2023年7月1日の道路交通法改正により、LUUPの電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」という新しい車両区分に位置付けられました。この法改正は、警察庁が2021年12月に発表した「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」の報告書に基づいて実施されたものです。
改正前は、LUUPの電動キックボードは「特殊小型自動車」として分類され、原付免許または普通自動車免許が必要でした。しかし、新しい法律では以下の条件を満たす電動キックボードについて、16歳以上であれば免許不要で利用できるようになりました。
この変更により、LUUPは最高速度を従来の15km/hから20km/hに引き上げ、より実用的な移動手段として利用できるようになりました。
警察庁が電動キックボードの免許不要化を推進した背景には、都市部における短距離移動の課題解決があります。従来の交通手段では対応しきれない「ラストワンマイル」の移動需要に対応するため、新しいモビリティの普及が求められていました。
LUUPのデータによると、利用者の平均利用時間は17分、最頻利用時間は7分で、1-2km程度の短距離移動が中心となっています。これは港区のシェアサイクルの平均利用時間37分と比較して大幅に短く、電動キックボードが従来の交通手段では埋められない短距離移動のニーズに応えていることを示しています。
また、高齢化社会における移動手段の多様化や、環境負荷の軽減といった社会的課題への対応も法改正の背景にあります。電動キックボードは電動で動作するため、ガソリンを使用する原付バイクと比較して環境負荷が少なく、持続可能な都市交通の実現に貢献できると期待されています。
さらに、海外では既に電動キックボードの普及が進んでおり、日本でも国際的な潮流に合わせた規制緩和が必要とされていました。ただし、パリでは2023年8月に電動キックボードシェアが禁止されるなど、安全性やマナーの問題も指摘されており、日本では慎重な制度設計が行われました。
免許不要となったLUUPですが、安全性を確保するための厳格な仕組みが導入されています。最も重要なのは、利用前に実施される「交通ルールテスト」です。このテストは警察庁が監修しており、以下の特徴があります。
テストの内容は意外に難しく、適当に回答していてはクリアできないレベルに設定されています。これにより、免許を持たない利用者でも必要最低限の交通ルールを理解してから利用開始できる仕組みとなっています。
また、2023年7月以降は本人確認が必須化され、マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、パスポートのいずれかによる確認が必要です。これにより、利用者の身元を明確にし、違反行為があった場合の追跡を可能にしています。
LUUPでは独自のペナルティ制度も導入しており、飲酒運転は即座にアカウント停止、車両の放置や信号無視などの違反も繰り返し行われる場合はアカウント停止となります。これらの厳格な措置により、免許不要でありながら安全性を確保する体制を構築しています。
法改正により免許不要となったLUUPは、利用者数の大幅な増加を記録しています。アプリのダウンロード数は100万を超え、都市部を中心に1万カ所以上でサービスが展開されています。
しかし、利用者増加に伴い交通事故も増加しています。警視庁のデータによると、2023年7月の1カ月間で発生した電動キックボード関連の人身事故は、2023年1-6月の半年間の約半数に達しました。特に20代の利用者による事故が過半数を占めており、若年層の安全意識向上が課題となっています。
事故の主な原因として以下が挙げられています。
これらの問題に対し、LUUPでは継続的な安全啓発活動を実施しています。安全講習会の開催、アプリ内での注意喚起、違反者への厳格な対応などを通じて、安全な利用環境の構築に取り組んでいます。
LUUPの免許不要化は、自動車業界にも大きな影響を与えています。特に都市部における短距離移動において、自動車の利用頻度が減少する可能性があります。これは「30年前の電動アシスト自転車解禁以来の大きな変更」とも評されており、日本の移動手段に革命をもたらす可能性があります。
自動車メーカーも電動キックボードの普及を注視しており、一部では独自の電動モビリティ開発に乗り出しています。また、カーシェアリングサービスとの競合関係も生まれており、短距離移動市場における競争が激化しています。
今後の展望として、LUUPは以下の取り組みを計画しています。
ただし、安全性の確保が最優先課題であり、利用者教育や交通ルールの周知徹底が継続的に行われる予定です。また、自治体との連携を強化し、地域に根ざした安全な交通環境の構築を目指しています。
電動キックボードの免許不要化は、都市交通の新たな選択肢として定着する可能性が高く、自動車業界にとっても無視できない変化となっています。今後は安全性と利便性のバランスを取りながら、持続可能な都市交通システムの一部として発展していくことが期待されています。
警察庁による特定小型原動機付自転車の詳細な規定について
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/tokuteikogata.html
国土交通省による電動キックボードの安全基準について
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000094.html