ジャパンタクシーは国土交通省が定める「ユニバーサルデザインタクシー」の設定要件を満たす、トヨタ車で初認定を受けた車種として2017年10月23日に発売されました。小児、高齢者、車いす使用者、外国からの観光客など、様々な人々に対応する包括的な設計思想が根底にあります。
しかし発売後の実運用を通じて、スロープ装着に予想以上の時間を要することが判明。2018年11月には障害者団体がChange.orgで12,000人分の署名を集め、トヨタに改善要望書を提出するに至りました。トヨタは車いす乗降改善対応を発表し、2019年3月にスロープを3分割から2分割構造に変更しましたが、根本的な課題は残ったままです。改良後のモデルでも、スロープの取り外し・取り付け、取り出し・収納のために運転手が車両周辺を頻繁に移動する必要があり、トヨタが公開している動画からは習熟した人間でもスロープ設置に40秒以上、収納に50秒以上かかることが確認できます。
従来型タクシーの多くが、スロープを車両に据え付けることで乗降時間を5分以内に抑えていることと比較すると、この課題は構造的な設計選択に起因しており、今なお市場の信頼を得るまでには至っていません。
トヨタがジャパンタクシーにLPGハイブリッドシステムを採用した理由は、タクシー業界からの強い要望に応じたものです。タクシー業界では価格が安いLPガスを燃料とするLPG車が主流であり、大都市ではタクシー会社がLPGスタンドを自ら経営するケースも多く存在します。この業界特性を踏まえ、トヨタは当初積極的ではなかったLPGハイブリッド化に着手しました。
環境面での改善は顕著です。クラウンGパケ系では10・15モード基準で9.8km/L であった燃費が、ジャパンタクシーでは21km/L と2倍以上向上。CO₂排出量も同様に半減以上削減されており、「平成32年度燃費基準+30%」と「平成17年排ガス基準75%低減」を業界初で同時達成しています。
2025年6月の改良では、LPGタンク容量を52L から58L に拡大することで、航続距離の延伸を実現。従来は夏場のエアコン多用時に複数回の給油が必要だった課題が緩和され、営業効率の向上につながります。これは20万km を超える走行距離を前提とするタクシー用途における実務的なニーズに基づいた改善であり、ハイブリッド車の駆動用バッテリー劣化に伴う航続距離低下への対策としても機能します。
当初月販1,000台を見込んでいたジャパンタクシーの実際の登録台数は、2021年が年間4,081台、2022年が年間3,998台と、予想の1/3程度にとどまっています。背景には、同じトヨタの一般向けガソリンハイブリッド車「シエンタ」への顧客流出があります。
事業者がシエンタを選ぶ理由は、①値段がジャパンタクシー「和」グレード(334万円)に対してシエンタHV 5シーターで最大80万円以上安い、②タクシー化改造の負担がジャパンタクシーより軽い、③LPGスタンドの全国的な廃業が進むなかで、LPG専用車のアドバンテージが薄れた、という3点です。
全国LPガス協会のデータによると、2018年から2020年にかけてジャパンタクシーの登録台数は1万台増加した一方で、全国のLPG車タクシー全体の登録台数は2万台以上減少。つまり、古いLPG車の置き換え先が、ジャパンタクシーではなくシエンタなどのガソリンハイブリッド車、あるいは電気自動車へシフトしています。皮肉なことに、業界要望に応じてLPGハイブリッド化したことが、同じトヨタ内での共食い現象を招いています。
特に気になる点は、シエンタ福祉車両版は後部ハッチバックドアから車いす乗降が可能で、電動ウインチで約3分で乗車できる設計であり、ジャパンタクシーの15分以上という乗降時間は著しく劣位です。さらにシエンタをLPGバイフューエル仕様に改造するタクシー事業者も増えており、ジャパンタクシーの独自地位が急速に蝕まれています。
2023年3月、全国ハイヤー・タクシー連合会がトヨタにジャパンタクシーの耐久性改善要望書を提出する事態が生じました。走行距離20万kmを超えたあたりから、ハイブリッドシステム、電動スライドドア、ワイパー間欠機能など、複数のシステムで不具合が多発していたためです。
東京ハイヤー・タクシー協会の調査によれば、調査対象のジャパンタクシー95%以上で、ハイブリッドシステムのインバーター故障、スライドドアが開かない、ワイパーの間欠機能が作動しないといったトラブルが確認されました。タクシー用車両は一般乗用車と異なり、年間走行距離が3~4万kmに達することも珍しくなく、新車から5~7年で20万kmを超過します。ジャパンタクシーはハイブリッド車として乗用車での使用を前提に開発された部品を採用しており、タクシーのような高頻度・長時間稼働環境での耐久性検証が不十分だった可能性が指摘されています。
国土交通大臣の斉藤鉄夫は2023年4月18日の記者会見で「ハイブリッド車を乗用車で使っていた訳ですが、普通の場合20万km程度までということで、タクシーで30万km、40万km使ったときに、ある意味で全く新しいこれまでの内燃機関タクシーとは違うハイブリッドということで、色々なこれまでの経験していない領域に入ってきて不具合が出てくるということは、当然これは技術の開発の中であり得ることだと思う」と述べ、今後改善することを示唆しました。この発言は、開発段階でのタクシー特有の運用環境を十分に想定できていなかった実態を、公式に認めるものとなりました。
ジャパンタクシーは香港でも販売されており、当初は「コンフォート」という車名を用いていましたが、2024年3月現在では「TAXI」に統一されています。香港での導入は、左側通行・右ハンドル車を必要とする右ハンドル市場での成功事例であり、先代のクラウンコンフォートの販売実績を継承する形となっています。
さらに注目すべきは、2023年3月にタイ王国バンコク国際モーターショーに参考出品された「LPG HEV TAXI CONCEPT」です。タイの現在のタクシーはセダンタイプのカローラアルティスが主流ですが、ジャパンタクシーの導入を検討する布石と見られています。ただしタイの輸入車関税は高額であるため、将来的にタイ国内でのジャパンタクシー現地生産の可能性も指摘されています。
香港での全塗装カスタマイズ事業者や、タイでの参考出品カラーリング施工事例から、ジャパンタクシーは基本設計こそ統一しつつ、地域特性に応じた外装カスタマイズの余地を残す戦略を採用していることがわかります。
<参考リンク>
トヨタのジャパンタクシー公式ページでは、ユニバーサルデザインの理念、安全装備、環境性能に関する詳細説明と動画が公開されており、最新の仕様変更情報も逐次更新されています。
https://global.toyota/jp/jpntaxi/
全国ハイヤー・タクシー連合会と東京ハイヤー・タクシー協会が報告した耐久性問題に関する詳細なデータと、事業者からの改善要望の背景は、業界専門媒体でも詳報されており、ジャパンタクシーの実運用における実態認識に役立ちます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/トヨタ・ジャパンタクシー

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