ジムニーシリーズは軽自動車の3ドアモデル「ジムニー」と、普通車の3ドア「ジムニーシエラ」が従来のラインナップでした。この3ドア仕様は本格的なオフロード走行や無骨なデザインを好む愛好家から支持を集めてきましたが、一方で家族利用を想定するユーザーにとっては実用性に課題がありました。後部座席へのアクセスが悪く、前席を倒さなければリヤドアが開かないという構造は、子どもを含む複数乗車時の利便性を大きく制限していたのです。
ジムニーノマドはこうした市場のニーズを的確に捉え、初めて5ドア化を実現したモデルです。延長されたボディにより後席が広くなり、独立した後席ドアが備わることで、乗り降りの手軽さが格段に向上しました。シートも大型化され座面が厚くなり、2段のリクライニング調整機能も搭載。後席の快適性向上と利便性の両立が、「ジムニーが欲しいけれど実用性が不足」という潜在需要を一気に顕在化させたと考えられます。
ジムニーノマドはインドのマルチ・スズキ・インディアが運営するグルガオン工場(ハリヤナ州)で製造されています。一方、軽自動車の「ジムニー」と3ドア普通車の「ジムニーシエラ」は、静岡県湖西市にあるスズキ湖西工場で生産されています。こうした生産地の分離は、グローバルなサプライチェーン戦略の一環ですが、同時に日本市場向けの供給制約となっていました。
インド工場での月間生産能力は当初1,200台に設定されていました。これはマルチ・スズキ・インディアが中南米、中東、アフリカなど複数の地域への輸出供給も担当しているためです。日本市場だけに生産能力を割くわけにはいかず、グローバルな需給バランスを考慮した制約であったのです。さらに国際物流や通関手続きを経ての輸入という流程も、フレキシブルな増産対応を難しくしていました。
ジムニーノマドの受注停止発表後、インターネット上では喜びと失望の声が混在しました。SNS上では「爆売れするだろ!」「これで街中ですれ違う確率が爆上がりや~」といった好意的な反応の一方で、「いつ納車?」「何年待つ?」といった不安の声も多く聞かれました。注目すべき点として、転売目的での受注を疑う声も散見されたことです。
受注停止の時点で、約5万台分のバックオーダーが存在することが明らかになりました。この莫大な受注の中には、当然のことながら純粋に購入を希望するユーザーと、短期的な転売利益を狙う投機家が混在していた可能性があります。人気車種の登録済み未使用車が市場で高値で取引されるという現象は、自動車業界では繰り返されてきた問題ですが、ジムニーノマドの場合も同様の懸念が生じていました。
スズキは受注停止後、生産体制の大幅な増強に着手しました。2025年5月30日、同社は日本市場向けのジムニーノマド供給台数を大幅に拡大することを発表します。7月からの月間生産台数を約3,300台に引き上げるという計画で、これは従来計画の約2.8倍にあたります。
この増産体制の構築には、インド工場での生産ラインの追加投資や労働力の増員、さらに日本への物流体制の強化が必要でした。スズキの経営陣はこの市場需要の大きさを判断し、短期的な採算性よりも市場シェアの確保と顧客満足度を優先する戦略的判断に踏み切ったと考えられます。月間3,300台という新たな供給体制は、約5万台のバックオーダーを処理するために約15ヶ月の期間を要することになります。
スズキは2025年10月27日、ついにジムニーノマドの受注再開時期を発表しました。2026年1月30日からの再開予定という発表は、正確には「注文受付再開」の日程であり、その時点でどの程度のバックオーダーが残存しているかによって、実際の納期見通しは大きく異なることが予想されます。
受注再開時点でもなお数万台分のバックオーダーが残存する可能性が高く、新規受注分の納車までには半年から1年以上の期間がかかる見通しです。この長期化する納期状況を受けて、市場では登録済み未使用車の流通が増加しています。中古市場での相場価格は400万円前後に達しており、正規ディーラーでの新車購入よりも高額になっているケースも見られます。これはジムニーノマドの市場価値の高さを示す一方で、適正な価格形成が市場内で成立していない状況も映し出しています。
スズキ公式サイト「新型ジムニー ノマド」受注停止に関する公式発表 – スズキによる正式な受注停止の発表内容および謝罪コメントが確認できます。
221616「ジムニーノマドが受注再開」 – 受注再開の時期、バックオーダー状況、納期予測、および中古市場での価格動向についての詳細な分析が記載されています。