(自家用)の場合、中型と軽自動車の両方で基本は7,400円です。ただし、フルカラー版を希望する際は、この手数料に加えて1,000円以上の寄付金が必要となります。寄付金は地域振興事業に充てられるため、ナンバープレート交付を通じた地域への直接的な貢献が可能な仕組みになっています。
2021年10月末時点での所有台数は、山梨県で3,019件、静岡県では8,845件となっており、特に静岡県側での取得が活発であることが数字から読み取れます。総数で11,864件という一定規模のユーザーが図柄入りナンバープレートの登録・届出をおこなっており、ナンバー富士山の普及が着実に進んでいることを示しています。モノトーン版であれば寄付金が不要であるため、経済的負担を軽減したい利用者向けの選択肢として機能しています。
SNS上では「山梨でレアなナンバー富士山ナンバー見れた!」といった肯定的な投稿が存在する一方で、「地元民からするとナンバー富士山はダサく見える」「ナンバー富士山必要ないよ」といった否定的な意見も少なくありません。この賛否両論の分かれ方は、ナンバー富士山というシステムそのものが、地域によって受け取られ方が大きく異なることを示しています。
肯定的に評価する層は、主に観光客や地域外から訪れた人々であり、「富士山」というシンボルが全国的に認知度が高いことから、希少性と地域愛を感じて支持しています。一方、地元住民の中には、既に日常的に富士山を見ている生活環境にあるため、わざわざナンバープレートで強調する必要がないという考え方も根強くあります。
また、デザイン面での評価も分かれており、特に若い世代からは「ナンバー富士山はダサい」という評価が見られることがあります。これは図柄入りナンバープレート自体の視認性や美的評価と関連しており、従来のシンプルなナンバープレートを好む層にとっては、図柄の過度な装飾性が受け入れにくい場合もあるのです。
ナンバー富士山の利用者の間で知られている興味深い現象として、東北・北陸地方でナンバー富士山を見かけた際の「二度見」が挙げられます。これは、富山県の「富山」ナンバーと見間違えられるという事象です。文字の大きさや配置、全体の印象が似ているため、遠目や瞬間的には区別しにくいというのが理由です。
実際に、ナンバー富士山を保有している運転者からは、富山県などを訪れた際に、現地の人に「このナンバー見かけないので何県ですか?」と聞かれた経験を語る声も聞かれます。この一見不便な特徴は、逆に言うと、ナンバー富士山が全国で注目されている証でもあり、その存在感が一般的なナンバープレート認識の中で高いことを物語っています。
ナンバー富士山が複数都道府県で初めて実現した合同ナンバーシステムは、地方自治体の新しい協力形態として、今後の地域振興モデルの先駆けとなる可能性を秘めています。従来は都道府県ごと、あるいは市町村ごとにナンバープレートが分かれており、広域連携の象徴としてナンバープレートが機能することはありませんでした。
富士山という日本のシンボルを共通の地域資源として両県が認識し、この資源の周辺地域の発展を共同で推進しようとする試みは、都市間競争の時代における新しい地域間協力の形を示しています。他の山岳地帯や広域地域でも同様の構想が生まれる可能性があり、ナンバー富士山が先行事例としての道を開いているわけです。
図柄入りナンバープレート制度の導入によって、ナンバー富士山は単なる識別記号から「走る広告塔」へと進化しました。全国を走る車のナンバープレートに、地域の風景やシンボルが描かれることで、常に地域の魅力が全国に発信されるという仕組みです。
静岡県版の田園風景と山梨県版の浮世絵という2つのデザインが、全国の高速道路や一般道を走ることで、富士山周辺地域への観光関心が自然と喚起されます。これは従来の観光キャンペーンよりも継続的で、かつ日常的に目に触れる広告媒体として機能しており、地域のブランド価値向上に寄与しているのです。
参考:国土交通省ホームページ(ご当地ナンバー制度について)
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_000001.html
参考:富士宮市ホームページ(図柄入り富士山ナンバープレート導入の取組)
https://www.city.fujinomiya.lg.jp/sp/municipal_government/visuf80000002sct.html

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